表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
6/25

2-2 狩人の証言

ヴァロたちは異端審問官『狩人』の人間が運び込まれたという病院に来ていた。

ここに来たのは四人ヴァロ、フィア、クーナ、ココルである。

ドーラは破壊された城壁後で何やら調べていた。

ドーラの肉体は元々はウルヒと言う『狩人』の肉体である。

連れて行ってラウィンの時のように戦闘行為になるのは避けたかったので、ヴァロはドーラをほっておくことにした。

クーナはメルゴートの件もあるからいいとヴァロは言ったが、フィアと同行したいという本人の希望もあり一緒にやってきた。


ヴァロたちはエーダのところに行く前に病院へやってきた。

「おや、フゲンガルデンにいる『竜殺し』が見える。あー。ついにうちにも幻覚が…」

その少年は手を目に当て、大げさに振る舞ってみせる。

「ミズチさん」

このミズチと呼んだ少年のかっこうをした『狩人』にヴァロは近寄る。

頭と片腕に包帯を巻いていた。

その姿は三年前にフゲンガルデンで会った時と変わらない。

当時彼は以前自身の倍以上もある魔器を振り回し、背丈の十倍以上もある巨人と戦っていた。

見た感じは十代前半なのだが、実際のところはどうなのだろう。

異端審問官『狩人』にいる者はよくわからないものが多いためだ。

それというのも、異端審問官『狩人』に入る者は高い魔法抵抗力を有していなくてはならず、そういった者は魔女や魔族の血が混じっているのだという。

ゆえに歳を経るのが遅い者もいると言われている。

「あら、フィアさんまで?聖堂回境師になったそうだね。すごいじゃないか。

それですごくきれいになってきたね。一瞬誰かと思ったよ…」

「お久しぶりです。世辞が上手ですね」

フィアは笑ってそれを受け流した。

「世辞ではないんだけどな。それでそっちの子供と別嬪さんは?」

少年のなりをしたミズチに子供と呼ばれココルは少しカチンときたようだ。

なにやら物騒な気配を垂れ流しはじめた。

「ふ、二人は俺の弟子のココルとフィアの従者のクーナ」

「ふーん。フィアさんは聖堂回境師になったって聞いたから従者は当然だけど、ヴァロが弟子ってねえ。フゲンガルデンでひよっこだったヴァロが成長したね」

ココルのことは無視してミズチは続ける。

「それで?ギヴィアにはその子のこと話した?」

ギヴィアと言うのはヴァロの師のことである。

以前『狩人』に入る前にヴァロはギヴィアと大陸中を回った。

「…まだです」

ヴァロの言葉に嫌らしい笑みをミズチは浮かべる。

「大体ギヴィアの反応は読めるけどねー」

ミズチはヴァロの反応を見てどこか楽しんでる様子だ。

「バルケもいるんだ。奴にも会ってくかい?」

「ええ」

「じゃ、ついてきて。アイツの方が重傷で今はベッドの上で寝てる。歩きながら話そう」

ミズチはヴァロたちに背中を向けると、病院の通路を歩き始める。

「あの方は何者なんですか?」

ココルはヴァロと会話するミズチに不穏な視線を送りつつフィアに尋ねる。

「以前私たちがフゲンガルデンで世話になった『狩人』のミズチさん」

ココルの問いにフィアが答える。

「何者って…『狩人』での立場かな?ああ見えて『狩人』でもかなり上位の方よ。

私が見たときは序列でも十位ぐらいにみたわ」

フィアの言葉にココルは表情を一変させる。

十位と言えば数ある異端審問官『狩人』の中でもトップの部類にはいる。

それどころか、『狩人』の方針に関与できる発言権を持っている。

「以前フゲンガルデンで私とヴァロはお世話になってるのよ。ヴァロから見れば先輩かな」

それはかつて魔法結社メルゴートがルベリアに率いられ、フゲンガルデンの地下に眠る第三魔王クファトスの復活を目論んだ事件である。

「人は見かけによらないっていうか…すごい方なんですね」

ココルは納得した様子だ。

当の本人はヴァロと二人で歩きながら会話している。

「うちのほうも対応したんだけど、もうめちゃめちゃ。

ここの狩人本部は大忙しだからあまり顔出さないほうがいいよ。

ここを仕切っているルフナッツの奴、議会からいろいろ言われたみたいで異様にピリピリしてる」

ミョテイリを護れなかっただけではない。

さらにその魔族を取り逃がしたとあれば、面子を完全に潰された恰好ともなる。

