表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
149/166

第九十七話 本当の髪色

 スピラルは真っ赤なドレスとにらめっこをしていた。


「はぁ……」


「あら? 可愛いくてよ。スカートは膝上、裾はふんわりとフリルが段になっていて、ドロワーズもありますの」


 ルミエルはドレスを持ち上げスピラルに合わせた。


「や、やめろよ!」


「でも、これしかないのでしょう?」


「はい。スピラルのサイズですと、これしかないです」


 レーゼは赤いドレスを見て真面目な顔で言い切った。

 スピラルは肩を落とす。すると、アヴリルはスピラルを心配するように頬にすり寄った。


「こんなの、着たくないよ……」


「でも、夜会は楽しいですのよ? 豪華なディナーに、デザートだって沢山あるのよ?」


「豪華なディナー……」


 スピラルはその言葉に心がぐらついた。


 しかし、何故こんなに露出の多いドレスなのだろう。

 しかも赤。一番嫌いな色だ。


「よりによって、赤いド派手なドレス……これ、誰が頼んだの?」


「あ……私が。スピラルは赤い髪だから、似合うかな……と思って」


 レーゼは頼りなげに挙手をして発言した。

 スピラルはため息と共に、アヴリルを抱きしめ顔を伏せる。


「赤髪のままじゃ駄目だから、今は焦げ茶色にしているんだけど。それに、皆にやっと男だって言えたのに……」


「あ、言ったんですか。それは良かったです」


 レーゼは意外だとばかりの顔をした。


「そっか。レーゼは知らないのね。温泉で堂々と男湯に乱入したのよ?」


「堂々と乱入って……でも、スピラルは、こういう格好が好きでしているのでは……」


「違うから!! この教団の制服だって女物って知らなかったし、皆が勝手に勘違いして……言い出せなくて……。女物の服なんか、吐き気がするほど嫌いなんだ……」


「吐き気がするほど……ね。だったら尚更、このドレスを着るのよ!」


 ルミエルは感情を高ぶらせながら赤いドレスを掲げ、レーゼとスピラルはそれを冷めた目で見つめた。


「何よ。そんな気の抜けた顔をして! スピラル、苦手な物は克服しましょう。これはきっとチャンスよ!」


「苦手を克服……って、女装を克服する必要はないだろ。俺は男なんだから」


「……可愛いは正義なのよ。スピラルはこれを着ても可愛いの。だから着る権利も資格もあるのよ。──それに、豪華なディナーは食べたくないの?」


 ごくり、とスピラルの喉がなる。

 ルミエルはもう一息と思い、更に言葉を紡いだ。


「さあ。苦手を克服して、美味しいディナーを食べましょう……このドレスを着れば夜会に参加できる。着なければ会場には入れない。ディナーも……なしよ」


 スピラルは悩んだあげく、ルミエルに尋ねた。


「……俺にこのドレスを着せたいだけだろ?」


「あら。バレまして?」


「レーゼさんは? 男物を着るの? 女性なのに……」


「はい。……あ。私が女だと気付いてたのですね。まぁ、そうですよね。レーゼルの事も知っていますしね」


「うん。……でも、レーゼさんがそうなら、俺もそのドレスにしようかな」


 スピラルは赤いドレスを手に取った。

 そしてまたドレスとにらめっこをしている。

 アヴリルはドレスに体当たりして楽しそうだ。


 そんな一人と一匹を、ルミエルは満足そうに眺めた。


「ふふふ。スピラルはドレスで決定ね」


「ルミエル様。別に無理にドレスを着なくても、教団の制服ても良かったのでは?」


「折角だから、みんな正装がいいですの。カシミルド達の分もレーゼが決めましたの?」


「私が決めたのはスピラルとカシミルドの分だけですよ」


「えっ。カシミルドの服は私が決めたかったですの……。テツ達はまぁ、自分で決めるわよね……あら? カンナは衣装には興味なさそうでしたけれど、自分で決めましたの?」


「いいえ。カンナのドレスだけはテツ様が決めていましたよ」


「何故?」


「私しかカンナ君の本当の姿は知らないから。彼女の本当の髪色に合わせたドレスにしたい……とか言ってましたよ」


 レーゼはテツの声色を真似て言った。


 言った後に急に恥ずかしくなって顔を赤らめるも、ルミエルは気にしていなかった。テツの言葉の意味が気になりそれどころではなかったのだ。


「本当の姿……。あの二人、お付き合いでもしているのかしら?」


「さぁ? 淡いピンク色のレースをあしらったドレスでしたよ」


「ピンク? 焦げ茶色の瞳と髪にピンク!? 似合わないわ……私もピンクにしようと思っていましたのに!」


「……ルミエル様は何色でもお似合いになりますよ?」


 ルミエルはふとあることに気づく。カシミルドもスピラルも、よくある焦げ茶色の髪色をしている。


「スピラル。カンナも髪を染めているの?」


「え? うん」


「本当は何色かしら?」


「知らないけど……」


「何で知らないのよ!」


「ルミエル様。テツ様にお伺いしてみれば良いのでは?」


「そうね……そうしましょう……あ。カシミルドは何色にしたの?」


「無難に黒ですよ」


「なら私も大人っぽく黒にしましょう!」


 ルミエルは鼻唄を歌いながら夜会の準備に勤しんだ。


 ──しかし、扉の内と外では真逆の空気が流れていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