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勇者が正義に生きるなんて誰が決めた?  作者: 紅蓮グレン
第1章:勇者が自己犠牲なんて誰が決めた?
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#006.問題解決と報酬相談

「いやっ、やめてください!」

「うるせえ、おとなしくしろ!」


 私は怖そうな男に裏道で絡まれていた。急ぎの用事があって焦っていた私は、不注意からこの男にぶつかってしまった。慌てて謝ったけどこの男は許してくれず、私の腕を掴んで裏道に引きずり込んだ。そして、恐喝を始めたのだ。いつもはお金なんか持ってないし、着ている物も襤褸同然のものだから怒鳴られるか心配されるかだけで恐喝なんかされないんだけど、今日は久しぶりの臨時収入があった。私はそれで新しい服を買って、散髪もした。つまり、身なりが整っている。パッと見では昨日まで襤褸を着ていた貧乏少女には見えない。こんな日に限って絡まれるなんて、最悪。


「おい、さっさと金を出せ! テメエのせいで俺は怪我をしたかもしれねえんだぞ! 慰謝料を払うってのは当然の……」


 男がそう言いながら私に近付いてきた時、突然誰かの声が響いた。


「モンスター臭いぞ、このクズが。」


              ☆  ☆  ☆


 こういうクズ、まだいたんだな。以前から街に1、2人はいたが、まさか大魔王城に最も近いこの街にもいたとは。


「何だテメエは!」

「ただの通りすがりの勇者だ。」


 別に格好をつけている訳じゃない。これはいつもの口上だ。


「勇者だと? ハッ、こんなところにあの勇者がいる訳ねえだろ!」

「それがいるのよね。全く、勇者レオン・アントニウスの顔も知らない無知な奴がいるなんて……しかも非力な女の子を脅してるし……殺してあげるわよ?」

「ニーナ、手を上げたくなる気持ちは分かるが我慢しろ。お前が手を出したら本当にあの男を殺しかねない。」

「はあ……こんなクズ野郎がまだいるとはな。掃除しないといけねえ場所はまだまだ多そうだ。」


 俺を本物の勇者だと思っていなかった男は、俺の後ろから出てきたニーナ、ラファエル、クレインを見て、顔を青ざめさせた。


「ま、まさか……本物の……」

「勇者レオン・アントニウスだ。」

「賢者ニーナ・フォールディよ。」

「魔術師ラファエル・オリシエルだ。」

「戦士クレイン・レイティアルだ。」

「という訳で、社会のゴミは掃除させて貰う。」


 俺は聖剣フォーラ・アミュールと魔剣デスラビ・キラーを鞘から抜き、ゆっくりと構える。


「ゆ、勇者が1人を4人がかりで殺るってのか?」

「お前のような社会のゴミ相手に正々堂々とやり合う気なんかさらさらないが、1対1がお望みならそうしてやってもいいぞ。但し、その子を解放してからだ。」

「ハッ、いくら勇者に言われようとそれはできねえな。そんなことをしようものならその後どうなることやら。こいつを解放して欲しいんだったら、契約でもしてみろ。そうしたら解放してやってもいいぜ。」

「このクズ……どこまで腐ってるのよ……ねえ、レオン、殺していい?」

「待て、ニーナ。ここは俺がやる。契約神に宣言する。我、勇者レオン・アントニウスは目の前の男が少女を解放せし後、その男の要求通りサシで勝負をする。」


 こう宣言すると、俺の身体に光が降り注いだ。簡単な儀式だが、これで契約を破れば考えるだけでも恐ろしいような激痛が契約者を襲う。


「これでいいだろう。解放しろ。」


 俺がこう言い放つと、男は下卑た笑みを浮かべた。


「ハッ、勇者様ともあろうお方がこうも簡単に契約するとはな。人を疑うってことを知っていた方が良いぜ。そんな簡単にこの女を解放する訳がな……」

「お前がそういう奴だってことはとっくに分かっている。強制的に解放させるだけだ。その腕を失え。」

「は……? ぐううううううっ!」


 突然男の両腕が地面にボトリと落ちた。斬り落とした断面から血がダラダラと垂れ、地面を汚す。俺が体術技能【瞬突】で接近し、魔剣技【必中欠損】で奴の腕を斬り落としたのだ。こんな奴の血で剣が汚れるのは嫌だが、俺の魔剣デスラビ・キラーならばどんな血であっても自らに吸収し、力に変える効果がある。即ち、血液で魔剣は汚れない。心置きなく斬ることができた。