ピリピリしているのは当然とも言えよう。

「魔族はどんな相手だったんですか?」

ヴァロにはそれが気になった。

「見た目は普通の人間だった。ただうちの攻撃も片手で止めやがった」

ミズチは瞬間的にその小柄な体から信じられないような力を出すことができる。

ヴァロはフゲンガルデンの巨人との戦闘でそれは何度も目の当たりにしている。

本気になれば巨大な岩を真っ二つにすることができるだろう。

そんなミズチの攻撃が片手で止められるとは想像がつかない。

「そのあとうちは魔力を放出され壁に叩きつけられてうちは戦線離脱。

ここにいる『狩人』で無傷なのは外回りに行ってた数名だけ。

バルケの奴も一撃だった。辛うじて死人は出なかったけどみーんな満身創痍。

討伐隊の編成も行ける人がいないから、今エーダが本部にかけあってる」

ここから本部まで馬で飛ばしても一週間以上はかかる。

それは事実上の異端審問官『狩人』の敗北に等しい。

「うちらじゃ、戦闘にすらならなかった。

今まで魔獣だの魔女だのさんざん狩ってきたが、奴らの力は違い過ぎる。

アイツらは災害そのものだ。災害が人のカタチをして動いているようなものだった。

うちらの中には魔器まで折らた奴までいたよ。

ここまでやられると悔しいとかいう感情も生まれてこなくなるね。

うちは金輪際相手になんてしたくない」

それ以降ミズチは口を閉ざしてしまった。


その病室の奥に巨体がベッドの上で本を読んでいた。

「…バルケさん」

ヴァロの声に反応し、バルケは上体を起こす。

「みっともねえところ見せちまったな」

いたるところに包帯が巻かれている姿は見ていて痛ましい。

「そんな、こちらは気にしないでください。…とにかく生きててくれて本当によかった」

ヴァロの言葉にバルケは照れくさそうに鼻を触る。

「あんたらは…」

一通り自己紹介がすむと、バルケはそのときの状況を語り始めた。

「…奴らの仲間が俺のトドメを刺す寸前に止めたんだよ」

仲間が止めたという言葉にヴァロは驚きの表情を見せる。

「そいつら何を言ってたかわかりますか?」

もし名とか会話に出していれば少しだけでも手がかりにつながる。

ヴァロの言葉にバルケは首を横に振る。

「何を言ってるのかさっぱり聞き取れなかったな

…訛りや方言とじゃないな。まるっきり言語が違うって感じだった」

言語が違う…その言葉にヴァロもフィアも顔を見合わせる。

その存在に心当たりがあったからだ。

現在この大陸で人間の住む場所で使われているのは一言語だけ。

方言や訛りはもちろんある。それは四百年前に起きた第二次魔王戦争のためだ。

この大陸に存在する人類はその版図の大部分を失った。

そしていくつかの都市に逃れてきたという。それが現在の結界都市である。

その期間は二十年以上におよび、その時に人間の扱う言語が統一されたのだ。

以前には幾つかの言語が存在したらしいが、少数の民族とともに死に絶えている。

「その上奴らここの本気の氷結結界からも自力で抜け出しやがった。未だに信じられねえよ」

「…氷結結界は起動していたのですね」

フィアは険しい表情でつぶやく。

「ああ、見たこともないくらいのどでかい氷柱が建ったぜ。

城壁の二倍もありそうなやつがな。ただそれを奴らは無造作に壊しやがった。

フゲンガルデンもやばいと感じたが、あの時の比じゃねえよ。

今回ばかりはいくらなんでも異常だぜ」

バルケの手は震えていた。

「そんなことって…ありえないわ」

クーナはバルケから語られる言葉を否定する。

氷結結界は起動していた。それも最大出力でだ。

もしそれが真実ならば相手は魔王級の化け物だということになる。それが五体。

その事実にヴァロは愕然とする。

考えたくもなかった。そんなことは信じたくなかった。

ただヴァロとフィアはその存在とはすでに出会っている。

一撃で地下世界を吹き飛ばすほどの力の持ち主。


バルケの病室を出るとフィアはヴァロに近づいてくる。

ヴァロだけに聞こえるように小声でぼそりとつぶやくように言ってくる。

「ヴァロ…これに関わっているのは」

「異邦だな」

二人の認識が一致した。

ここにきてそれは確信となる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