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堅い仕事じゃあ無いんだから、オンナに弱いのは…。

作者: とろろ昆布2

短編です。


情報化された意識の行き先に特定することは、エクサが基本単位であるネットワークの中では、大海に漂うナトリウムをマークしろと言うようなものであるのだが…。

彼の行方を捜すよう彼の家族から依頼を受けて、すぐさまダイブして捜査を始めたのだが…。彼のアカウントではコネクトした履歴ですらトレースすることは出来なかった。

「この御仁は、こちらに来てないんじゃないんのか?」

想わず口を突いた言葉に、面会にやって来た彼の家族は明らかに不満を現したが、そんな事に一つ一つ構っていたら飯のタネが直ぐになくなってしまうので。

「この方は自分の痕跡を。トレースされるコトを前提で、ダイブしていますね。しかも、かなりヤバイやり方で。」

依頼者の不安を煽りながら、こちらの存在意義を刷り込ませる。これが営業の基本。この世界で飯を喰い、生き抜いている処世術なのさ。俺はダイブ用のケーブルを繋げたまま依頼者の方向に顔を向けると、間髪を入れずに話し出す。

「お兄さんは業界の方ですか?」

「業界と言いますと…。」

身元を隠したいのか、目深に被る大きめの帽子が依頼者の顔付きを肉眼では判別し辛いものとしていたが、赤外線センサーと認証システムを使えば相手の素性は…、三代前ご先祖さん迄俺の補助コンに自動的に入力されてくる。

「あゝ、すみません。情報畑と言うコトです。何か心当たりは?」

「兄は一介の公務員。市役所の福祉課に勤める堅物です。」

つばの位置が気になるのか依頼者は左手で盛んに帽子の位置を修整するが、例え彼女がフルフェイスのヘルメットを被っていても、相手の考えは呼吸数や発汗状態をモニタリングしているので…。

「公務員ですか、お堅い方がどうしたんでしょうね?意識をサイバースペースへ飛ばしたままお戻りにならないなんて…。」

依頼者の心拍数が速まり、毛細血管にかかる圧力が跳ね上がる。更に、手掌部に著明な発汗現象が認められた。カテコールアミンが血中に注ぎ込まれたのであろう。

「理由なんて問題じゃないんです!私たちは兄が何処に行ってしまったかを知りたいんです‼︎」

揺さぶれた心というものは弱いもので、どんなに障壁を張ろうとも隠したい事実を、隠し通したい秘密を露わにしてくれるのである。

「確か、調査を始める前にお話ししてあったと思うのですが…。」

大仰に驚くコトも、辛辣に責めることもなく俺は事務的に手続きの話を繰り返す。

「私の業務はサイバースペースで行方不明になってしまうシロウトさんを、幼稚園児よろしく手を引いて現実世界に帰還させるコトを生業にしている者です。」

「決して堅い商売ではないですが、守秘義務違反は壁の内側に身を堕しかねないので…。そこのところは信じていただけませんかね。」

「ところで、お兄さまはサイドビジネスをなさっていられましたよね。」

依頼者はこちらのセリフに身を固くしたが、お利口な脳内で優先順位を判断したのであろう 、諦めと言う判断でアドレナリンの分泌量が収まり。それからはこちらの質問に従順に応じてくれた。

「確かに兄は公務員で培った情報処理技術で、何か仕事を始めると言っていました。私たち家族は心配してましたが、兄は『一度だけだから。それで辞めるよ。』と、取り合ってくれませんでした…。」

「一度きりで辞める…。一回でまとまった報酬を得られるというコトですね。」

「はい…、そうかもしれません。でも、私たちは…。」

悲劇の主人公を気取る相手に軽くイラつき始めたので、少しキツイ文言を浴びせた。元々俺は攻撃的では無いのだが、時々…。本当に稀に。話しの見えない奴にキツく当たってしまう性分なのだ…。

今回はそれがたまたま、この依頼者だったってこと…、そして罠を仕掛ける。


「確かにあなた達家族は、お兄さんが働くであろう悪事を知っていた。それなのにあなた達、いや。婚約者である貴女は彼を止めれるコトが出来なかった。それは、貴女が彼に高額な金品を望ん…。」

「お願い!もうやめて‼︎」

依頼者は度々複数形の一人称で話をしていた。複数のニンゲンが関与すると言うことで、事実を歪曲し、達観視するコトで自分に掛かる容疑をはぐらかそうと計算した結果なのであろう。

罠にがっちりと掛かってくれた、相変わらず俺の処に、仕事の依頼してくる奴らにはろくな奴はいない。

お堅い彼氏に分不相応のオネダリでもしたんだろう、財布の軽さに気を揉んだ彼氏が危ない橋を…って具合か。

ブランドもんのバックか?それともキラキラ光るアクセか?

いつの時代になってもオンナの購買意識ってヤツは、善良な市民を迷わせる。

さて、お兄さん…。いや、彼氏は何をやらかしんだ。

何処かのセキュリティにでも引っかかって身動き出来ないのか、ファイヤーウォールに焼かれちまったのか。一発逆転の大勝負だとすると金融系かな、だとすると…。痕跡が残らない位ヤられてるってコトになるから、行方が分からないってコトも納得出来るんだが。

このお嬢さんには心当たりがあるってことだろうか。


彼女が落ち着くのを待ってから話し掛けた。

「あんたの彼氏さんは、何をやるのか何も言っていなかったんですか?ここまで来たんだから全部、話してくれませんかね。」

「はい…。」

「都合の悪いコトは口外しませんよ。我々業者に課せられた義務違反ってかなりヤバイもんで、人工呼吸器を外されるくらいなモンなんですよ。」

納得出来るかどうか不明だあったが、人格探しの仕事を成就出来るかどうか今のところこの女しかソースが無いので、俺自身少々焦り気味で地雷が仕掛けられていたとしてもそんなコトなどかまわず大股で進んでいった。