「ニーナ、止血を。」


 俺はニーナに言葉少なに頼む。するとニーナは目を見開いた。


「えっ? 何でよ! あんな奴、出血多量で失血死させてもいいじゃない! それに私が治癒したら腕が元通りに……」

「ニーナ、落ち着け。レオンが言ったのは治癒じゃない。止血だ。」


 激昂するニーナをラファエルが宥めつつ説明する。そう、俺が頼んだのは治癒ではなく止血だ。


「あー、そういうことね。了解。【止血ストップブラッド】。」


 ニーナが杖を構えて魔法を放つ。すると、男の腕からダラダラと零れていた血が止まった。そして、男はその場に倒れる。


「あ、魔法出力ちょっと多すぎたわ。いつもレオンの出血を止める為にこのくらいの出力でやってたから、一般人にはきつかったわね。血流まで完全に止めちゃった。」


 わざとらしいくらいの棒読みでニーナが言う。


「お前の命はもってもせいぜいあと30秒程度だな。ああ、見苦しいから命乞いとかするなよ。何か遺言は……ある訳ないよな。」

「おい、レオン。このままだとこいつは本当に死ぬが、良いのか?」

「ラファエル、こういうのは殺しても法に触れない。そもそも、ここで見逃したら他の所でまた脅し、奪い、嬲り、殺すだろう。まあ、このまま殺す気はないが。ということで、頼むぞ。」

「了解だ。【再開リスタート】。」


 ラファエルは魔法を唱えた。ニーナの【止血ストップブラッド】の効果が部分的に打ち消され、男の血流が復活する。


「ちょっとラファエル! 何するのよ!」

「落ち着け、ニーナ。レオンが契約したのを忘れたのか? サシで勝負する、っていうのを。このままこいつが死んだらレオンは契約を破ったことになるだろう?」

「あっ……」

「そのことを忘れてるとは、そんなんで本当に賢者なのかよ、全く……」

「クレインは黙ってなさいよ。血流止めるわよ?」

「お前ら、言い争いはやめろ。」


 俺は強制的にラファエルたちを黙らせると、男の方を向く。


「さて、お前はその子を解放したことになったから、これからサシで勝負だな。まあ、お前は腕が無いから勝負とは言えないかもしれないが。」

「や、やめろ……やめてくれ……もうしないから……」

「もうしない? もうできないの間違いだろう?」


 俺は冷めきった目で男を睨みつけ、聖剣と魔剣の切っ先を向ける。


「自業自得、この言葉がピッタリだな。今までその腕で人を不幸にして来た分、しっかりと報いを受けろ。」

「斬るなっ、斬らないでくれ……」

「そうはいかないな。これはお前が望んだ自らの結末だ。勇者に喧嘩を売っておいて、無事に済むなんて思っていなかっただろう? それに……」


 俺はここで一度言葉を切ると、


「残念ながら、存在しない方が良い命ってのもあるんだよ。」


 と言い放ち、


「お別れだ。転生できるといいな、社会のゴミ殿。【セイントダーク・クロススラッシュ】!」


 武技を発動。聖剣と魔剣を振るった。社会のゴミは断末魔を上げる暇もなく、一瞬で元が生物であったことが認識不可能な肉片と化す。一般人相手には完全にオーバーキルだが、このくらいしないとニーナが収まりそうにないからな。


「大丈夫? 怪我はなかった?」


 ニーナは早速ゴミに脅されていた少女に手を差し伸べている。


「は、はい。あの、本当にあなた方はあの……」

「ええ。私は賢者ニーナ・フォールディよ。それと、あそこの杖を持っているのが魔術師ラファエル・オリシエル。白い剣と黒い剣を持っているのがリーダーの勇者レオン・アントニウス。あそこの鎧着てるのは名前を覚える必要ないわ。」

「ニーナ、クレインだけ扱いを変えるな。お前がクレインと反りが合わないのは元からだが、それはこの子には関係ない。」


 俺は肉片に更に斬撃を加え、塵レベルに分解、消滅させながらニーナに言う。


「むー……レオンが言うならしょうがないわね。あれは戦士クレイン・レイティアルよ。で、あなたのお名前は?」


 ニーナが少女に名前を聞く。


「あ、私はイリア・シェリーと申します。」

「イリアちゃんね。何であの男に絡まれてたの?」

「あの人に道でぶつかったんです。いつもなら心配されるか怒鳴られるかだけで済むんですけど、今日は運悪く臨時収入で身なりを整えたばかりで……」

「今持ち合わせがあるの?」

「はい。少しですけど。」

「レオン、どうする?」


 ここで俺に振るか。俺にできるのは自己犠牲的な回答しかないってのに。


「今回は無償の人助けだ。その子の持ち合わせを報酬としてもらうのは酷い。それじゃ俺たちのあの社会のゴミと一緒だ。弱みに付け込んで金を毟るのと何ら変わりない。」

「やっぱりそうなっちゃうわよね……」


 ハーッ、とこれ見よがしに溜息を吐くニーナ。分かってるなら俺に振るなよ。


「あ、あの……勇者様。」


 と、ここで少女……イリアが話しかけてきた。


「ん?」

「ほ、報酬が必要なんですか?」

「まあ、自己犠牲はやめたいって思いがあるからな。でも、今回はさっき言ったように無償の人助けだ。報酬はいらない。」

「そういう訳にはいきません。私は助けていただいたのですから、謝礼を支払う必要があります。」


 ……何か面倒臭い子を助けてしまったな。


「ラファエル、パス。」

「はあ? ちょっと待て、レオン!」

「悪いな、自己犠牲はやめたんだ。話す相手を変わってくれ。」


 俺はそれだけ言うと、ラファエルに話を任せるのだった。

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