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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
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第百十話 脱出

 シエルは森の中を駆けていた。


 今頃テツ達はどんな顔をしているだろうか。

 考えただけで、指先がわずかに震えた。

 でも、これで良かったのだと自分に言い聞かせる。

 

 後発隊は邪魔であることは確かだ。

 テツは何を考えているか分からないし、兄のヴァンが言ったように、カシミルドは危険因子である。


 王都の地下で見た魔法、そしてここへ来る道中も身勝手な魔法ばかり。それも自属性の魔法以外も難なく操る。


 カシミルドは魔獣の敵ではない 。

 それは分かっていても、暴走しないという確信はない。


 あのミィシアという魔獣の言っていたことが確かなら、里には近づけない方がいいのだ。

 森を火の海にはさせない。

 その為にはこれでいいのだ。


「シエルっ。ちょっと休まない!?」


 後方から息を切らせたヴェルメイユの声がした。

 シエルが俊足の魔法をヴェルメイユにも駆けたのだが、体力は消費する。

 そろそろヴェルメイユは限界みたいだ。

 シエルは走りながら尋ねた。


「後、どれくらいですか?」


「まだ……先よ。ちょっと、ストップ……」


 座り込んでしまったヴェルメイユの横に、シエルも仕方なく戻り、立ち止まった。


「……置いていってもいいですか?」


「えっ? 酷いわ。女性を一人こんな森の中に置いていくなんて!?」


「……兄様達は、もう着いているかもしれません」


「ええ。到着していると思うわ。多分……」


 ヴェルメイユが言いかけた時、遠方から地鳴りが聞こえた。


 木々が揺れ鳥が舞い飛ぶ。シエルとヴェルメイユは震源地と思われる北へと目を向けた。


「な、何で……」


 北の空に黒煙が上がっていた。

 ミィシアの予言が頭に過る。

 その通りになってしまったのか。

 しかし、カシミルドは遠ざけたのに……なぜ?


