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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
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第百話 パートナー

「カシミルド。プリンが落ちましたわよ? あら……カンナ。テツと一緒だったのね」


「…………」


 カシミルドはテツとカンナを目を丸くして見ていた。


 それは、カンナがいつもと違ってとても綺麗だったから。

 それは、カンナがテツの隣に当たり前にいるから。


 テツはカシミルドの方を見ていつもの様に微笑んだが、カシミルドはその笑顔に素直に笑えなかった。


 顔がひきつる。笑おうとしても笑えない。

 カンナの隣に何故テツがいるのか、理解できなかった。


「カシミルド。プリン食べましょ。ほら、あ~ん?」


 体は反射的に口を開きデザートを受け付ける。

 しかしあまり美味しくなかった。


「美味しいですの?」


「……うん。あんまり……」


「では次はこちらですの!?」


 無表情のまま次々とデザートを食べさせられているカシミルドを見て、テランは「若いっていいな……」と呟き、胸のロケットが光っていることに気付く。


「ぁぁ~。やっぱり、テツ様のせいだ……。ヴァン、ちょっと抜けるね。すぐ戻るから……」


「ああ。大丈夫か?」


「うん。この不良品を部屋においてくるよ。ずっと光られても困るし。じゃ!」


 テランはブツブツ文句を言いながら会場を後にした。

 途中、テツの近くを横切り、ペンダントの光が強くなったのを感じ、深いため息をついた。



 ◇◇



「テツ様。こちらの方は……?」


 テツはエテの女性研究員に尋ねられ、カンナと視線を交わした後、笑顔で答えた。


「彼女は後発隊のメンバーですよ」


 カンナは女性陣の視線を浴び苦笑いを作る。

 テツを見る彼女達の視線と、カンナに向ける視線の落差についていけなかった。


「でも、ご一緒に現れるということは……」


「ははは。ご想像にお任せしますよ」


「やっぱり……」


 こそこそと研究員の間で噂が作られていく。


 カンナは今にも吐きそうなほど緊張していた。

 それを察してか、テツは会話していた女性達に挨拶し、場を離れる。そしてカンナに耳打ちした。


「すまないな。さぁ、何か食べよう」


「は、はいっ」


 ガチガチに緊張したカンナの声音にテツは口元を押さえて、静かに笑うのだった。



 ◇◇



 ラルムの部屋で仕度を済ませたカンナは、ドレス姿の自分を見て驚いていた。


「ら、ラルムさん。自分じゃないみたいです……それに、背中がスースーします。あ、足もスースーします!?」


「似合ってるわよ。薄桃色のレースのロングドレス。レーゼさんならもう少し落ち着いた雰囲気のドレスを選ぶかと思ったわ」


「あ……テツさんが選んでくれたそうです。私の髪色と同じ色をって……」


 鏡の前で髪飾りを刺し、ラルムはカンナの言葉に疑問を抱く。桃色の髪など見たことがないからだ。


「あら。カンナは桃色の髪をしているの? ふーん……確かに、珍しい色ね。何処の生まれなの?」


「あ……分からないんです。私、本当の両親を知らないんです……」


 平然と言うカンナに、ラルムは戸惑った。

 興味本位で聞いていい話ではないと思ったからだ。


「ご、ごめんなさい…… 」


「いえいえ、私こそ変なこと言ってしまって……折角、ラルムさんが笑ってくれるようになったのに……」


 ラルムはそれを聞いてクスッと微笑んだ。

 さっきまで子どもみたいに大泣きしていた自分を思い出したからだ。


 小さい頃はよくサージュ兄さんに意地悪されて泣いていたが、王都に移り住んでからそんな事もなかった。この視察に出てから、泣いたり笑ったり……忘れていた子どもの頃の自分と再会したかの様だ。


 きっと、カンナやメイ子のお陰だ。


「私、友達と呼べる人がシエルしかいないの。でも、カンナだったら、友達と呼べるかもしれないわ……」


 ラルムはにっこりとカンナへ微笑んでいる。

 

