モテ女オタクの憂鬱
いつから私は、他の女の子たちとこんなにも「違う」女の子になってしまったんだろう?
「咲ぃ! ちょっとっ、聞いてるの〜っ?」
「あぁ、ごめんごめん」
「もうっ! 咲って本当そういうとこあるよね」
「「あるある〜」」
「本当にごめんって!」
「でさ〜、ケイスケがね〜また――」
私は女の子として生まれてきたのに、女の子として生きていかなけれなならないはずなのに、それをしていくにあたって致命的な欠陥があった。
「でも咲は何でそんなに可愛いのに彼氏つくんないの?」
「う〜ん……何で……かな?」
というのは、私は他の女の子が興味がありそうなことのほとんど全て(恋愛、おしゃれ、スイーツ等々)に興味がないのだ。そして他の女の子が興味がなさそうなこと(アニメ、工場の写真、文学、オカルト、相撲)に並々ならぬ興味があるのだった。
いわゆる、オタク、というやつである。それもガチの。
「ちょっと黒住さん、来てもらっていいかな?」
教室の入り口脇から話しかけてきたのは、サッカー部の池上先輩だった。私たちも入り口近くの机で集まって話していたから、後ろから話しかけられた格好だ。
「……すみません。今みんなと話してるところだから後にしてもらってもいいですか?」
「……ごめん! 邪魔した! またLINEするね!」
「……てか今の池上先輩じゃん!」
女子たちは顔を見合わせた上で、堰を切ったように、待ってましたと言わんばかりに、恋バナの続きを始めた。みんなの目が好奇心で輝いている。
「また咲か……流石にあんたモテモテすぎるでしょ! ちょっと自粛してよ自粛〜」
「私にもその綺麗な顔分けて〜後そのさらっさらの髪も〜」
「「ハハハハハっ」」
「この前池上先輩に告白されたんだよね?」
「ちょっ――」
「「え〜っ!?」」
「本当!?」
「……はい」
「「え〜っ!?」」
言わない約束だったのに。これだから女ってやつは困る。
「あのイケメンかつサッカー部のエースでJリーグからも誘いが来てる池上先輩に!?」
丁寧にご説明いただきどうもありがとう。
「フったの!?」
「……はい」
「「え〜っ!?」」
「もったいな〜っ」
「信じられない」
こういうキャピキャピした反応をいちいち受けなければならないのがもう疲れる。だけど私は一応モテるらしく、一応顔もそんなに悪くないらしいので、こういうタイプの女子たちと結局グループを組むことになるのだ。辛い。
「私だったらとりあえずオッケーしたな〜」
「だってあの池上先輩だよ? サッカーの日本代表なんでしょ?」
「しかもイケメンだし」
「本当モテモテだよね咲」
「う〜ん、そうでもないんだけどな」
「そういう感じもいかにもモテる女って感じだよね〜」
「いやいや、本当にそんなことないんだってば」
毎日のようにこんな仕草をしなければならないことに心底うんざりしている私は、家に帰ってから一人で部屋に籠って色々なことをインターネットで調べごとしてオタク知識をさらに充実させていく時間だけが魂を解放できる唯一至福の時間なのだ。もうほとんど朝の通勤電車で眠りこけ会社で死んだ魚の目をしながら働いてたまにある休日だけを楽しみに生きていくスタイルの独身サラリーマンおじさんたちとほぼ変わらないライフスタイルであると言ってしまっても過言ではない。