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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第一章 城下の闇 第一部 旅立ち
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第五話 僕はただの魔力貯蔵庫

 クロゥは、カシミルドがメイ子と出掛けるところから、ずっと見ていた。

 そして内心ワクワクしていた。

 こうなる時をずっと待っていたのかもしれない。

 カシミルドが自らの力に気付き、そして外の世界へ出ようとする時を。


 井戸で悩む三人を木の上から見てクロゥは考えていた。

 世間知らずで、自分のことすらろくにわかっていない魔法使い。

 人間嫌いの魔獣。

 そしてアホそうな幼い魔獣。

 中々バランスの悪いパーティーだと。


 しかし、結界を破るには十分だ。


「よし。ついに俺様の出番か」


 クロゥは翼を広げ、木から舞い降りた。





「……という流れだ。どうだ、お前たち出来そうか?」


 三人はクロゥの作戦を聞いた。

 クロゥがまともな事を話す姿を初めて見て、カシミルドは呆気にとられた。


「メイ子がんばるなのの」

「私は大丈夫ですわ」

「……あっ。クロゥって色々考えていたんだね。驚いたよ。でもそんな簡単に、結界って壊せるのかな?」


 ケケケッっとクロゥはおどけて笑った。


「いける。いける。俺様が本気を出せば、カシミルドと二人でもやってやれるぜ? ケケケッ」


 カシミルドは半信半疑で聞いている様子だ。

 しかし、ふざけて話しているものの、嘘を言っているようには見えなかった。


「よし。同じ作戦に乗るからには、俺達は仲間だからな。お互いの事をもっと知ろうな。はいっ。端から順に得意なこと言って。シレーヌからー」


 クロゥに翼で差され、シレーヌは驚いて、水泡の中でピョンッと跳ねた。


「わっ。私ですか? 私は、水を操ることが得意ですわ。 御主人様のお力があれば、川を氾濫させたり、津波を起こしたり、大渦だって起こせますわ!!」


 始めはオロオロしていたが後半ノリノリで答えるシレーヌ。隣で聞いているメイ子もシレーヌの発言に自慢気だ。


「おう。小っせぇ割にすげぇ事考えているな。はいっ。次、カシミルド」


 カシミルドは次が自分だと分かっていたのに、ビクッとし、背筋が伸びた。


「えっと。僕は……得意……」


 ここで迷わず魔法って答えられたらいいのに……魔導書は何度も目を通したけど空振りだった。さっきの召喚魔法だって、メイ子の友達だからきっと答えてくれたのだろう。


 僕に出来ること……得意なこと?

 三人の熱い視線を感じる。


「あっ」


 カシミルドが何か思いつき、三人の目に期待が滲む。


「パンケーキ作り!!」


 カシミルドは、これだっ、と思っていって言ってみたものの、三人はサッとカシミルドから視線を外した。


「はい。次、メイ子」


 クロゥは淡々と進めた。

 カシミルドは顔を伏せて丸くなっている。

 メイ子はそんなカシミルドを見て勝ち誇った様に言う。


「ふふーん。メイ子は、得意なことがあるなのの。2つもなの」


 どこかの誰かさんは、とでも言いたげだ。


「一つ目は周りの者を眠らせることなの。もう一つは、カチィたまの魔力を使えば、怪我を治すことができるなのの!!」


 メイ子が、自信たっぷりに話す横で、今度はシレーヌが、ウチの子良くできるんです。という顔をして頷いている。


「へぇー。まぁ、二匹は使えそうだな」


 三人は不憫な子を見るような目でカシミルドを見る。

 カシミルドは顔を紅くし、ムッとしながらクロゥを睨んで言った。


「……クロゥは。クロゥは何が出来るんだよっ」


 クロゥはフッと鼻をならし、余裕たっぷりの表情を浮かべる。

 クロゥの得意なこと……メイ子とシレーヌも興味津々だ。

 鳥の癖に話せるし、態度はでかいし、それに自分達と同じ魔獣でもない。


 謎鳥。


「俺かぁ? 俺はすげぇよ。魔法が使える。それに、変身できる」

「変身? 魔獣の中でもルナール種の持つ力ですわね?」

「魔獣のことは、よく知らん」

「すごいなのの。魔法も使えるなのの?」

「おうよ」

「さすが――」


 シレーヌとメイ子は同時に何か言いかけたが、カシミルドを見て黙りこくる。

 カシミルドは心ここに在らずといった様子だ。


「俺様のことは、クロゥ様って呼んでいいぜ」

「クロゥ様なのの!!」


 三人はいつ仲良くなったのか、輪になって井戸の上をぐるぐる回って踊っている。

 よく分からない盛り上がりの中、完全にカシミルドはボッチだった。

 クロゥにも得意なことがあったとは。

 唯一の甘党仲間で、いつも愚痴ばっかり言っていて、カシミルドの事を冷やかしに来るだけだと思っていた。

 しかし、魔法も使えて? 変身もできるとは。

 でも変身ってなんだ?

