7-2 点がつながるとき
勝負は既に決していた。
無数に傷を負った巨大な魔族の前に、激しい呼吸で剣にもたれかかる一人の男。
無数の傷を負ったコブリの前でヴァロは汗だくで息を切らしていた。
いかにヴァロに対人戦に分があろうと、魔族の体力は魔力からくるもの。『爵位持ち』ともなればそれは無尽蔵に近い。
持久戦になれば人間ごときが一対一で魔族の『爵位持ち』に勝てるわけがないのだ。
「お前、人間にしてはよくやった」
コブリはその人間の戦士に心からの称賛を覚えていた。
ヴァロは息を切らして剣に寄りかかる。ただその双眸だけは光を失っていない。
「まだあきらめないとは恐れ入った。せめて戦士として敬意を込めて殺してやる。名は?」
「ヴァ…ロ…グ…リフ」
ヴァロの目の前には彼の倍はあろうかと言う魔族がいる。
「そうか、また来世で会おう…ヴァログリフ」
トドメをさすべくコブリが拳を上にあげた。
「師匠」
ココルが駆け寄ってくるもすでに遅い。コブリは拳をヴァロに向けて振り下ろす。
激震が北の地を襲う。何事かと言う表情でコブリは顔を空に向けた。
視線の先には銀と黒の二つの魔力が立ち上っている。
「…まさかヴァキュラ公」
コブリは眉をひそめる。
「ここまで解放しなくては勝てない相手なのか」
コブリは眉をひそめそれを見ていた。
「事情が変わった。ヴァロ・グリフ生きていればまた戦おう」
地面に足跡を残すほどの魔力を放出し、コブリは足から魔力を放出し、その巨体らしからぬ跳躍を見せる。
コブリが姿を消すとヴァロはその場に倒れこんだ。
ココルがヴァロに駆け寄る。
「ひゃひゃひゃ、ヴァキュラ本気じゃないか。これは見ものだぞ」
ジーリアは二つの魔力の立ち上る様をみて、宙で一人笑い転げている。
その前には息を切らしたフィアとぼろぼろの鎧をまとったカリアがいた。
周囲の地面にはいくつもの穴が開いている。
「命拾いしたな、小娘。貴様らとの戦闘はまた今度にしておいてやる。カリア、今回はお前に貸し一つだ」
ジーリアは二人に背を向ける。
「エドランデ、ヴァキュラの元へ向かうぞ」
ジーリアは大声で叫んだ。
「ジーリア殿?」
「こっちはそれなりに楽しめた。エドランデ、面白いものが見られるぞ」
直後ジーリアから放たれる分厚いプレッシャーが消え去った。
「…小娘、忠告しておいてやる。あのヴァキュラ公の本気だ。その威力はお前らの言う聖剣を超える。
とばっちり食らったら死ぬぞ。再戦までその命、せいぜい長らえさせろ」
そう言い残すとジーリアはエドランデと共にその場から消えた。
ジーリアがその場を去るとフィアはカリアの元に向かう。
「カリアさん」
「フィアさん、無事で何より」
カリアはぼろぼろになった魔装を解いた。
鎧越しでもダメージはあったようで、顔には打撲の跡が幾つかあった。
「カリアさん、本当にすみません」
「気にすることはありません。あなたに加勢したのは私が好きでやったことです」
カリアは気にするなと言わんばかりの表情を見せる。
「…今ここに来られているのは我がゾプターフ連邦の公爵を冠するヴァキュラ公です」
カリアの言葉にフィアは驚きの表情を見せる。公爵と言えば『爵位持ち』の最上位である。
異邦の公爵は全部で六人。それぞれの幻獣王に二人づついるという。
そしてそれらは幻獣王に匹敵する実力を持ち、その異邦の政治にすら口を出せるという。
文字通り異邦、ゾプダーフの中枢を担うメンバーの一人。
ヴァキュラと言う名も四百年前の第二次魔王戦争において『聖剣食い』と言われ未だ人間界で語り継がれるほどの手合い。
「ヴァキュラ公は我が連邦でも幻獣王に次ぐ実力の持ち主。絶対に敵対することないよう」
フィアは合点がいった。
ドーラがフィアたちに絶対に関わるなと言ったのはこのためだったのだ。
だとすればドーラは既にあの時点で五人の魔族の正体を見破っていたことになる。
ドーラはこの魔族の存在を知り、別行動を取ることにしたのだ。
「あなた方の任務とは一体どういうものですか?」
フィアはそこに答えがある気がした。
「それは話せません。…あなたと再び会うことができてよかった。それでは」
一礼するとカリアはその場から消える。クーナはフィアに駆け寄ってくる。
「フィア誰よ、あの魔族。それに『爵位持ち』って…。あの男、なんであんたとヴァロを知ってるの?」
フィアは無言で歩き出す。
「フィア、どこに行くつもりよ」
「話をつけにいく」
探査魔法を使ったのは使ったのは相手に自分の位置を割り出されたくはなかったためだろう。
だとすればドーラの目的は魔族。異邦が人間界に五人の『爵位持ち』を派遣する。
五人の『爵位持ち』は軍を動かすに等しい。
ドーラはミイドリイクで一人の『爵位持ち』を動かすだけで王権が必要なことを話していた。
それが今回五人も動いている。
下手をすれば異邦と人間界の戦争になってもおかしくはないほどの行為。
黒幕は異邦の現王であるアデルフィで間違いはないだろう。
言い換えれば、今回の相手は異邦がそんなことまでしなくてはならない相手ともいえる。
不意にリュミーサの言っていた一言がフィアの脳裏によぎる。
ドーラを救ってやってほしいと。
フィアの頭の中で一つ一つの点がつながっていく。
同時にそれは彼女の中で確信に変わっていく。
ここであのヒトを絶対に失うわけにはいかない気がした。
フィアはよろけながら二つの魔力の立ち上る方角へ向かう。
「どうするつもりよ…」
「ドーラさんを救う」
フィアの言っていることの意味が解らずクーナは眉をひそめる。
「待ちなさい。…何よ…これ」
フィアの後を追い、目の前に広がる光景を見てクーナは言葉を詰まらせる。
眼下に見えたはずの雪のあった平原が大地がただの荒野に変貌していた。
一体どういう者たちが戦えばこんな光景になるというのか。
「ちょっと、フィア」
クーナはフィアの後を追射かける。
「今こそその力を示せ、神槍エアリア」
魔術王がその槍を天にかざすと、幻獣王フィリンギの莫大な力が神槍から銀色の魔力が放出される。
「ほっほっほ、これは愉快愉快」
嬉々とした様子でヴァキュラ。
ヴァキュラも人のカタチを崩し、巨大なクモのような全身をあらわにする。
彼は異邦の公爵。最も幻獣王に近いとされる者。この大陸における最強の魔族の一人。
二つのとてつもない力の放出に大気が揺れる。
それはまるで大地の悲鳴のようにすら見えた。
極北の大地で行われているのはまさに世界の終末のような戦い。
二人の力により周囲の大地は地面を削られ、空には二つの力が渦巻いている。
神槍エアリアは書かれたルーン文字を光らせ回転させる。
赤い光がエアリアを包み、ヴィズルは神槍の最強最後の一撃を繰り出すべく構えを取る。
ヴァキュラもまた無数の手で毛玉を作るように魔力の球体を作り出していた。
とてつもない高密度の魔力を宿し、その力は空間に負荷を与え、周囲の空間をゆがめていた。
両者はこの一撃にすべてを賭けようとしている。
決着が目前に迫っていた。




