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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
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第百十三話 炎

「何だよ……これ」


 シエルは燃え盛る炎を前に立ち尽くした。

 その隣で、ヴェルメイユは平然としている。


「私はヴァン様の所に行きますわ」


「でも、火がっ」


「私は火を操れますもの。これだけ火があれば、敵に襲われても負けませんわ」


 ヴェルメイユは自信たっぷりに言い切り、杖をかざして炎を裂くと、里の中へと入っていった。


 シエルは動けずにいた。

 この状況で自分は何が出来るのか。


 魔獣と戦う覚悟もない。

 ミィシアの仲間に、杖を向けたくなかった。

 そんな自分に何が出来るのか。


 その時、視界の隅で何かが動いた気がして、シエルはそちらへ警戒心を露に目を向けた。

 隆起した大地の隙間に白い何かがうごめいていた。


「あれは……」


 土で汚れた白い三角の耳。見覚えがあった。


「ミィ……シア?」


 シエルはミィシアに駆け寄り抱き上げた。

 小さな身体は震えていた。生きている。


「大丈夫か?」


「ぅ……」


 ミィシアは瞳を固く閉じたままだが僅かに唸り声を上げた。

 しかし、大分弱っている。

 シエルはその冷たい背中を必死で擦った。

 その時、首元に固く冷たい何かが背後から当てられた。


「おい。ミィシアから手を離せ……」


「……お前。レオ……ナールか?」


 シエルはその声で背後にいるのが誰かすぐに分かった。そしてそれを理解した時、ミィシアがなぜシエルを兄と呼んで抱きついたかも、レオナールがずっと誰を探していたかも、全てが繋がった。


「ミィシアを離せ。でないと首を掻き切る」


 シエルはゆっくりと地面にミィシアを寝かせた。

 即座にミィシアをレオナールが抱き上げた。


 頬を擦りよせ、レオナールはシエルの前で大粒の涙を流している。


「シエル。と言ったわね? 貴方は蜥蜴側の人間なの?」


 シエルの前には、いつの間にかパトが立っていた。

 手には短剣が握られ、それはシエルへと向けられてている。


「俺は、違う。あんたは、何故魔獣と?」


「……私は──」


「パト様っ。ミィシアが息をしてない!」


「えっ。そんな……ミィシアっ」


 必死にミィシアを擦る二人を見て、シエルはメイ子を思い出した。


「あ、あいつは? ほら、カシミルドの白いチビ魔獣の……」


「メイ子……。そうか。でも、ここにはあいつは」


「カシミルド君が来たら呼んでもらいなさい。私は里の中へ行くわ」


「で、でも。パト様は戦ったり出来ないですよね」


「それでも、ここで待つなんて出来ないもの。里の者を避難させなきゃ」


「なら。俺が一緒に行く。少しは役に立てる」


 シエルの申し出にパトが戸惑っていると、空から声がした。


「──私が行く。パトリシア。里の中を案内してくれ」


 上空から飛び降りてきたのはテツだった。


 空里に閉じ込めた筈のテツが、シエルの目の前に立っていた。


 テツはどこから来たのだろうか。

 テツの登場に驚いていると、いつの間にかその後ろにクロゥの姿があった。


 それに、カシミルドもカンナもルミエルもいた。

 シエルは会わす顔がなく視線を落とした。


 パトはテツを睨み冷たく言った。


「……私は貴方を信用していないわ」


「それで構わない。カシミルド君は、メイ子君を呼べ。それから、火を消してくれ」


「はい。──メイ子っ」


「はいなののっ」


 メイ子はレオナールが抱えるミィシアの治療を始めた。ルミエルはそれを見て首をかしげた。


「私の光の加護があった筈なのに。何があったのかしら」


「多分、それがなかったら、命は無かったと思うなのの」


「なあ、メイ子。ミィシアをお願いできるか? 俺は里の中へ行く」


「大丈夫なの。レオナールは行くなの」


「ああ」


 パトを先頭に、テツとレオナール、そしてシエルは炎に包まれた里の中へと進んで行った。


 カシミルドは炎を消すために杖をかざした。

 そして水の魔法を唱えようとしたら、声が聞こえた。


「君は……力を貸してくれるんだね──オンディーヌ」


『随分と東の果てまで来たのだな。ここは空気が淀んでいる』


「そうだね。魔獣の里を守りたいんだ。力を貸して」


『勿論だ……』


 カシミルドは虹珊瑚の杖を地面に突いた。

 青白い魔方陣が里全体へと広がっていった。


 ◇◇


 ヴァンとエルブは互いに連携を取りながら里を疾走した。

 里は閑散としていた。

 逃げ遅れたとみられるルナールをヴァンが風の魔法で閉じ込め、エルブがそのルナールを蔦で絡めとり捕縛する。

 しかし、ラージュの火が邪魔で仕方なかった。


「ヴァン。あんまりいないね」


「ああ。奇襲を察知し逃げたあとか。我々の前に誰かに襲われたか……」


「あー。後者みたいだね」


 炎に巻かれて見えなかったが、気付くとヴァンたちの足元には傷だらけのルナールが転がっていた。


「息は……あるよ。でも酷い怪我だ。鋭い刃物で斬られたみたいな傷だね。動かさない方がいい」


「……あいつにやられたみたいだな」


 ヴァンの視線の先には、レティシアや数名のルナールと交戦中の男がいた。両手に剣を握り攻撃の手数が多く、複数相手でも余裕そうな男だ。


「あれが蜥蜴の尻尾?」


「さあ? 確かなのは敵だということだな」


 ヴァンは杖を構えて全身に風を纏った。


「えっ。ヴァン、相手は剣だよ? 部が悪いでしょ」


「都合の良い敵などいない。エルブさん。援護とルナールの捕縛お願いします」


「分かった……任せろ。──我が名はエルブ=テラン……」


 エルブの詠唱にルナールが先に反応し、続いて蜥蜴の尻尾──ディーンも察知し身を翻し木の上に退避した。

 しかし、その次の瞬間、大地が大きく揺れ始め、エルブ目掛けて地面が裂けた。


「うわぁぁ。えーーー! ヴァン!?」


 エルブは裂けた大地を避け、自身が出した蔦と木を結び空中で弾みながら叫んだ。

 ヴァンは木上に待避し、エルブに応えた。


「エルブさん。どうした!?」


「光ったぁぁぁぁぁ!!」


 エルブは胸のペンダントを掲げていた。

 ついでにエルブの瞳も輝いている。


 しかし今はそんなことで気を散らしている場合ではない。右も左も敵だらけなのだから。


「エルブさん。それは後だ。今は──」


「今は……ルナールに集中した方がいい」


 ヴァンの背後からディーンの低い声がしたかと思うと枝を切り裂かれ、ヴァンは裂けた大地の間で獲物を待ち構えるルナール達の元へ真っ逆さまに落ちていった。


「ルナールは任せた。英雄殿?」


「貴様っ」


 ヴァン突き落とし嘲笑うディーンは、里の奥へと去っていった。




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