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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
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第百十一話 幕開け

「私には無理ですの。テツ、他の方法を考えなさい」


「しかし……」


 ルミエルとテツが言い合っていると、空から羽音がした。見上げるとそこには黒い翼のクロゥがいた。


「よっ。何してんだ、お前ら。なんかヤバそうな気配がしたから来たんだけど」


「おお。クロゥ君。タイミングバッチリだな。あの黒煙の場所まで行きたい。連れていってくれないか?」


「えー。俺が?」


「それが無理なら、ルミエル君に頼もうと思っていた」


「へー」


 クロゥはルミエルに視線を送った。

 しかしルミエルは不機嫌そうに睨み返してきた。


「仕方ねぇな。ルミエル、俺に貸しだな。後で聞きたことがあるんだ。絶対俺の質問に答えろよ」


「ふん。いいわよ」


 ルミエルが承諾するとクロゥは早速テツを持ち上げた。


「あー。こいつ重いんだった」


 テツには魔法が効かない。

 クロゥの腕力のみでテツを持ち上げる。


「悪いが頼むぞ。クロゥ君。……しかし、どこに行っていたんだ?」


「ん? リリエルさんと話していたんだ。魔獣が……パトって奴が、天使を敵対視してるから、何でか気になってな。お前は知ってるか?」


「天使を敵対? そんな覚えはないな……」


「……そうか。──なぁ。これから何があっても、俺は手を貸さないからな」


「カシミルド君が困ってもか?」


「……それは別の話だな」


 その後、テツが話しかけてもクロゥは何も言わなかった。カシミルドはカンナを運ぶこととなる。


「カンナ。向こうに着いても、僕から離れないでね」


「うん……」


 カンナは水鏡に視線を落とした。  

 鏡の中には燃え盛る紅い炎が映っていた。


「これが、パトさんが見た未来なのかな」


「分からないけど……早く行って、火を消さないと……」


「そうだね……」


 カシミルドの声は緊張の色が窺えた。

 この鏡の先──炎の中で待つのは、先発隊の人たちだろうか。それとも──。


 ◇◇


 先発隊の三人は、ヴァンを先頭にルナールの里を目指し、里の入り口まで来ていた。教団の精鋭部隊も一緒だ。


「あそこか?」


 ヴァンが尋ねると、籠の中のミィシアは、その小さな瞳をゆっくりと瞬きし頷いた。


 里の入り口は巨木と巨木の隙間にある、洞穴だった。洞穴の前には誰もおらず、気配すら感じない。


「先ずは俺とエルブさんの二人で行く。ラージュはここでヴェルメイユの到着を待ってくれ」


「ああ。だが、向こうが好戦的だったらどうすんだよ。さすがに二人じゃ危ないだろ?」


「そんなことはない」


 ヴァンは言って右目の眼帯に手を添えた。

 最悪この瞳を使えば、自分以外誰も残らない。


 ヴァンの手の動きに、エルブは過敏に反応した。


「えー。やめてよヴァン。それは最終手段だからね。──それからラージュ。僕が一番得意とするのは隠密行動だからね。要するに、ラージュや他の精鋭部隊の皆がいない方が、僕たちは安全なんだよ」


「そりゃぁご立派なことで」


「では、行ってくる」


 ヴァンはミィシアを籠から出し抱きかかえ、洞窟へと足を向けた。


 二人が洞窟へ入って行くと、木の影から現れた教団の制服を着た一人が、精鋭部隊が不思議そうに見守る中、ラージュに歩み寄り耳打ちした。


「おお。そうか。じゃあ、俺も行かないとな。──精鋭部隊。皆、俺についてこい」


 ラージュはそう号令を出すと、ヴァン達が目指した洞窟とは違う方向へと隊を向けた。


 ◇◇


 洞窟を抜けると丸太で作られた塀が見えた。

 ミィシアはそれを見るとヴァンの腕の中で震えて言った。


「塀の向こうが里なの……でも変。誰もいないのはおかしいの。洞穴に見張りがいないのも変」


「まさか、空里か?」


「ううん。この塀の向こうからみんなの気配はするんだ。でもね……とても殺気立っているの。声をかけてみるね」


 丸太の塀の上には見張り台も設置されていた。

 しかしそこにルナールの影はない。


 ミィシアは、塀の向こうへ届くように遠吠えをした。その声は柔らかく、皆に無事を知らせているようだった。


 そしてその直後、見張り台の上にルナールが姿を表した。


「ミィシア!?」


「れ、レティ姉!」


「そうか。人間に捕らえられていたとは本当だったのだな。貴様、ミィシアを返せ!」


 レティシアは激昂してヴァンを睨み付けた。


「違う。俺はミィシアを送り届けに来ただけだ。戦う意思はない」


「うそをつくな! あれだけ同胞を殺しておいて!」


「えー。僕らは君の仲間を傷つけちゃいないよ。聞きたいんだけどさ、この里に人間の女の子はいる? 髪の色は薄いも──」


「だまれ! 人間などいるはずないだろっ。貴様ら、洞穴のルナールをどうしたのだ!?」


「洞穴には、誰もいなかったわ」


 ミィシアがそう言うと、レティシアは目を見開いて絶句した。洞窟横の木の上から、塀に向かって何か大きなものが投げつけられたのだ。


「うわぁっ」「なっ……」


 それを見て、エルブは驚き、ヴァンはミィシアの視界を手で覆った。


 木から投げ捨てられたのは、四体のルナールの死体だった。


 その誰もが手足を肥大化させ、怒りを露にした表情で亡くなっていた。そして、特徴的な耳や尻尾はその身体から失われていた。


 その姿は確認できないが、木の上から青年の声がした。


「ヴァン様。洞穴にいた魔獣どもは、撃退し、耳と尾を回収しました」


「だ、誰だ!?」


 木の上へ向け叫んだヴァンに、レティシアは怒りを向けた。


「お前がヴァンか? お前の命で殺したんだな!?」


「ち、違うよ。僕たちは何も知らないよっ」


「そうだ。これは……何者かの策略だ。騙されるな、ルナールよ」


 否定するエルブにヴァンも同意しレティシアに発言するも、ヴァンの言葉をレティシアが信じる筈もなかった。


 弓を向け、ヴァンに照準を合わせる。


「問答無用。取り入ろうとしても無駄だ。ミィシアを解放しろ」


 ミィシアは人型に戻ると、ヴァンの前へ飛び出した。


「やめて、レティ姉。ヴァンは違うの。これはきっと、いつも里を襲っていた奴らの仕業よ! ヴァンは味方だよ。ヴァンに協力してもらおう!」


「そうだ。力になる!」


「ミィシア。退きなさい。人間なんか信じられるわけがないでしょう。馬鹿なこと言わないで!」


 レティシアがそう叫んだ時、木の上から火矢が塀に向かって放たれた。そして大地が微かに揺れ始めた。


 ヴァンも異変を察知し揺れる足元に目を向けた。


 その瞬間、ミィシアの足元の大地が隆起し、数十の木の根が大地を裂いて上空へと根を伸ばした。目の前のミィシアの身体を引き裂いて──。


「ミィシアっ」


 ヴァンは手を伸ばすも、ミィシアの身体は上空で一瞬だけ光を放ち、霧散した。


「ミィシアぁぁぁぁぁぁ!?」


 レティシアの悲痛な叫び声が、ヴァンの頭にこだました。









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