進化
そこから先は順調だった。俺が先に出て剣を防ぎ、一ノ瀬と篠宮が盾を弾く。トドメに白石のアビリティ。ミレースのHPはどんどん削れ、一本めどころか二本目の手前まで削った。
想像以上に弱い。こんなのが片手剣アビリティの情報を持つとはとても思えない。
「うおぉぉっ!」
剣を弾いて懐に飛び込み、ミレースに攻撃を加える。奴の二本目のHPバーが消滅。大きくノックバックする。
「二本目!」
「このまま押し切るわよ!」
一ノ瀬の一言に頷き、相手を見る。すると奴は何故か盾を投げ捨てた。何かと思うと、今度は奴の肩からいきなり何かが飛び出す。それが奴の腕だと認識した。さっきとは全く違う、圧倒的威圧感。本当にこいつは片手剣アビリティの情報を持っている。瞬時に俺はそう確信した。
ライトエフェクトと共に素手だった手に武器が召喚される。さっきまで盾を持っていた手にはもう一本の剣が、新しく増えた腕には斧とトゲトゲの棍棒が握られていた。
「そう簡単に情報はやらないって事ね」
「腕が四本だから、四人なのか」
一ノ瀬と篠宮がそう呟く。そして、篠宮の呟きになるほどと共感する。その考え方ならば、一人一つの武器を抑えればいける。
「白石は棍棒をお願い。篠宮は斧を。私と進藤は剣を抑えるわ」
流石一ノ瀬。即座に状況を把握して的確な指示を出してくる。勿論全員その指示に異論はない。
ミレースが地面を蹴った。俺達はそれを見て構える。ドシドシと足音を立てながら奴は最初に棍棒を動かした。その瞬間、白石が突っ込み、大剣を振るう。大きな金属音が響き、奴の棍棒を抑える。その瞬間三人は地面を蹴った。全武器を抑えつつ、隙を見て奴を攻撃。効率よく奴のHPを削っていく。
「うおおおっ!」
雄叫びを放ちながら剣を弾く。隙を見て一瞬Pゲージを溜めて青いライトエフェクトを纏った剣を奴の脇腹に叩き込む。
(おかしい……)
戦いながら俺は疑問に思った。確かに奴は強い。だが、全員致命的なダメージを受けているわけでもなく、それどころか着々と奴のHPを削っていく。これ程までにスムーズにいくとは思っていなかった。そのスムーズさを疑ってしまうくらいに。
一息つくためにバックステップで距離を取る。さっきよりは速度は落ちたが、奴の三本目のHPバーも残り二割。もう少しで最後のHPバーを拝める。そう思ったその時、奴の名前に目が行った。
(ヘキサ・ミレース……)
どうもヘキサという言葉に疑問を抱く。何処かで聞いた事があるのだ。
(ヘキサ……ヘキサ…………)
脳内でその言葉を連呼する。なんだろうか、そう思ったその時、篠宮に声をかけられる。
「進藤、なにぼさっとしてるんだ」
そう言われてハッと顔を上げる。もう少しで最後のHPバーへと突入しそうだ。そうだ、考えている時間はない。このままゴリ押しでいく。そう思ったその時、長年のゲームで鍛えられた勘が全力で俺の前進を阻む。
なんの根拠もないが、モンスターの強化や形態変化なんかは敵の切り札。つまり死に際に使うものだと思う。しかしミレースはHPバーの半分で進化した。なんの根拠もない。だが、俺の勘がこう叫ぶ。まだ先があると。
しかしその先はなんだろうか。武器の変化だろうか。自身の強化だろうか。
(ヘキサ……)
俺はその瞬間、一つの図形が脳内浮かび上がった。それはパズルを組み合わせるゲームで見た六角形の図形。名前は確か……ヘキサゴン。
「ろく……」
そう呟いた瞬間、俺は叫んだ。
「ダメだ! 直ぐにそいつから離れろ!」
俺が叫んだ時には遅すぎた。何故なら奴のHPバーは三本目が消滅し、四本目へと変化していたから。その瞬間、さっきの倍速、いやそれ以上の速度で新しい腕がミレースの肩から生えた。即座にライトエフェクトから生み出された武器を装備する。武器はランスとレイピア。
一瞬見えた斬撃と共に周囲にいた三人は吹っ飛んだ。奴が武器を振り回したのだろう。そしてあらわになったヘキサ・ミレースの本来の姿。六本の腕。ヘキサとはそれを表していたのだ。
ヘキサの意味がわかったところでこの状況はなにも変わらない。吹っ飛ばされた三人を見ると、HPは半分を切っている。相当な一撃だったのだろう。そう思ったその時、一本の剣が俺の直ぐ近くに突き刺さる。これは篠宮が持っていた片手剣。
ミレースが叫んだ。奴の赤黒い瞳孔が残像を残す。《バーサーク状態》だ。状況は最悪と言っていい。そしてその殺意の満ちた瞳孔を一ノ瀬に向けた。一ノ瀬がタゲを取ったのだ。
(まずい!)
俺はそう思ったその時、全力で地面を蹴って走り出していた。




