遠征
土曜十二時。早く着いた茜はホームに入って三人を待つ間にスマホゲームで遊んでいた。オンラインFPSゲームだ。始めてからまだ二分程だが、連続で八キルしている。そろそろ新記録更新だ。
「やっぱり早いなお前」
隣で声がしたので振り向く。そこには珍しく二番目に来た進藤がいた。
「進藤、早いな今日は」
「明日香に早く行けって言われたんだ」
進藤はそう言って溜息を吐く。恐らく強制的に行かされたのだろう。進藤は茜の隣に座ってスマホを触りだした。
気を取り直してゲームをしようと思ったその時、相手にキルされる表示が出た。
「な……」
しまった。進藤に気を取られて完全にゲームを放棄していた。もう少しで新記録更新だったのにこれは辛い。
「何やってんだ?」
進藤はそう言ってスマホ画面を覗き込む。
「ストームバレットか。面白いよなこれ」
「進藤もやってるのか?」
「ああ、まあたまにだけど」
まさか進藤も同じゲームをやっているとは思わなかった。
「そうだ、一緒にやらないか?」
何処かの国のサーバーで部屋を作ればみんなで出来る。茜は誰かとゲームがしたかったのだ。ここ最近勉強ばかりでつまらなかったからだ。昨日の部活は先生の話が長引いて少ししか出来なかったし。
「いいぜ、何処でやる?」
「日本サーバーで行こうと思ってる」
「まじで? 日本サーバーは害悪プレイヤーしかいないから嫌いなんだよね」
進藤の言う事は最もだ。キャンパー、隠れて敵を待つプレイヤーや害悪と呼ばれる武器を使用しまくるプレイヤーが大勢いるのだ。しかし、そんな環境でゲームをする事を最近はしている。理由は至って簡単だ。強くなる為。進藤の強さはここ一ヶ月で凄く間近で感じて来た。だからこそ感じるこの距離を、埋めたかったのだ。
「まあいいや、開いといてくれ」
しかし、進藤は何時もの表情でそう言った。
「嫌じゃないのか?」
「嫌だけど、篠宮がやるんだったら付き合うよ」
進藤がそう答えてくれて嬉しかった。茜は小さな声で「ありがとう」と呟いて部屋を開いた。
十五分後。完敗である。
「強過ぎだろお前」
「結構やり込んでるからな俺」
「たまにじゃないのか……」
進藤にそう突っ込みつつ溜息を吐く。これじゃ進藤を超えるには時間がかかりそうだ。
「お、進藤、茜」
祐奈と舞がホームに入るや否や手を振って来たので、手を振り返す。
「早いですね」
「しかも進藤が二番なんて」
「篠宮は絶対一番なんだな」
そんなたわいのない会話をしていると電車が来た。予定では後十五分後のものに乗る予定だが。
「もう乗って行きましょ」
「そうだな」
茜と進藤は立ち上がり、電車が停車するのを待つ。キィィィと耳が痛い音が鳴ると同時に止まり、開いた扉を潜って中に入った。もうそろそろ七月と言う事で、電車内は冷房がかかっていた。
「涼しいー」
「祐奈ちゃん。電車内では静かに」
祐奈が声を上げ、舞が注意する。この二人は本当に相性が良いなと実感した。そう思った後、隣に座る進藤に目をやる。進藤は何故か表情を曇らせていた。何か考え事をしているのだろう。何をしているのか聞こうとしたが、集中モードに入っているので声をかけない事にしておいた。




