6-4 魔術王
黒い光線が二人めがけて一直線に落下し、カリアの盾がそれを阻む。
それを行った当の本人の魔族は腕を組みながら宙に浮いていた。
「私が相手になるといっているんだ。退屈させるなよ」
二人を見下ろしながらジーリア。
「ジーリア殿…」
「カリア、私を殺す気でこい。そうせねば、貴様如きの腕では楽しめん」
顔に冷酷な笑みを絶やすことなくジーリア。
「黒い球が…」
ジーリアの周囲に黒い球が数個現れる。
ジーリアが手を振り下ろすと無数にある黒い球が黒い閃光となり、フィアたちめがけて一直線に落下してくる。
それは凍土をたやすく貫通し、足元を穴だらけにした。
カリアは自身に向けられた手にした盾ですべて受けきった。
ジーリアは魔力の範囲を一点に絞ることにより、比較的少なめの魔力でとてつもない破壊力を可能とさせているようだ。
「やはりな。カリアの魔装は私に対しては相性はいいな。このぐらいのハンデがちょうどいい」
面白がるジーリアとは対照的に、カリアの表情には微塵の余裕もない。
「次は少し多く行くぞ」
ジーリアの周囲にはさらに多くの黒い球が展開していく。
フィアはジーリアめがけて魔法を放つ。
「重力魔法?」
「だが、この程度では私の動きを止めることはできんぞ」
空中で腕を組みながらもジーリアは攻撃の手を休めることはない。
「ならこれは…」
背後にいるフィアの背後にある魔法式が発動し、視界を埋め尽くすほどの巨大な火球が現れる。
大きさだけで家が一つ余裕ですっぽりと入るぐらいのものだ。
すでに普通の魔法使いの使う魔法の数十倍の規模がある。
「ぬるい」
巨大な火球を黒い閃光が次々に貫通し、火球を消し去った。
「どうした、その程度の攻撃では私は…」
フィアの前にいたはずのカリアの姿がないことにジーリアは気付き声を止める。
黒い影がジーリアの頭上から地面に落ちる。
黒い影はカリアだ。ジーリアは上空で袈裟斬りにその魔族を肩から切り裂かれていた。
「…ジーリア殿」
甲冑ごしにもカリアが動揺しているのが見て取れる。
「目隠し代わりにその女の魔法を利用したか…ははは、やるな。カリア」
並みの生物ならば絶命していてもおかしくないところだが、その男はなんら変わらない様子で声を上げる。
直後ジーリアの周囲に黒い球体がいくつも吹き出し、カリアめがけて一斉に襲いかかる。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガ
それはまるで豪雨を連想させる。
盾でそれを受けるカリアは徐々に足を屈する。
鎧は貫通することはないものの、息もつかない連撃にカリアはなすすべなく凍土にめり込んでいく。
そのわきでフィアは放つ特大級の黒い球を放っていた。
ジーリアはその黒い球体に攻撃を仕掛けるも、魔族のそばまで近づいてくるとそれは分裂し、魔族めがけて向かっていく。
「はっ、このわずかな時間に私のまねをしたのか、魔法使い?」
フィアの魔法攻撃を躱しながら、その魔族は後退する。
後退しながらジーリアの放つ攻撃をフィアの魔法壁が遮る。
数十に渡る連撃、次第に魔法壁にひびが入っていく。
カリアがフィアの前に現れ、それを手にした漆黒の盾で受けた。
フィアの魔法壁もかなり硬いが、カリアの『魔装』ほど硬度は高くない。
あのまま攻撃を受け続けていたら、魔法壁は破られていただろう。
「フィアさん、助かりました」
フィアの前にはカリアが盾を構える。
カリアの持つ盾は豪雨のような攻撃にさらされてひしゃげている。
「楽しいぞ、私が傷を追わせられるなど久しぶりだ」
ジーリアは楽しくてたまらないと言った様子だ。カリアに斬られた傷はいつの間にかうちに回復している。
ジーリアは再び周囲に黒い塊を展開させていく。
「…今はジーリア候を倒すことだけを考えましょう」
