自殺か他殺か
「九日午後二十時三十分ごろ、千樹市中央区ビル街の一画で、カラスが大量発生し、金融機関に勤める会社員二名に襲いかかりました。カラスたちは猛然果敢に会社員たちに襲いかかり、みるみるうちに一画は漆黒の空間となったそうです。二、三十分のうちに、会社員たちの肉は喰らわれ、文字通り、骨だけのミイラ状態になってその空間に横たわっていた、というこの事件ですが……生物学者で帝都大学教授の青山さん、これはどういうことなんですかね? カラスにはこういった異常行動をすることがあり得るのでしょうか? しかも人間を食べるというのは? 昨今噂されている南海トラフ大地震の前兆であるとかそういったことは?」
「う〜ん、まず大地震の前兆であるということはあり得ないと思いますがねぇ。それで、カラスは捕食者に向けて一斉に襲いかかるということはありますが、人間相手にはあり得ないでしょう。まして大の大人の男性二人がカラスに殺されるだなんて……あり得ないですねぇ」
「でも実際に起こったんですよ?」
「う〜ん、信じられませんねぇ」
私が家に帰ってテレビを点けると、どこのニュース番組もこの事件の話題で持ちきりだった。私は、私がいつも見ているバラエティ色の強くて色んなジャンルのコメンテーターが出るニュース番組でそのニュースの解説を聞くことにしたのだ。というのも、私はこの事件に個人的な注目を抱いている。それも、並々ならぬ。
「私としては、このような事件が起こること自体、やはり人類の終末が近づいていることの証左であると考えます」
「スピリチュアルがご専門で、数々の予言を的中させてきた江上先生ですが……やはり江上先生としてはそのようにお考えになりますか」
「そうですねぇ。そうとしか考えられませんよねぇ」
「科学者の立場からすると、そのようなことはあり得ません」
「なるほど。しかし我々のような人類を魂の側面から見る専門家であるスピリチュアリストの観点で言うと、これは間違いなく、人類に対する警告だ、ということができますねぇ」
「そのようなことはあり得ない」
「ジャーナリストの渕上さん、どうですか?」
「う〜ん、最近連続的に起こっている、天使たちと呼ばれる劇場型犯罪を好む集団の仕業、と言うのが識者たちの考える線、ではありますけどねぇ」
「やはり天使たちが絡んでいる、ということですか?」
「う〜ん、こればっかりは本当にわからないのですが……だって、これまで彼らが対象にしてきたのは、人、じゃないですか? この天使たちのことがわからない人たち、もういないと思いますけどね、に向けて一応おさらいしておきますと、一連の騒動では、医師や大学教授や、企業の経営者といった社会における、こういう言い方をすると角が立つと思うので言いたくはないのですが、あえて言わせていただきますと、まぁ、エスタブリッシュメントとか比較的パワーをお持ちの『勝ち組』層の方々、そういった層の人たちが今、この千樹市において次々と『殺されて』いっているわけです。そしてその殺害現場には必ず骸骨に天使の翼が生えたストリートペインティングと"Who knows?"というセリフが描かれている。この絵柄とフレーズは実はとあるwebサイトのものと一致していて、それというのが天使たちと名乗る集団のwebサイトなんですが、その集団の活動の根城になっていると言われているwebサイトなわけです」
「それで、実際には、殺されてはいないんですよね?」
「すいません、ちょっと話を急ぎすぎで本筋から逸れました。そうです。その方々は実際には殺されてはいなかったのです。つまり、基本的には全て『自殺』だった、わけです。だから『殺害』、というのも言い方として不適切だったわけですが、でもそうとでも表現しないとあり得ないような、自殺をするにはあり得ないシチュエーションで、突然本人たちがおかしくなって、パフォーマティブで少しおかしなことを口走ったりしたりした後に、自殺する、ということだったのです」