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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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7-3 決戦の始まり

「学院を出る時を覚えているか?あの日もこんな夕暮れだったな」

その真っ赤な部屋には二人だけだ。

「そうだネ」

ドーラは空返事を返した。

「魔王軍は解体され、明日にもここを引き払うそうだ。ドーラはこれからどうする?」

「僕は…」

言いかけてドーラは口をつぐんだ。

一夜にして今まで信じていたモノがすべてまっさらになった。

築いてきたものがすべてなくなってしまった。

夢が、願いが、希望がすべて粉々に砕け散った。

「俺はこれから『邪王』『獣王』『悪魔王』が作るというゾプダーフに行くことにする。

こっちにいても人間たちから目の敵にされるだけだろうしな。ドーラは人間界にとどまるつもりか?」

「…」

何も語らないドーラを見る見兼ねてモールは声を荒げる。

「クファトス王はもういない。いないんだ。幻獣王たちと三人の皇女に裏切られて。

向き合えよ。ドーラは過去の王に囚われ続けながら生きていくつもりか?」

二人の間にしばしの沈黙。

「…すまない。モール、少しほっておいてくれないカ?」

「…すぐにとは言わない。ドーラ、俺は一足先にゾプダーフに行って待っている。整理が済んだら必ず訪ねてこい」

モールと呼ばれる魔族はドーラの肩を叩くとその部屋を出て行った。

あれから四百年経った。



空が橙色に染まり、オーロラがたなびく。

眼下の海にはいくつかの氷の塊が浮いている。流氷である。

その一角のそこには巨大な氷の塊が眠っている。

海から向かってくる強い潮風が音を立て二人の間を吹き抜けてくる。

二人の魔法使いが空中で対峙していた。

一人はとんがり帽子にこざっぱりとした服装。

もう一人はまるで教皇を思わせるローブに身を包んでいる。

「久しぶりだネ、モール」

ドーラの背後には四つの黒い球がぷかぷか浮いている。

「ドーラ、お前が来るのを待っていたよ」

ドーラが探査魔法を放っているために来ることは既にわかっていたようだ。

さながら世界にはその二人だけしかいないようにも見えた。

「それにしてもずいぶんと容姿が変わったな。見違えたぞ」

「こっちにも事情があってネ」

ドーラは小さく微笑んだ。

「容姿は変わってもその服装の趣味は変わらないな」

「モールは変わりすぎなんだヨ。何サ、その恰好」

「クックック…違いない」

二人は変わらないお互いを見て笑いあう。

「…ドーラ、ここには俺を止めに来たんだな」

「ああそうサ」

モールの問いにドーラは小さく頷く。

「『オルドリクス』についてどこまで調べた?」

モールと呼ばれる魔族はドーラに問う。

「『アデンドーマの三忌』は『星の民』の作り出した技術サ。『オルドリクスの魔神器』を再現するためには『船』を取り込む必要があるんだロウ」

ドーラの答えにモールは耳を傾ける。

「ここからは僕の推理だヨ。かつて異邦で『オルドリクス』が再現されたとき破壊された『船』の中核の残骸を使っていたのサ。

君は『オルドリクス』を完成体にするために、ラムードにある『船』の中核を求めてこの地までやってきた、違うカイ?」

ドーラの問いにモールは微動だにしない。

「…『船』の場所は誰に聞いた?」

「リュミーサさ」

「『暁の三賢者』リュミーサ…まだ生きていたのか…」

ドーラが現れた時ですら無表情だったモールの表情に、ここで初めて驚きの色が浮かんだ。

「もうそんなことはやめるんだ」

「…もう遅い。すでに私は三人もの『爵位持ち』を殺している。それにアデルフィは『オルドリクスの魔神器』を許しはしない。

あの方は『アデンドーマの三忌』を心の底から憎んでおられる。間もなくここにも追手がかけつけてくるんじゃないのか?」

「僕がどうにかアデルフィを説得する。だから…」

ドーラの申し出にモールは首を横に振った。

現在異邦の王権を握っているアデルフィは絶対に許さないことはわかっていた。

「…なあドーラ、世界に弾かれたモノ同士、二人でこの世界を終わりにしないか?」

「君は何を言ってるんダ」

ドーラはかつての友人の発言とは思えない言葉に眉をひそめた。

「ドーラ、最も信じていたあの女にお前は否定されただろう。憎くはなかったのか?殺したいと思わなかったのか?」

「そんな感情なんてないサ。僕は望んで封じられたんだヨ。カーナには…僕がしなくちゃならないことまで全部押し付けてしまっタ」

ドーラは苦々しく語る。そこにあるのは憎悪ではなく後悔。

「…やはりあの戦いはあの時代の幕を引く為に行われたモノだったのか」

「…」

ドーラの沈黙をモールは肯定ととらえたようだ。

「…お前たちは本当に…。なら仕方がない、あの女が作り出した世界…それに加担したお前が否定できるはずもないか」

どこか吹っ切れたようなようにモールはうつむく。

二人の横顔を傾いた日の光りが照らす。

「ドーラ、『オルドリクス』の研究をしていてわかったよ。この星は存在してはならない場所だった。

…ここはただの神の辺獄だよ。私は解放者になる。『オルドリクス』を使って」

「解放者?破壊者の間違いじゃないカ?この星にいる者は皆だれも滅びなんか望んじゃいナイ」

「だれも望まずともそれを知れば滅びを受け入れるさ。この星で生きる者には絶望しかない。

…なぜならここは神に見捨てられたただの掃き溜めだからな」

その言葉に二人は黙り込む。二人の間に大きな溝がある。

そして、その溝はもう埋まらないということを二人は感じ取っていた。

「…俺たちはどこで道を違えてしまったのだろうな」

モールはふっと息を吐き出した。

ドーラも同じだ。ずっとあの時が続くものだと思っていた。

戻らない時から目をそらすようにモールは切り出す。

「…俺の考えが違えていると言うのなら力で俺をねじ伏せてみせろ。

最も、わずかしか魔力を持たない人間の肉体ごときで俺に勝てるとは到底思えんがな」

モールの周囲には膨大な魔力が渦巻く。

彼もまた実力者。魔法長候補にも選ばれたその実力は『爵位持ち』にも匹敵する。

「…僕を甘く見ないほうがいいヨ」

ドーラの背後に四つの黒い球が浮かぶ。

「さあ来い、ドーラルイ」

そして、二人の魔法使いの決戦が誰知ることなく北の地で始まった。

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