「グレートウォール…。そんな言葉を、彼から何回か聞いたコトがあります。」

そら、おいでなすった。噂に名高いGREAT WALL、略してGW。軍官産複合体の混合障壁、ミリ秒単位で更新され続けている硬性隔壁。そんな所に無防備な侵入でもしょうモノなら、人工人格などたちまち消し飛んでしまう恐ろしい壁。なんで一介の公務員がそんな所をうろつくんだ?動機が緩いんだが…。金モウケの種ならば他にいたるところに転がっているのに、それには目もくれずにいきなりトップシークレットに近づくとは…。

命知らずの奴がいるとは聞いていたが、バカな話しだ。

さて、この始末どう付けるか。

先ずは、気持ち悪い物でも見るように表情筋を歪めて、ニヤつく俺の口元を見つめているヒロインさんには退場してもらおう。

「ココからはかなり難しい捜索になります。結果は一両日中に報告しますので、今日のところは…。お引き取りを。」

「しかし…。 」

「ご安心下さい。迅速、安心、低料金が我が社のモットーです。これ以上いられても、捜索の邪魔になるだけですよ。」

暫くごちゃごちゃ文句を言っていたが、他に選択肢を用意しなかったので女はオフィスから出て行かざるを得なかった。

まあ、報酬は活動費の1日数クレジットで、業界の取り決めを遵守しているのだから文句はあるまい。これで悪徳業者よばわりするのならば、出るところに出る覚悟はいつでも出来ている。いわれのない中傷や誹謗には毅然と立ち向かう準備は万全…、まあ、叩けばホコリの出る身ではあるんだが、その手のトラブルに如何の斯うの言っていたら仕事になりやしない。

捜索の前に信用取引会社のデータベースにアクセスすると数件の業者と取引をした形跡が記録されていた。彼氏さんは平気で嘘を吐く彼女に、かなり無理して貢いでいたのだろう。

なかなかどうして、被害者ヅラが白々しい。財布が失踪しちまったんだから、慌ててさがしまくっているんだろう。

だから儚なさげの女は、信用出来ないんだ。


GWの輝く障壁に沿って 人工人格の探査プログラム走らすと、無数のアクセスブロックされた残骸が残されていた。痛々しい姿をさらす電脳空間の遺体を大まかに探査すると、意外なコトに敵対する振興大国からの物は思っていたよりも少なく、表向き同盟を組んでいる地域からのアタックが多く見受けられた。名ばかりの同盟なんだろう、実際は右手で握手を左手にはナイフを…と言う具合か。どこの世界でも表向きの顔と真夜中の素顔は違うってことさ、そんなコトは巷のデコとボコの間だってあるコト。さほど驚くコトでもない。

潰された圧縮コード、焼きただれたICE…。

まともな神経の持ち主ならば、こんな物騒なところに近づきはしない。依頼者のオトコは何故GWに要があったんだ。金の匂いも欠落した殺伐としたところに…。

機密データなど金にはならんだろう。

一介の公務員が扱うには大き過ぎるヤマだ。

よしんばこのヤバ過ぎるプロテクトをくぐり抜けたとしても、データを捌くには危険が伴う。到底金になんかにはならないし、それを理解出来ないはずも、ない…。

堂々巡りの自問自答をしていると、壁からの攻撃パターンが変化して来た。

そろそろGWが変調するようだ、こんなところでウロウロしていたらコッチの素性がバレかねない。探査プログラム上に載せた迷彩が悲鳴をあげる前にオサラバしよう。


ログアウトして事務所の雑然とした雰囲気の中に体感が復帰すると、プラスチックが焦げる匂いが鼻をついた。反射的に電脳ケーブルを補助コンから引き抜き、ブレーカーのコンデンサを調べる。

ヤられていた。

GWが放ったトレーサーがこちらのプロテクトを突き破り、素性がバレちまっていた…。相手は何時でもコッチの脳みそを補助コンごと焼き切るコトも出来たの、俺がログアウトするコト待っていたようだ…。

なるほどなるほど、警告ってヤツか。

俺は素直な方なので、この件から手を引かせてもらうコトにした。

何故だって。

当たり前なコトさ、あのオンナはナニヒトツ本当のコトを話していなかったてワケだ。

公務員のオトコの話しも、恋人が失踪したって話しも、GWと言うヒントも、何もかも…。

オッと、 確かにこの一件には公務員のオトコは噛んでいるのかもしれない。なぜならこの一件、政府の情報機関の仕業って考えると合点が行くんだよな。

奴ら、俺たち市民をノゾキミするだけでは物足りないらしく、時々ちょっかいを出して来やがるんだ。

今回も奴らの定期便ってことさ。

税金使って暇なコトをするんだよ、奴らは。

これ以上踏み込んだら、それこそ俺の意識は奴らの餌食ってわけ。

ハイ終了、ヤメヤメ。こんなのに関わっていたら廃人コースまっ逆さまさ。

しかし依頼にきたオンナ、骨格的にはイケてたたな。お近づきのお誘いメールでもしてみるか?

イヤイヤ止めておこう。どんなヒモ付きでヤって来るか分からんからな。

さて次の依頼は…、何時くるコトやら。

コーヒー片手に悶々としているか…。

うーん、それにしてもあのオンナ。抜群だったな…。

ヤッパリ、メールぐらいはしてもイイかな?

イヤイヤ……。






VAMPSの楽曲を聴いているうちに、思いついた話です。

古い原稿を少々手直しして、掲載させて頂きます。

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