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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
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第九十五話 精霊目線

「ラルム。それはどういう意味だ……メディは分かるか?」


 サージュは困った様に頭をボリボリと掻き、メディに話を振った。メディもラルムの話に眉を潜めるばかりである。

 シエルが重くなり始めた空気を察しラルムに口添えした。


「ラルムには、精霊が見えるんです。だから……何て言うか……精霊目線で話してるんです!」


 シエルの言葉にサージュは笑顔のまま首を傾けた。メディは余計訳が分からないといった表情で苛立ちを露にする。

 それもそうだ、ラルムは二人の研究を真っ向から否定しているのだから。


 メディは一歩前へ出てラルムに詰め寄った。


「ラルム。精霊に負荷をかけることの何がいけないの? この加護石を開発するのにどれだけ試行錯誤したか……。サージュは石の強度を上げることに尽力したし、私だって何重にも術式を組み合わせて、やっとここまで来たのに」


「でも……」


「でも、何? 精霊が消えたなんて言われても、元々見えないものなのだから何の確証も無いじゃない……」


 メディはそう吐き捨てるように言った。

 ラルムは肩をすくませ、唇を噛みしめ声を絞り出す。


「精霊だって生きているんです……」


「はぁ……生きてる……か。──エテの街は木で出来ているわ。木だって生きていた。私達が普段食べている物だって、皆生きていた。命を戴くことで、私たちは生きている。──武器の開発は絶対なのよ。諸外国は様々な武器を開発しているの。私達だって力を示さないといけない」


 メディは話しても無駄だと言うように瞳を閉じて首を横に振り、顔を上げるとラルムを睨み付けたそう述べた。


 精霊が見えるなんて言っても誰も信じてくれない。


 ましてや、生きているなんて言っても誰も理解など示さない。皆、精霊を当たり前に存在する資源の一つのようにしか考えていないのだ。


 この研究を止めさせたい。でも、このままでは無理だ。自分だって納得せずに止めることなど決してしない。


 何か打開策はないだろうか。サージュもメディも納得し、精霊に害の無い兵器の開発……。


「サージュ兄さん。……加護石の要素を取り除いた弾の開発に……切り替えられませんか?」


 ラルムの願いに、サージュは良い顔をしなかった。


「うーん。そうだな~」


「はっきり無理だって言いなさいよ。──ラルム、私は……たとえ精霊を犠牲にしていたとしても、この研究を止めるつもりはないわ。貴女は精霊が生きていると言った。それなら、精霊を培養する方法を考えればいいのだから」


 メディはサージュの背中をバシンっと強く叩くと、小銃を片付け帰り支度を始めた。ラルムは肩を落とし、小銃の弾を握りしめる。


「ラルム。大丈夫か?」


「……シエル。私、オンディーヌと約束したのに……」


「きっと何か方法が見つかるよ。ラルムなら、きっと見つけられる」


 ラルムはシエルの言葉に頷く事が出来なかった。


 何年も研究してきたサージュを越えることは容易ではない。自分一人で何が出来るだろうか。


 サージュはラルムの肩に軽く手を乗せると、メディに聞こえないように耳元で話した。


「ラルム。僕もちょっと考えてみるからさ、めそめそするなよ? まぁ。視察団が来たのは、開発中の兵器を見る為でもあったから……ラルムなりの見解をまとめたら後で僕のところに持って来て。すぐに別の方向への転換は出来ないだろうけどさ……」


「サージュ。研究室に戻るわよ!」


「はいはい。じゃ、嫁が機嫌悪いんで戻りまっ、ぐふっ」


 小銃入りの鞄がサージュの腹部にめり込んだ。メディはその鞄をサージュに押し付けると、町の方へそそくさと歩きだした。サージュもその後をフラフラと追いかけて行った。


 ラルムは顔色の悪いまま、カシミルドに話しかけた。


「カシミルド君はどう思いましたか?」


「僕もラルムさんと同じ意見だよ。あの弾に宿っていた精霊は消えた。精霊の森でリリィさんが危惧していたことは、あの小銃の開発のせいだよ」


「……ですよね。五年前にエテに来た時より、精霊が少なくなった気がするんです。……あの、ルミエルはどうしたのですか?」


 ラルムは踞るルミエルに気付き顔をしかめた。


「さっきの実験が、衝撃的だったみたい……」


「屋敷に戻って休ませましょう……ルミエル。立てますか?」


 ラルムがルミエルに触れると、ルミエルは血の気の無い顔を少しだけ上げて、尋ねた。


「……カシミルドは聞こえなかったの?」


「聞こえなかったって……何が?」


「いえ。いいんですの……」


 ルミエルは両耳を塞ぐと、また踞ってしまった。

 そんなルミエルをテツは軽々と抱き上げる。


「よし。私達も屋敷へ戻ろう。ルミエル君も休むといい」


「……ちょっと、下ろしなさいよっ」


「そんな蒼白い顔で言われてもな……」


「テツさんが嫌なら、私の背中を貸しますよ?」


 カンナが背中を向けると、ルミエルは項垂れ首を何度も横に振った。


「それはもっと嫌……私は、カシミルドに……」


「僕、無理……」


 カシミルドは真顔で否定した。


 闘技場の中は瓦礫がそこら中に転がっている。足場が悪く、ルミエルを抱えたまま歩けるのはテツかカンナだけであろう。


 ルミエルは不満ではあるがテツに身を任せた。


 目を閉じると精霊の最期の声が甦る。

 標的の瓦礫に触れた瞬間に響いた断末魔の叫び……。

 苦しみと絶望に満ちた声がルミエルの耳にまだ残っている。耳をつんざく悲鳴がどうしても忘れられなかった。



 ◇◇◇◇




 フォンテーヌの屋敷では夜会の準備が着々と進められていた。屋敷へ着くとレーゼが待ち構えていて、テツに抱かれて眠っているルミエルを見て驚いていた。


 そしてその後、各々自由行動となった。


 ラルムは一人になりたいと告げ資料室へ向かい、シエルは何かしらの理由を付けてラルムの後を追っていった。


 カンナはルミエルを心配して付き添うことに。

 そしてスピラルはレーゼに呼ばれて部屋へ行くそうだ。


 今日はいつもの余り物メンバーではなくカシミルドとテツが残った。二人はお互いに顔を見合わせる。


「先程の事について話し合いたいところだが……」


「演習室で汗を流してからにしましょうか?」


 演習室は防音・防魔設計だ。

 聞かれたくない話をするにはもってこいである。


「そうだな。その方が頭の回転も良くなるだろう」


 各々、杖と剣を握りしめて研究棟へとつながる廊下に目を向けた。


「ケケケッ。俺様も混ざろぉかな~」


 クロゥは冗談のつもりで言ったのだが、二人にそれは通じなかった。


「それはいい。早速行こう!」


「色々教えてね! クロゥ!」


 何故か瞳を輝かせて二人は廊下を早足で進んだ。

 目的が変わってしまったのではないかとクロゥは心配しつつ、二人の後を追うのであった。





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