ルサンチマン
「なるほど。それで今回殺された会社員の方々というのは、会社員といえどもいわゆる『エリート』だった、ということみたいですね」
「はい。かなり高給取りの会社員だったようです。二人とも高学歴でなおかつ外資系の金融機関に勤めていた、ということのようです」
「ところで、精神科医の遠山さん、カラスのケースは別として、人間のケースの場合、そのようなことはあり得るんですか? そのようなことというのは、つまり、それまで精神的に正常だった人間が、いきなりおかしくなって、自殺する、というようなことは?」
「あり得ません。まず、マインドコントロールというもの、催眠術というもの、こういったものは確かに存在していて、ある程度人をコントロールして狂った状態にすることができることはわかっていますが、そこに行き着くまでにはそれなりの下準備が必要です。ですが、この一連の事件では、どのケースでも『突然』おかしくなったり、『突然』狂気が発生する、といったことですが、そのようなことは普通は起こりません」
「なるほど。作家の佐竹さん、この件に関してどう思われますか?」
「う〜ん……何と言えばいいんでしょうねぇ……これに関して私が気になるのはやはりターゲットが比較的社会的地位が高くて年収も高い人たちばかり、ということですよねぇ。やはりこれは何らかの意図があってそういった人たちばかり狙っているとしか思えない。やっぱり、こういってしまってはあれですけど、一つはルサンチマンがあるでしょうねぇ」
「ルサンチマン、つまり、嫉妬ですか?」
「有り体に言ってしまえばそういうことになりますよねぇ。つまり、このような事件を企て、実際に実行まで移せる人間がいるのだとしたら、彼、あるいは彼女自身が何らか劣等感やコンプレックスをそういう存在たちに対して感じていて、それで今回のようにそういった強い立場の人間たちばかり狙って『殺した』のではないか、という読みですね」
「う〜ん、その線だとあまりに短絡的すぎる、とは思いつつも、やっぱりそれが一番可能性が高いですよねぇ。他に何らかの政治的主張があるとか――」
「なるほど。それぞれのコメンテーターの方々、ありがとうございました。結局のところ、なぜそのような現象が起こるのか、事件を起こした人物たちは同一人物なのか、同一人物だとすれば何が目的なのか、そこに天使たちと名乗る集団は絡んでいるのか、絡んでいたとしてそれがどうやって可能になるのか、さらに今回の事件のカラスの大量発生と異常な凶暴性、それらの事件が関連しているのかどうか、そういったこと全てが謎に包まれている、ということになりそうです。今後警察や行政の対応が注視されるところです」
この手の話が大好きな私だ。しかも私の住んでいる千樹市で起こっていることだ。もう私がこの謎の解明に取り掛からないはずがあろうか(いや、ない)。最近ちょっと暇していたことだし(彼氏もいないし作る気もない。それに他の女子たちとキャピキャピ遊んでいてもつまらない私のことだから)、一丁やってやるか、そんな軽い気持ちでこの事件を調べ始めたのだった。すぐにどうしようもないくらい私もみんなも巻き込まれて損なわれて手遅れになってしまうことなど、その時にはもちろん知らずに。




