底なしに深い恋の沼
きっかけは突然で、しかも本当に些細なことだった。私は中学生の時もバスケットをやっていたから(自分で言うのもなんだけど結構うまい)、当然のように高校も女子バスケ部に入って練習着に着替え体育館でバッシュを履こうとしていた一年前のあの日――
「三枝さん、だよね? 二中バスケ部の!」
私はぬぼ〜っとしていて、警戒を全く解いていた時だったので、後ろからいきなりハイテンションで声を掛けられてちょっといい迷惑だったのだけど、声を掛けられたのだから振り返らないことには致し方あるまい、とJKになりたてホヤホヤらしく一応元気ハツラツな感じで「はいっ!」と返事をして振り向いた途端――
「やっぱりそうだ! 三枝鈴華さん、でしょ? 市内大会でず〜っと見てたよ! 超うまいよね君!」
と全開のハニカミ笑顔で(えくぼが左右非対称になってて)まくし立ててきてしかもそれについてきたその超絶的な爽やかさたるや! そしてその暴力的なときめきたるや! 俳句の一句でも詠みたくなるような気持ちもさもありなん、なんて思ってしまった。身長は百八十センチ台半ばで黒髪短髪、身体は結構がっしりしてて男らしいんだけど、それに反して(?)すんごく綺麗な顔で鼻筋がスッと通ってて顎のラインも綺麗で全体的にシュッとしてるキツネ系の顔、なんだけど綺麗すぎない(笑)。しかも汗かいてるのに全然臭くないし、何なら少し甘い匂い(!)がする気がした、いや、気がしたというより本当に甘い匂いがした(本当に)。
「俺、二年の鈴木健、って言います。よろしくね」
そのようにして彼の笑顔の一撃を私はもうこれ以上ないくらいにモロに食らってしまい恋に落ちたのだ。底なしに深い恋の沼に。何というベタな展開。そして私の圧倒的恋愛戦闘力の低さ。笑える。いや、笑えない。
「鈴さ〜何か最近私に隠してることあるでしょ?」
「別に」
「彼氏ができたとか」
「そんなんじゃないし」
「あ〜やっぱり! ムキになってるじゃん」
「そんなことない」
「好きな人ができたとか?」
「言わない」
「え〜教えてよ〜できたんでしょ、好きな人?」
「美里こそどうなの?」
「私は変わらず凪斗一筋だから」
「凪斗……ね〜。あんなナヨナヨした感じの男なんて何が良いのかわかんないけど」
「鈴にはわかんないし別にわかってくれなくても良い。ムカついたから今日は卵焼きあげない」
「え〜!」
この子は桃園美里。私たちは中学生の時からの親友なんだ。元々は一緒にバスケをやっていたんだけど、美里は途中で大怪我して足を悪くしちゃったから、それ以来バスケができなくなっちゃったんだ。それから美里はすごく落ち込んで、一時期は引きこもったりしてた時期もあったんだけど、何とか立ち直ってくれた。その落ち込んでた時期に好きになったのが凪斗っていう名前で歌の動画をYouTubeに投稿している男の子で、確かに歌はめちゃくちゃ上手いんだけど、何かナルシストっぽくて、曲調も暗い曲ばかりで私は全然受け付けない。曲のタイトルも"絶滅"とか"最後に残った虚無"とかなんか仏教か何かですか? みたいな感じの曲ばかりで正直気持ち悪い。
「この前凪斗のライブ行ってきたんだ〜」
「ライブとかもやってるんだね」
「うん! やばかった! ヤバすぎてヤバかった! 語彙力なさすぎて表現できないけどとにかくヤバかったの!」
「わかったわかった」
美里は凪斗の話をする時、目がキラッキラしている。
「で、今度は鈴の番」
「しつこいな〜」
「いいじゃないですか減るもんじゃないし〜」
「う〜ん、まだ自分でも良くわかってないから、もう少し経ってから」
「ちっ。そういうとこは本当に鈴って可愛くない。顔は羨ましいほど可愛いのに」
「はいはい知ってますあざすでもそういう美里も可愛いですよ〜」
美里のほっぺたをふにふにする私。
「うざ」




