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夜中

「はあ……」


 ベッドにうつ伏せになったまま篠宮茜は溜息を吐く。そりゃあんな事があった後では溜息の一つくらい出る。罪悪感が心を押しつぶしそうだ。


「なんで受けたんだろ……」


 その疑問がさっきからずっと頭の中を駆け巡る。このデュエルは進藤の全てがかかっていると言っても過言ではない。なのに何故……。


 時刻は午後八時。十八時間後には進藤が部活と自分を賭けてデュエルをしている時間だ。自分がするわけでも無いのに緊張してくる。


(今頃あいつ何してるだろう)


 ふとそう思う。茜は枕元に置いてあるスマホを手に取り連絡先を開き、進藤を見つける。


(電話、しようかな……)


 そう思った瞬間、顔が凄く熱くなった。


(な、何を言っているんだ私は。男子に電話かけるなんて……)


 そんな事を思いつつ前に一回電話した事がある。だがあの時はあっちが先に電話をしてきて……。


「あーもうじれったい!」


 茜は勢い良く通話ボタンを押した。


 耳元にスマホを近付け、コール音を何度も聞く。なかなか出ない。やっぱりやめた方がよかったと思い、電話を切ろうとする。


『もしもし』


 しかしその一方手前で声が聞こえ、寝転んだ状態から坐り直す。。やっと出たと思ったが、何故か声が高い。ていうかこの声の持ち主は男子ではない。


「もしもし、進藤……修也君ですか?」

『いえ、妹の明日香です』

「妹?」

『はい、あなたは?』


 進藤に妹がいたとは初耳だ。


「私は進藤と同じ部活の篠宮茜だ」

『あ、あなたが篠宮さんなんですね。兄がお世話になってます』


 話を聞く限り、明香は茜の事を知っているようだ。情報源はなんとなく見当がつくが、凄くしっかりした妹さんだ。本当に進藤の妹なのかと内心疑ってしまう。


「今修也君は何処に?」

『もう寝てますよ』

「もう? まだ八時だぞ」

『兄は昨日遅くまで起きていたみたいで、そのせいだと思います』


 そう言えば今日進藤の目の下にクマが出来ていたなと思い出す。


『あの……兄になにかあったんですか?』


 明香はいきなり確信をついてきた。茜はどう対応しようか考えたが、妹になら伝えるべきだと考え、全てを話した。


『そんな事があったんですか……だから今日の活動の事は教えてくれなかったんですね』


 茜の予想は正しかった。やはり進藤は妹に部活の事を話しているようだ。


『もしかして、気にしてますか?』


 思っていた事を的確に当てられて驚く。この子は本当に妹なのか? お姉さんと言われても疑えないぞ。


「ああ、そうなんだ」

『篠宮さんが気に悩む必要は無いと思います。兄ならどんな状況でもそうしただろうし』

「どうしてそう思うんだ?」


 ふと疑問に思った。どんな状況でもその選択を取ると確信を持てる明香に疑問を感じたのだ。


『兄は最近明るいんです』

「え?」

『多分、またみんなでゲームを出来ているからだと思います』

「どういう意味だ?」


 ゲームを一人でやる事は別に普通の事だ。なのに、進藤はみんなでゲームをしたら明るくなる。それには疑問だ。しかし、その疑問の答えは驚くべきものだった。


『兄は凄くゲームが上手くて、中学の時によく友達と遊んでいたんです。でも、兄が強すぎる上、周りの友達は一緒にゲームをするのが楽しくなくなったんです。だから兄はそれまで遊んでいたグループから外されました』

「そんな……事が……」


 そう言えば心当たりがある。リザードマンとの対戦の時、進藤は初心者とは思えない動きで戦っていた。その事を踏まえて言うと、あの時のタッグデュエルの時は完全に手を抜いていた……いや、抜かなければまたその時と同じ状況になってしまうと思ったのだろう。


『茜さん』


 明香が改まった感じで自分の名前を呼んでくる。


『兄は部活がなくなるのが嫌だから、その勝負に乗ったんだと思います。だから……』


 明香が少し間を置いた。それだけに重要な事なのだろう。茜は彼女の話を無言で聞き続けた。


『お兄ちゃんを見捨てないでください!』

「……っ!」


 さっきまで凄く大人びていた明香がこんな事を言うなんて思ってもいなかった。しかし、そこからは進藤を慕っている事がビシビシと伝わってくる。


「お前は、進藤が好きなんだな」

『なっ……そんなつもりじゃなくて、その……』


 戸惑いながら言う彼女が凄く可愛らしく思えた。


「心配するな。私は何があっても進藤を見捨てない。それに、お前の話を聞いていると、正直進藤が勝つ気がしてきた」

『当然です。お兄ちゃんは最強ですから!』


 自信満々に言う明香の声を聞いて思わず吹き出す。すると、電話越しからも笑い声が聞こえてきた。一度明香と会ってみたい。そんな衝動に駆られた。


『それでは、お兄ちゃ……兄をよろしくお願いします』


 落ち着いたのか、進藤の事を兄と呼び直した。


「ああ、任せろ」


 そう言って、電話を切った。


 進藤の秘密。知るべきだったのか否かは分からない。でも、進藤にはもう同じ思いはして欲しくない。それが今の自分の本音だ。


 茜はスマホを枕元に置いて、一言呟いた。


「私も寝るか」


 茜はそう言って電気を消して目を閉じた。




 午後一時半。誰もいない廊下を歩いて茜は部室の扉を開けた。そこにはもう既に進藤がスマホを操作して座っていた。何時もなら自分が一番早いが、まさか先を越されているとは。


「早いな、進藤」

「まあな」


 素っ気なく答える進藤に茜は少し間を開けて言った。


「勝つ……よな?」


 進藤の手が止まった。その次に静かな部室内に進藤の声が短く、そして強く響いた。


「ああ」

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