帰宅
ネトゲ部
俺の頭の中ではずっとその文字が回っていた。そもそも部活に誘われた事なんて一度もなかった俺だ。どう対処すれば良いのかわかったものじゃない。
「どうするべきか」
入りたいと思う自分がいるのはわかってる。でも、入ってはいけないと言っている自分もいるのだ。その原因は中学時代の記憶。それがまさに今フラッシュバックしているのだ。
『お前出しゃばんなよ!』
『カッコつけてんじゃねーよ!』
「…………」
胸の奥で何かが痛む。俺はそれを手で抑えた。あの時と同じだ。もう、こんな思いはしたくない。
そうこうしているうちに足が止まった。顔を上げると自分の家が目の前にあった。自分の事ばかり考えていて全然気づかなかった。まだ一ヶ月とはいえ体はちゃんと自分の家の位置を覚えていたみたいだ。
「ただいま」
家の扉を開けていつも通り一言。
「お兄ちゃん。お帰り」
帰宅早々、妹の進藤明香が出迎えてくれた。茶髪のポニーテールの妹は現在小学六年生。勉強も出来るし家事も出来る。おまけにクラスの委員長ときたものだ。俺とは正反対である。
「…………」
「どうした明香? ボーとして」
「はっ……な、何でもないよ」
何故かボーとしていた明香に声をかけると慌てて返事を返して来た。疑問に思い首を傾げるが、まあ聞かない事にしよう。
「ご飯、もう出来てるよ。今日はステーキだよ」
「お、やったね」
さっきまでの思考を無理矢理振り捨てて俺は靴を脱いだ。
夕飯を食べ終え、明香の後に風呂に入った俺は湯船に浸かって声をあげた。
(部活、どうしようか……)
夕飯の時もそればかり考えていた。その結果何度も明香に声を掛けられ、考えられなかったのだが、ここならじっくりと考えられる。
そんな事を考えていると、扉の奥で人の気配がした。その後にドライヤーの音が聞こえれてくる。どうやら明香が髪を乾かしているみたいだ。
「お兄ちゃん」
これからじっくり思考を回そうとしたその時にいきなり明香が声を掛けて来た。
「どうした?」
「今日何かあった?」
「なっ……」
まさか見抜かれていたとは思っていなかった。俺は参考までにその考えに至ったかを聞こうと思った。
「なんでそう思うんだ?」
「だってお兄ちゃん、何時もより疲れた顔してたもん。それに帰ってくるの遅かったし」
「流石我が妹」
「それ私が電話してた時表示されてたやつでしょ。恥ずかしいから変えといてよ」
まさかそこまで見抜かれていたとは思ってもみなかった。流石我が妹。後で表示変えとこ。
「それで、何があったの?」
ここまで聞いて来た妹を俺は止められた事がない。俺は仕方なく妹に相談する事にした。
「風呂出てから説明するよ」
俺はそう言って湯に沈んだ。
「部活?」
「ああ」
「なんの?」
「ネトゲの」
俺がそう短く説明すると明香は全てを理解したみたいだ。
風呂から出てリビングに入ると、明香はソファーに座っていて、俺を見るなり自分の横のソファーを叩いた。何時も髪を縛っている妹が髪を縛っていないのを見るのは久しぶりで新鮮だった。俺は無言でそこに座って部活の話を始めたのだ。
「中学の時と同じ目に合う気がするから、入ろうか迷ってるんだよね?」
俺は無言で頷いた。中学時代の俺のトラウマ。それは俺の友達と一緒にやっていたネットゲームの話だ。一緒にプレイしていた結果、殆ど俺が活躍してしまったのだろう。そこからは周りから叩かれ、ハブられ、結果的には周りから誰もいなくなった。そこからだ。俺が一人でゲームをし始めたのは。
「別にお兄ちゃんは何も悪くないんだけどね」
「でも、嫌われた事には変わりない」
「確かにね。それで今回もまた嫌われるかもしれないから部活に入ろうか迷ってるんだよね」
「なんで俺が迷ってるって思うんだ?」
俺は妹と会話していてずっと疑問に思っていた。それは何故俺が迷っていると分かっているのかだ。
「だってそうじゃなきゃこんなに暗い顔してないよお兄ちゃん」
「お前凄いな」
思わず感心して言葉が漏れた。
「お兄ちゃんともう十一年一緒にいるんだよ。それくらい分かるよ」
感心し過ぎて怖くなって来た。
「それで、入りたい気持ちもあるんでしょ」
「まあ、せっかく勧誘されたんだしな」
「なら入ったら?」
「簡単に言うなよ」
そう、簡単な話じゃないのだ。これは俺の過去との戦いとも言っていい。
「お兄ちゃん。前に私が友達と喧嘩して仲直りしようか考えてた時、なんて言ったか覚えてる?」
いきなりの問い過ぎて全くわからなかった。と言うかわからない。
俺が首をかしげると、我が妹はにっこりと笑いながら答えた。
「『前進を恐れるな』そう言ってたの覚えてない?」
そう言われて思い出した。確かに俺は二年程前明香に相談されてそう返した。でも、まだ覚えているとは思っていなかった。事実、結構恥ずかしい事言った気がするのだが。
「この言葉、今の私の支えみたいなものだから」
嬉しかった。自分の妹からそんな言葉を貰えるなんて思ってもいなかったからだ。何故か胸が熱くなる。
「だからお兄ちゃんも前進を恐れちゃダメだよ。ただでさえ人と関わらない人なんだがらお兄ちゃんは」
「うっさい。ちゃんと友達できたわ」
「何人?」
「一人……」
明香が「少なっ」と言って笑った。その笑顔に俺は少し頬が緩んだ。
「わかった。入るよ。相談に乗ってくれてありがとう」
「うんうん、いいよ。また相談してね」
明香はそう言ってソファーから立つと、階段を登って言った。
「頑張ってね」
そう言われて嬉しかった。俺はその言葉に頷き、言った。
「ああ、頑張るよ」