「何か……始まってしまったようね?」


「ヴェルメイユ様、あれは……?」


「さぁ? 行ってみないと私には分からないわ。でも。あの黒煙、そしてこの気配……面白いことになったわね」


「面白いって……早く行きましょう」


「そうね。行きましょう」


 シエルはまた俊足の魔法を唱え、黒煙を目指した。

 ヴァンは争いを避けたがっていた。

 それなのに何が起きたのか。

 シエルは胸騒ぎを覚え、SARAに足を速めた。


 ◇◇


 その頃、カシミルドとカンナは、パトとレオナールと森の中にいた。北の方から異変を感じ、耳を傾けていた。


「遠くで爆発のような音がしたわ。北の方ね……」


 カシミルドとカンナにそれは聞こえなかったが、ルナールの二人には聞こえていた。


「パト様。それって……俺、先に行きます」


「待って、私も。──カンナちゃん。私達は先に行くわ。爆発のあった場所なら匂いで分かるから。じゃあっ」


「あっ……」


 パトとレオナールは北の方へと走っていった。

 カシミルドとカンナはその場に残された。


「カシィ君。テツさんが来たら私達も……」


「そうだね。……でも、本当に来れるかな……」


 そう。テツを運ぶことは、カシミルドに出来なかった。取り敢えずカンナと空里の外へ飛び、ルミエルがテツの元へ向かったのだ。


「ルミエルさんなら出きるかもってテツさんは言ってたけど……大丈夫かな?」


「分からないけど……あっ。カンナ、水鏡を見て」


「えっ……これは……黒煙? 何があったのかな。急がないと」


「うん。でも、テツさんをどうにかしないと……」


 その時──上空から突風が吹いた。


 その風はカシミルド達から数メートル離れた所の大木を裂き、真っ二つになった木が倒れてきた。


「カンナっ避けてっ」


「きゃぁぁっ」


 カシミルドはカンナを抱いて横に飛んだ。

 枝がバラバラと降り注ぐ。


 そしてその隙間から、割れた大木の真ん中に佇む人影が見えた。


「え……テツさん?」


 剣を腰に戻し、テツは上空を見上げた。

 するとルミエルも空から落ちてきた。


 ルミエルは手から鎖を出し、それを木に巻き付け見事、地面に着地した。カンナは驚いてカシミルドに抱きついていた。


「び……ビックリしたね」


「う……うん」


 テツは険しい表情でカシミルド達を見て言った。


「北から……黒煙が上がっていた。急ぐぞ」


「は、はい」


 テツ達は上空から北の様子が見えていた。

 テツは北へ向かって歩き出そうとしたが、急に足を止め、ルミエルに向き直った。


「ルミエル。もう一度飛んであの黒煙まで連れていってくれないか? それが、最速だ」


「そ、そんなことしたら!?」


 ルミエルはテツに小声で文句を言い出した。

 上空で何があったのか、カシミルドとカンナには分からなかったが、聞かれたら不味いことなのだろうか。


 しかし、ルミエルがどうやってここまで飛んできたのか、カシミルドは興味があった。それに、飛んでいった方が確実に早い。


 テツは真剣な顔でルミエルに言った。


「ならば、ルミエル君の正体をカシミルド君にバラそう。……急がないと……駄目なんだよ」


 ルミエルは黙り込んで俯き、先ほどのことを思い返した。


 ◇◇


 十分ほど前、ルミエルは箒に乗ってテツを何とか運ぼうと四苦八苦していた。


 鎖で縛ろうにも、テツはそれを受け付けない。

 鎖を使わないとなると、ルミエルの力でテツを持ち上げなくてはならない。

 そんな筋力はルミエルにはなかった。


「だったらこうしよう。このまま飛べばいい」


 テツはルミエルを抱き上げた。


 ルミエルがテツを持ち上げるのではなく、テツがルミエルに掴まることにしたのだ。


「ちょっとっ!? でも、これなら……。落ちたら拾いませんわよ。掴まってなさいよ?」


「落ちても放っておいて構わない。着地ぐらい自分で出きる。それより、飛べるのか? カシミルド君は羽が消えたぞ?」


「ふんっ。私をカシミルドと一緒にしないでくださる? 私は人ではないのよ。翼を魔力で具現化させているカシミルドとは……違うのよ」


「さすが天使様。よろしく頼むぞ」


「行くわよ……」


 ルミエルは背中の翼をはためかせ、テツを腰に携えたまま空へと飛んだ。


 青い空に白い翼が映えて見えた。


「ルミエル君の翼は、アグと一緒だな……」


「はい? 翼は見えないように……あ、テツのせいね!?」


 ルミエルは翼を魔法で隠したつもりでいた。

 しかし、それはテツによって無効化されていた。


「これじゃあカシミルドの前に行けないわ」


「いいんじゃないか、私は天使ですって降り立てば」


「冗談じゃないわ。どうしてテツは私の魔法が解けるのよ。これでも私は光の大天使よっ!?」


「それは……。呪いのようなものだ。天使の力は人が持つべきではなかったんだ。だから俺は拒絶することを選んだ。あの時の俺の誓いが、アグを拒否し……呪いのように魂に刻まれ、人がまた間違いを犯そうとしている時代で生を受けているのかもな」


「呪い……そう。呪いは、生まれ変わっても消えないのね。その魂に刻まれ、記憶すら引き継ぐ。……テツはどうして記憶を取り戻したの?」


「前世の日記を見て、思い出したんだ」


「ああ。そうでしたわね。きっかけがあれば、呪われた魂を持つものは、記憶を取り戻せるのかしら? 今の彼も残したまま、前世の彼も……あれは……?」


 ルミエルは北の方を目を細めて見つめた。

 強い魔力の波動を感じ、その次の瞬間、鳥が飛び交い黒煙が上がった。


「あれは……ルミエル君。カシミルド君達のところへ急ごう」


「でも……」


「では先に行く」


 そう言ってテツはルミエルから手を離した。


「ちょっと」


 光の鎖を伸ばすもテツによって弾かれた。

 テツは空中で剣を抜くと、大木に向かって剣を構え、斬った。

 その反動で落下の威力を打ち消しているのだ。


「何なのよ。あの人……」


 ルミエルは落ちていくテツを見下ろしながら、翼を魔法で透明化させ、箒に跨がろうとした。


「あ。箒……忘れてしまいましたの」


 ルミエルは諦め、そのまま降下していった。







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