 こんなに優しい目でラルムに見つめられる日がくるなど、カンナは想像したこともなかった。嬉しくて両手で胸を押さえる。


 ──その時、扉がノックされ、侍女が応対した。


「ラルム様。テツ様がいらっしゃいました」


 何故テツ様が来るのだろう。

 カンナとラルムは顔を見合わせて首を傾げた。


「どうぞ。通してください」


 侍女が扉を開くと、テツが軽く会釈して入室してきた。

 その服装は、カンナが城で初めてテツとあった時と似た、紫色のタキシード姿だ。


「やあ、ラルム君。こちらにカンナ君がいると聞いて迎えに来たのだ」


「えっ。あ、ありがとうございます」


 慌ててお辞儀するカンナをラルムは目を細めて見た。


「テツ様。その意図は?」


「ん? やはり説明しておくべきか」


「勿論ですよ」


「えっと……どうかしましたか?」


 カンナは二人の会話の意味が分からず二人を交互に見やる。

 すると、テツはカンナの元まで歩み寄ると跪き手を取った。


「てっテツさん?」


「カンナ君。今宵、私のパートナーとして会に参加してくれないか?」


 テツの率直な物言いにラルムは驚いてい立ち上がる。


「て、テツ様。本気ですか!? カンナは庶民ですよ。カンナの立場も……」


「ああ。分かっている。──今宵だけでいい。パートナーのふりだけでいいんだ。こういった会は苦手でね。一緒にいて欲しい……」


 カンナはその真っ直ぐなテツの視線に完全に飲まれた。

 寂しげな紫色の瞳。自分を必要としてくれている。

 断れる筈などないのだ。


「は……はい。分かりました。御迷惑お掛けするかと思いますが……よろしくお願いいたしますっ」


 テツはカンナの手を取り、パートナーを承諾した。

 ラルムに見送られ、二人は会場へと向かうのだった。




 二人が出てすぐ、今度はラルムにお呼びがかかった。


 ラルムは眼鏡を取り鏡台におく。

 夜会の時は眼鏡をいつも外している。

 ガラスの箱から出した、丸くて薄い小さな水のレンズを目に入れた。


 これはフォンテーヌ家の魔法道具の一つ。

 これを目に入れると、眼鏡が無くても水のレンズのお陰で見ることができるのだ。


 しかしまだまだ開発途中で、時間は一時間ほどしか持たないし、ラルムの視力とはあまり合っていなくて、視界が少しボヤけている。


 だが、何もないよりはマシである。

 ラルムは椅子から立ち上がり、扉へと進む。

 ヒールが高いし、足も心も挫けてしまいそうだ。

 しかし、何とか笑顔を作り扉の前で待つ婚約者に挨拶した。


「ラージュ様。お待ちしておりました」


「ふがっ!」


 ラージュはラルムを見て奇声を上げた。

 付き添いできていたヴェルメイユが怪訝そうに眉を潜めラージュを見上げる。ラルムも意外な反応に驚いていた。


「へっ?」


「い、いや。さぁ。行こうか! ラルム!」


 言って歩みだすラージュだが、しばらく進んだ後、自室の前を通り過ぎる時に急に立ち止まった。


「ラルム、ちょっと忘れ物をした。急いで取ってくる──ヴェルメイユ。お前も来い!?」


「な、何で私もっ?」


 ヴェルメイユは叫び声を上げながらラージュの部屋に引き込まれていった。

 ラルムはよく分からないまま廊下に一人残されてしまった。



 ◇◇



「何だあれはーーーーー!!」


 ラージュは部屋に入り、そのままバルコニーへと一直線に飛び出すと、湖へ溶け行く夕陽に向かって大声で叫んだ。


「あんたが何なのよ……」


 ヴェルメイユが悪態を吐くと、ラージュは勢いよく振り返りヴェルメイユの両肩に手を乗せ激しく揺さぶった。


「瞳がキラキラしてて青いんだ! それはまるで朝陽に照らされたエテの湖のように美しく……直視できん!」


「ちょっと……いつから詩人になったのよ。それにあんまり大声だすと聞こえるわよ?」


「そ、それはいかん。──なぁ。さっき、部屋から出てきた時、聞いたか? ラージュ様。お待ちしておりましたって言ってたんだぞ?」


 俄然興奮状態のラージュに、ヴェルメイユは冷静に対応した。


「うん。普通よ。普通」


「それにあのドレス、見たか? 胸元は隠されていても、あのボリューム。そしてスリットがぁ!!」


 そう叫んで床に崩れるラージュ。


「キモいわよ。見すぎ。──私なんか背中ほとんど出てるし、前だって際どいわよ!」


「ヴェルメイユ……お前の何かどうでもいいんだよ!!」


「……喧嘩売ってるのかしら?」


 ヴェルメイユは、ラージュの後頭部をヒールでグリグリと踏みつけてやりたい衝動にかられた。しかし、こんな奴で靴を汚したくない。


 ラージュは頭を抱え、悲観した声をあげた。


「──ああ。ヴェルメイユ、だめだ我慢できない」


「……何を我慢できないのよ?」


 ヴェルメイユは暑苦しいラージュに呆れて返っている。

 質問したものの返答を聞く気はなかった。

 そんなヴェルメイユに向かって、ラージュは立ち上がると、ある決意を述べた。


「今日はラルムとずっと共に過ごす」


「そうね。それも普通よ。普通。……あんまり喋ると嫌われるわよ。落ち着きなさいね」


「き、嫌われるだとぉぉぉぉぉ……」


 ラージュは発狂し床におもいっきり頭を打ち付けた。


「いやいや。そういうところよ……面倒ね……待たせたら嫌われるんじゃないかしら?」


「はっ。いかん。嫌われたくない。──そうだ。既成事実を作ればいいんだ」


「へ?」


 額から血を流し台ラージュの瞳が、メラメラと燃え始める。


「ヴェルメイユ。協力してくれよ?」


「…………」


 嫌だとも言えず、しかし頷くこともせずに、ヴェルメイユはラージュの燃えたぎる瞳を冷めた目で見据えるのだった。





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