 たまに大きさが違うのは変身していたからなのか?

 じゃあ……本当の姿は……?


「まぁ。細かいことは気にするな。カシミルド。お前は二匹の魔獣の魔力の貯蔵庫だと思え。大事だろ。なっ! 各自、明日の作戦の準備を怠らないこと。以上解散!!」

「おーなのの」

「おーですわ」

「お、おー!!」


 カシミルドも最後だけはノッてみた。

 クロゥがこんなに生き生きしている姿は初めて見た。


 さっきはすごくいいタイミングで、クロゥに気にするなと言われてドキッとしたが、貯蔵庫も悪くない。

 役に立てる気さえしてきた。


 もしかして、クロゥは心も読めるのでは無いだろうか。

 そんな事を考えながら、カシミルドは三人と別れ、家路へと向かった。



 井戸での作戦会議は、思っていたより長く行われたようだ。顔を上げると、もうすぐ夕暮れだ。空もすぐにオレンジ色の日に包まれるだろう。

 家の煙突からモクモクと煙が上がっている。

 ミラルドが夕食の仕度をしているのだ。

 いや、もう出来上がっているかもしれない。

 ミラルドはほぼ太陽と時を同じくして生活している。

 ミラルドが眠りにつくまで、後何時間だろう。


 これから明日のためにカシミルドがしなくてはいけない任務は一つ。


 ミラルドに明日の作戦を悟られないようにすること。


 ミラルドに気付かれず、任務を無事、終えることができるだろうか。

 クロゥは普通にしていれば大丈夫だと言ったが、普通って何だろうか。


 いつもカシミルドは食事中、笑っていたか?

 怒っていたか? ボーッとしていたか?

 普段の自分が全く思い出せない。


 ああ、家まで後少し、顔がひきつる。

 上手く笑えない。

 家の戸を開ければミラルドがもう待っているだろう。

 考えただけで、足が重い。


 家まで後数メートルというところで、バンッと音をたてて勢いよく戸が開いた。


「おかえり。遅かったじゃない。早く食べましょう」


 いつも通りのミラルドが、涼しげな笑顔でカシミルドに手を振りながら言った。

 カシミルドは驚いて思いっきりびくついてしまったが、ミラルドは気にしなかったようだ。


「ただいま」


 カシミルドは今、自分がちゃんと笑えているだろうか。と、心臓をバクバクさせながら、家へ入っていった。




 緊張から解放され、カシミルドは自分のベッドに倒れこんだ。枕に顔を埋め、安堵の溜め息をつく。


 任務は無事、完遂した。

 いつも通りの食卓だった。ミラルドに、


「今日は派手に魔法使っていたわね。洪水でも起こすつもりだったの?」


 と、聞かれた時は焦ったが、クロゥに言われた通り、


「召喚魔法を試したけど、また上手くいかなかった」


 と、返すと特に詮索もされず、納得していた。

 朝が早いミラルドは、いつも通り、食事が終わるとすぐ自室に入っていった。


「何か。拍子抜けだな。はぁー」


 カシミルドは深い溜め息をもらす。

 枕を抱きしめ、今日の事を思い返す。

 メイ子の姉が見つかって。懐かしい井戸へ行った。

 シレーヌを召喚して、クロゥも加わって、みんなで作戦をたてた。


 決行は明日。

 怒濤の一日だったな。と染々思う。


 憧れの召喚魔法。

 今まで沢山の本を見たけれど、あんなにあっさりとできるとは……だが。もう一度、他の魔獣を召喚しろと言われても出来る気はしない。メイ子の友達だったから出来たのだろう。


 結局、主従誓約についてもよくわからなかったな。

 今度聞いてみよう。


 クロゥは、色々謎だけど。

 聞いても教えてくれないだろうな。

 まぁ良いか。


 そうだ、姉さんも変なこと言っていたな。

 僕も誤魔化そうとしていたから、気にしななかったけれど、洪水でも起こすつもりだったの? ってどういう意味だろう?

 水の精霊使いなら、洪水でも起こせるかもしれない。


 でも僕は召喚士だぞ?

 他の魔法なんて使えるはずがないのに。


 今までも数々の天変地異に遭遇してきた。

 地割れ、嵐、山火事、雷雨等々。

 天災の多い地域だ。

 山の天気は変わりやすい。と、姉も言っていたから。

 ずっとそう思ってきたけれど……もし僕が水や地の精霊の力が使えるのだったら?

 僕が起こしていたとしたら?

 いやいや、四人の中で、自分だけ得意なことが無かったからって、こんな馬鹿な事、考えるのは止そう。

 魔力は高いって言われてきたけれど、上手く扱えなくて、姉さんにずっと苦労させて来たのだから。

 でもそんな姉さんを一人残して、何も言わずに自分は出ていこうとしている。


 これでいいのだろうか?


 姉を思うと胸の辺りがチクチク痛んだ。


 ごめん。姉さん。それでも僕は――。


 カシミルドの意識は、ゆっくりと夢の中に落ちていった。

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