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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第四部 魔兵器と魔獣の隠れ里
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第九十四話 加護石と魔道具

 サージュは皆の視線を背中で受け、自信満々で小銃をもう一度構えた。


「今度は当ててやるぜ~! ドーン!!」


 そしてもう一度閃光が走る。

 今度はメディが印を書いた瓦礫に見事命中した。


「よっしゃ。どうだ。諸君! すごいだろ?」


 サージュの視線の先にはラルムがいた。

 しかし、ラルムの表情は冴えない。サージュが握る小銃の赤く光る小さな光を見つめ、眉間にシワを寄せている。


「サージュ兄さん。その弾は、確か加護石を使っているのよね? 普通の加護石は、魔法を扱える者しか使えない。なのにどうしてサージュ兄さんが使えるの?」


「はっはっは……よくぞ聞いてくれた。実はこの加護石は、魔道具の性能もあるのだ!」


「……成る程……」


 ラルムはサージュから渡された小指程の大きさの弾をまじまじと見つめた。


 赤い弾は、宝石の様に滑らかで美しく、淡い光を放つ。

 加護石と魔道具の性能を併せ持った弾。

 きっと開発にはさぞ時間をかけたのだろう。



 シエルも弾を受け取ると興味深そうに眺めた。

 加護石は魔法を扱えるものしか使用できない為、一般市民向けの魔道具と掛け合わせて作ることなど考えられてこなかった。


 これぞフォンテーヌ家の最先端技術なのだ。


 元々魔道具とは、精霊使いによって作られた道具のことで、ある条件下でその性能を発揮できるように魔法がかけられている。

 

 例えば王都の街頭は暗くなると灯りが付くように魔法がかけられていて、ミストラル製の便箋は、宛名を書き風に乗せるとその相手のもとへ飛んでいく魔法がかけられている。


 一方加護石は、特殊な石に精霊を宿し、どの系統の魔法でも魔力を注げば石に宿った精霊の力を借りることが出来る物である。

 使う魔法によって変わるが、石は使う度に劣化し、いずれ割れてしまう。


 しかし、これはその両方の性質があるというが、どういう事だろうか。

 シエルは赤い弾を手に、サージュに尋ねた。


「魔道具……これにはどんな魔法がかけられているんですか?」


「それはだな。引き金を引くと、この弾にかけられた魔法が発動して炎弾が放たれるようになってるんだ。だから魔法が使えない俺でも使える!」


 胸を張ってそう答えるサージュに、シエルは弾を光に透かして覗き込みながら首を傾げた。


「だったら、どうして加護石の性能も取り入れているんですか? 別に無くてもいいんじゃ……」


 サージュはその問いを待ってましたとばかりに顔を綻ばせ口を開いた。


「実はそれだと射程も短く威力が弱すぎるんだよ。さっきみたいな炎弾は生成不可能。銃口が小さすぎて威力が出ないんだよ──しかーし! それが加護石だと、ど偉い効果が出来ることを発見したのさ!」


 サージュはメディに小銃を渡しながら、自信満々に説明を続ける。


「因みに、一つの弾で俺が撃てるのは三発が限度だ。まぁ、弾は消耗品だな……だけどな、魔法が使えちまうメディが引き金を引きつつ魔力を込めると……」


 皆が見守る中、メディは印を付けた瓦礫に銃を構え、サージュと視線を交わし小さく頷いた。


 そして──引き金を引いた。


 小さな銃口から、サージュが放った閃光とは、比ではない程に眩い光線が瓦礫へと真っ直ぐに伸びた。


  ──刹那、巨大な瓦礫が赤い光に貫かれると同時に爆発した。


 粉々に散った瓦礫と土埃が晴れると、瓦礫の後ろにも大地を抉ったような痕跡が残され小銃の威力を誇示している。

 皆、息をのみ、凄まじい破壊力をもった小銃を見据えた。


 そんな中、カシミルドは一瞬目眩を感じ瞳を閉じた。

 小銃から感じていた精霊の光は消え、何処にも気配すら感じない。加護石に閉じ込められていた精霊の全てが、メディによって放たれたのだろう。


 ルミエルはカシミルドの腕を掴んだ手を小さく震わせ、力を失いその場にしゃがみこんでしまった。そして俯いたまま、ル消え入りそうな声を発する。


「レーゼ……レーゼはどこ?」


「ルミエル。大丈夫? レーゼさんは、お屋敷の方にいるから、ここにはいないよ」


「そうね……そうだったわ……」


 ルミエルはそのまま俯き、丸くなったまま何も言わなかった。カシミルドは小声でクロゥに尋ねた。


「クロゥ……加護石の中にいた精霊は?」


「消えたな……人間でいうと……死んだって奴?──あの爆発は精霊そのものを源にして発動させている」


「……やっぱり。そうなんだ」


「ああ。リリィさんの悩みの種は、あの小っせぇ兵器のせいだな……」


「あれが……」


 カシミルドはユメアに貰った炎の加護石を思い出した。


 あの加護石の中にも精霊が閉じ込められていた。

 だから魔法禁止区域でも精霊を呼び込み魔法が使えたのだ。


 あの弾にも精霊が閉じ込められていて、しかも、精霊の魂ごと兵器の力に変えられている。


 サージュが使った時は輝きが小さくなっただけであったが、彼の説明だと三回放てば精霊は尽きることになるのかもしれない。メディが使うと、おそらく一発で精霊は尽きるのだろう。


 どうにかして、この兵器の開発を止めさせないと……。

 きっとテツに相談すれば、力になってくれるはずだ。


 カンナは踞るルミエルを心配し背中を擦った。

 テツもどうしたものかとルミエルの様子を窺っている。

 スピラルはシエル同様、小銃の威力に目を輝かせていた。



 そんな新人団員達に向かい、サージュは誇らしげに胸を張った。


「どうだ。凄いだろ! いや~ここまで威力を上げるのにどれだけ時間を費やしたか……」


「サージュ兄さん……」


 ラルムはゆっくりとサージュに近づき、手に持っていた小銃の弾を差し出した。そして震える声で言った。


「駄目です。これは……改良の余地があります……」


「まぁな。本当は魔法が使えない人間でも、もっと高い威力を出したいからな。加護石に宿す精霊の力をもっと高められたら……」


「それが駄目だって言っているんです!!」


 急に声を張り上げたラルムに、サージュも、そしてメディも驚いた。勿論、隣にいたシエルもである。


「急にどうした? 何か問題でも……」


「はい。これは精霊への負荷が強すぎます。たった一発、あんなどうでもいい瓦礫を破壊する為だけで、精霊の力は使い果たされ、この世界から消えてしまっている……きっとこれのせいだわ……」


 小銃が精霊にかかる負荷について、ラルムも気付いていたのだ。


 カシミルド同様、ラルムも確信していた。

 精霊が減っているのはこの研究のせいだと。


 



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