寝坊
着信音で進藤修也は目が覚めた。ゆっくりと体を起こし、振動するスマホを手に取る。『我が妹』と表示されたスマホ画面を見て少し呆れる。この調子だともう家には居ないだろう。
頭に付けてあるリング状のVRマシーンを外し、応答ボタンを押す。
『あ、お兄ちゃん。起きた』
「お前家出るの早過ぎだろ」
『お兄ちゃんが寝過ぎなの。またゲームやってて寝落ちしたでしょ。程々にしてよ』
二つ下の妹から注意を受け、自分の不甲斐なさに溜息が漏れる。時間は七時半。確かに寝過ぎた。
『朝ご飯用意してあるからちゃんと食べてから学校行ってよ。後、寝坊したから今日の弁当は無しね』
「分かってるよ、お前も気を付けて学校行け」
『もう着いてるよ』
「俺の心配を返せ」
妹の行動の速さは本当に見習うべきだと常々思う。が、流石に今日は早過ぎだろ。
「もう切るぞ」
『うん、今日も一日頑張ってね。お兄ちゃん』
ブチっという音と共に電話が切れた。流石行動が速い。
俺は大きく伸びをした。そしてベッドから降りて呟く。
「学校行くか」
教室に入って自分の席に着くと後ろの席の早水勇気が話しかけて来た。
「おっす進藤」
「よっす」
毎度同じく最速で返事を返す。それと同時に大あくび。
「相変わらず冷たいなぁお前。寝不足か?」
「ああ、寝落ちした」
「もしかして《バトル・アリーナ》か」
《バトル・アリーナ》ユーザー数二千万人を超えた今超人気のVRゲーム。主に近接戦闘がメインのゲームで、デュエルは勿論、モンスターをみんなで倒したりなどするゲームだ。
「いや……別に……」
俺はその質問に素直に答えることが出来なかった。しかし、早水はその返答に食いついた。
「んじゃ今日から始めようぜ。今度友達と一緒にミノ剣倒しに行くんだけど、ついてきてくんないか?」
ミノ剣。つい二日前にアップデートで追加された大剣持ちのミノタウロスだ。初討伐にも十分掛かったと言うなかなか強いモンスターだ。
「俺友達四人と一緒に行ったんだけどさ。勝てなくてよ。参加してくれよ」
昨夜の記憶が蘇る。肩に受けた衝撃が走馬灯の様に脳裏で過ぎった。俺は拳を握り、少し小さめの声で言った。
「遠慮しとくよ」
「そうか……なら良いんだけど」
早水は俺の言葉を聞いて肩を落とした。そんなに気を落とさなくてもと思い、罪悪感が残る。そもそも俺はもう誰ともゲームが出来ないと思っている。理由は中学の時の出来事。
「よし、ホームルーム始めるぞ」
いつの間にか担任が教卓について居たので俺は思考を振り捨て、体を前に向けた。