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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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1-3 丘の上から見えたモノ

それはずっと昔のことだ。

夕暮れの学院の一室である。教室には二人の人影があった。

一人はせっせと何やら書類を作っている様子だ。

「ドーラ、取りあえずおめでとうとだけ言っておく」

友人の言葉にドーラは筆を止める。

「ああ、論文のことカ」

思い出したようにドーラ。

「君の論文も素晴らしかった。今度是非実践してみたいネ」

「俺に勝ったお前が言うと嫌味にしか聞こえないんだが」

「本心サ」

その友人は言葉では悪態をつくも、表情はどこか照れている感じである。

「…ドーラは、学院を出たらどうするつもりだ」

ドーラは筆を止めずに友人の問いに答えた。

「宮廷に行くことになってるヨ。そこでクファトス王に仕えるつもりサ」

クファトス王は三人目の王であり、その圧倒的な力の下に七人の王を従えているという。その存在を誰もが敬い、誰もが憧れた。人間からは魔王と恐れられているらしいが。

「宮廷からの募集枠ドーラが取ったのか」

学院に一名宮廷からの募集が届いたのだ。

ドーラはその募集を受けるという。

「そうなるネ」

「なんでお前と同じ世代なんだよ。事あるごとにお前と比べられて嫌になるぞ。

学院に来たと思ったらたった四年で最上クラストップの俺を抜いて進学決めるとか本当になんなの?お前さ。それに学院始まって以来の天才とか何だとか。やってられるか馬鹿野郎」

「周りが勝手に言ってるだけダロ。僕は僕ダ」

感心なさそうにドーラは言う。

「…お前はそう言う奴だったよな。

そう言えばクファトス王に仕えることはお前の長年の夢って言ってたっけな。

よかったな。ドーラの長年の夢がかないそうじゃないか」

その友人はわがことのように顔をほころばせた。

ドーラも表情を緩めた。

「ありがとネ。…そういうモールはどうするんダイ?」

「もう少し学院に残って宮廷の募集を待つ。宮廷からの募集が来たら必ず行ってやる。

クファトス王に仕えることは俺にとっても憧れだからな。…覚えてろよ」

ドーラはその友人の言葉に少しだけ吹き出した。

「そうカ。なら僕は宮廷で待ってるヨ、モール」

夕暮れの教室でお互いは腕をぶつけ合うしぐさをしてみせる。

それが二人の誓いだった。


気が付けば目の前には灰色の雲がある。

ミョテイリに向かう途中である。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。

「…なんだ昔の夢か」

もう戻らない過去をドーラは思い返す。


クーナは何度かミョテイリを訪ねたことがある。

もちろん仕事でだ。

まだ彼女の所属するメルゴートが存在した時に、所要でミョテイリを訪れたのだ。

あのエーダと出会えたのはほんの一度。それも遠巻きに見ていただけだった。

部下のエリート意識が強すぎるのだ。

そのために簡単な用件ならば、その場で済ませてしまう。

エーダと言う聖堂回境師には会うことは相当困難と言ってもいい。

それだけに今回の訪問はクーナにとって楽しみでもあった。

「言っておくけど、ミョテイリにいるのは実力者揃いと聞いてる。

エーダ様は知らないけど、従者の方は変なプライド持ってるからかなり付き合いづらいわよ?」

クーナはミョテイリに近づくにつれ妙に口数が多くなってきた。

「その当の本人のエーダって聖堂回境師はどんなヒトなんだ?」

ヴァロはためしにクーナに尋ねてみる。

「大魔女に継ぐ容姿の持ち主と言われ、さらに三百年前に就任して依頼その姿は変わらないとまで言われてるわ。それで『氷姫』(プリンセス)なんていう二つ名がある。

…もうここまで来たら信仰ね」

「…すごい人なんだな」

「…私の昔いたところでもミョテイリの聖堂回境師エーダ様に憧れる女性は多くいたの。ミョテイリの弟子の応募がかかるとものすごい倍率だったのは有名でね、三十年前の応募では一人の枠に対して各結社から千人以上の応募が殺到したとか…」

「うわ…」

フィアは思わず驚きの声を上げる。

「クーナもその一人だったんだ」

にこにこ微笑みながらフィア。

悪意の無い笑みにクーナは言葉を詰まらせる。

「そ、そんなこと…」

クーナは視線を外す。ここでヴァロは事情を察する。

「そうそうやけに詳しい上に、なぜか様付けだしな」

ここでヴァロがダメ押しをする。するとクーナは顔を真っ赤にして開き直った。

「そーですよ。私も憧れてた一人ですよ。

当時私はまだ見習いだったから応募できなかったのっ。これでいいでしょ」

ヴァロたちはにやにやとクーナを見ている。

「クーナさんにもかわいらしい一面があるんですね」

一瞬ココルの言葉にその場が固まった。

「…ココル、後でおぼえておきなさいよ」

にこやかにクーナはココルに死刑宣告を告げた。

こちらに助けを求める視線を投げてくるも、猛獣を追い詰めたのはココルだ。

何をされても文句は言えまい。

ヴァロは無視を決め込んだ。


「憧れ…そう言えばアイツもそんなことを言っていたナ」

やり取りを見ていたドーラは一人ぼんやりとつぶやく。


「見えてきたわね」

クーナの視線の先には城壁が。

眼下に見えるのは大陸でも随一と言われる美しい城壁が無残に破壊されている様だった。

前の食堂の主人が言っていた吹き飛ばされていたという表現がぴったり合う。

それはヒトの手によるものではない。

魔剣ですらここまでの破壊はできないだろう。

「そんな…本当に破壊されてる」

クーナは驚愕の表情で声を漏らす。

「…これが災厄の始まり」

フィアはそれを見るフィアの顔は絶望に染まっていた。

若かりし時代のドーラ登場。

学院時代のモノです。第一魔王が作り上げたという設定もありますが、

それはまた後で描くかもしれません。

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