フィアは手にした杖を構え、視界にジーリアを捉えている。
「はい」
カリアがそう言うとぼろぼろの盾と鎧が再び元の姿に戻った。
元々カリアの鎧は魔力を加工したもの、魔力があればそれを元に戻すことなど問題ない。
ただし本人の魔力量と言う限界はあるが。
フィアは強大な敵を前にし、極限まで意識を研ぎ澄ませていった。
クーナは手出しできず悔しさをにじませながらその光景を見ていた。
この状況入り込む隙が全くと言っていいほど存在しない。
目の前に展開するのは次元の違う怪物たちの戦闘。
クーナの魔法壁ではあのジーリアと呼ばれる魔族の黒い一撃から身を護れればよいぐらいだ。
それほどまでのクーナは絶望的なまでの絶対的な力差を感じていた。
使われたのはその時だった。
極北の地に一定の魔力波が発生する。
それの波は北の地を覆うように広がっていった。
「なんだ?」
そこにいた者たちはその小さな魔力波を感知する。
「ドーラさんの探索魔法…」
何度かそれをフィアは感じ取ったことがある。
聖都での事変のあとのことだ。
復活した際にドーラは一度カーナを探すためにその探索魔法を使ったらしい。
フィアはその時と同じ波動を感じ取っていた。
「とても弱いけど…あの時と同じ」
その場ですべてを知るフィアだけがその状況を一人正しく理解していた。
この戦闘は一刻も早く終わらなくてはならない。
その魔力波が誰が使ったのか理解したのはその場ではもう一人いた。
ヴィズルと対峙していたヴァキュラである。
「この波動は…ドーラルイ魔法長か…。ふむ、標的が近いということじゃな」
ヴァキュラは一人納得し、ヴィズルに背を向けてその場から立ち去ろうとする。
「まだ終わってないぞ、爺さん」
そこには右腕を失ったヴィズルがいた。
爆発で骨を覆う肉が消し飛び、白の骨が露出している。とてもではないが戦える状況ではない。
何処からか槍のようなものを出して左手に抱えている。
「小僧、利き腕を失ってもまだわしと戦うつもりか?
闘争心は認めるが、現状を認識できないのは戦士として失格じゃぞ」
背を向けたまま冷やかにヴァキュラはヴィズルに告げる。
「もちろん戦うさ」
ヴィズルの右腕が根元からみるみるうちに再生していく。
「普通の人間ならば戦闘不能に陥っているところじゃが…。人間、この四百年のうちに何かかわったかの?」
「私は特異体質でね。この槍と契約している限り俺は死ねないのさ」
ヴィズルの右手には赤く文字を光らせる槍がある。
「言っておくが、わしはこれ以上は手加減できぬぞ?」
ヴァキュラの手は既に六つほどの手を出している。
それぞれが意志を持っているかのように自在に動く。
「手加減ができないのはこっちのセリフだ。それにこちらも約束があってね」
ヴィズルも槍を構える。
「では惜しいが仕方ない。名ぐらいは聞かせてもらおうかの」
「名などすぐにわかるさ」
ふてぶてしくヴィズルは笑う。
「ほう」
「できれば自身の目的もある…こいつの力は極力使いたくなかったんだが…。あんた相手に出し惜しみしてると本当に死ぬからな」
ヴィズルは手にした巨大な槍を天にかざす。
「神槍エアリア、その力を示せ」
ヴィズルがその言葉を唱えると、槍に描かれた文字から赤き光が溢れ出す。
それは槍から赤い布がふりほどかれるようだった。
ヴィズルの周囲に銀色の光をまき散らしながらそれは拡散していく。
「知っておるぞ。その力の波長は…フィリンギのもの。…そうかお主が魔術王か」
表情は見えないがその声色には闘争の歓喜が混じっている。
「さあ、蜘蛛の爺さん始めるぞ。これからが本番だ」
「始めようかのう、魔術王」
ヴィズルの声に呼応するかのように、仮面のヴィズルの右目が赤く煌めく。
かつてないほどの規模の戦闘が北の地で引き起こされようとしていた。




