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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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1-1 氷の大地

事実上ミョテイリは教会支配域の北限である。

その先には幻獣王フィリンギの支配域が広がる。

幻獣王フィリンギはその地に居座り続けている、フィリンギの方針は来るもの拒まず。

罪人であろうがわけありの人間であろうが、フィリンギは受け入れる。

そもそもその過酷な環境の中、ヒトは生きていくだけで精一杯なのだ。

助け合い共有することによって初めて生存が可能となる。

どんな罪人であろうが、どんな英雄であろうが共同体を離れては過酷な環境の中、死にゆくだけだ。そして徐々に人が移り住むようになると複数の村ができるようになる。

複数の村ができれば争いも起きる。三百年前フィリンギはそれを憂い、一人の魔術師に自身の牙を与え、それを使いその地を平定するように求める。そうしてその者は牙を鍛え上げ、その地を数年で平定することになる。その者はやがて魔術王と呼ばれるようになり、フィリンギの地で独自の文化圏を形成するに至った。

その都市はフィリンギの地の地下にあるとされ、魔族や人間、その他の種族が溢れる独自の文化圏を形成しているという。

また人間界と異邦の仲介をしていると言われ、異邦でしか取れない貴重な鉱石や草木はこの地を通して取引されているとも言われる。

それが魔術王直轄地と呼ばれる都市ラムードである。

ヴァロたちが訪れているのはその極北の地。

現在ヴァロたちはクーナの傀儡魔法を使って移動をしている。

馬を模したものを木で作り上げ、それにドーラの作った橇を引いてもらっている。

ドーラの手際にクーナは驚いていたが。

雪道であろうとその脚が止まることはない。

普通なら一カ月以上かかるであろう行程を一週間で移動できるほどだ。

その速度はかなりのモノがある。

フィアはクーナに一日ついていると次の日にはそれを自身のモノにしていた。

今では半日交代で二人は馬車を動かすようになった。

クーナによれば北には結社も多くあるため、移動手段は昔から開発されてきたとのこと。

飛行は大魔女が定めたという大憲章により禁止されている。

もしそれが大勢の目に留まることになれば、大問題にもなりかねない。

「それにしても寒いネ、こっちはサ。今は春なのに雪もずいぶん残っているじゃないカ」

足元にある雪は日向でも溶けていないし、風は凍えるように寒い。

風を凌ぐ結界は張っているもののそれでも満足にしのぎ切れていない。

ミョテイリで買った毛布で丸くなりながらドーラ。

「今いるところは永久凍土。一年を通して一度も大地にある氷が溶けることはない。

山の上なんか夏の間でもずっと白いまま」

馬車の先頭で自身の傀儡を視界にとらえつつクーナ。

「…それはそうと、ヴァロ、フィアにくっつき過ぎよ」

クーナが二人を指で指す。

「仕方ないだろ。こいつからくっついてくるんだから」

「ヴァロは私の護衛なの」

クーナが引き名はそうとするも、フィアはがっしりとヴァロの腕を掴んで離さない。

「ヴァロ」

クーナはヴァロをぎろりと睨む。

理不尽なやり取りにヴァロはうなだれる。

「それにしてもヴァロ君モテモテだねェ」

反対側でドーラは干し肉を噛みながら、達観したようにそれを見ている。

「ドーラさんはどうして飛行で移動しないのですか?」

隣にいたココルは不思議そうにドーラに話しかける。

ココルはドーラの飛行魔法を目の当たりにしている。

始めはココルも抵抗を覚えていたが、すでにドーラのことはこういう者だと割り切ったらしい。

すごい進歩だと思う。

「北の地は魔女が多いし、目撃されるといろいろと面倒だからネ。

フィリンギの地に入るまでは飛行はひかえるつもりなのサ」

当たり前のようにドーラ。

「そうまでしてどうして北に向かおうとするのですか?」

「ちょっと事情があってサ」

ドーラの頭にあるのは彼がモールと呼ぶ古い友人だ。

その者は『オルドリクスの魔神器』という兵器の研究を行い、

モールは三人の『爵位持ち』を殺し、異邦、ゾプダーフ連邦から逃れてきたという。

モールの逃れた先にドーラは心当たりがあった。

そしてそのリュミーサとの会話によりその心当たりは確信に変わる。


フィリンギの地の中にある魔術王直轄地を彼は目指していると。


ドーラの手には現在四本の魔封緘があった。

魔封緘とよばれるものは相当量の魔力を封じてあるものとされている。

ヴィヴィからもらった一本と、今回ラフェミナからもらった一本、そしてケイオスからもらった二本だ。この四本がドーラの全魔力と言って過言ではない。

彼は人間に転生したために自身の持っている魔力はほとんどないのだ。

限られた魔力の中でモールを戦闘不能にしなくてはならない。

相手はかつてゾプダーフ連邦でも魔法長候補に選ばれ、その上三人の『爵位持ち』を殺すほどの手練れである。ドーラは出来るだけ無駄な魔力の行使は避けたかった。

ちなみにモールの波長を知っているドーラなら、探査魔法を大陸中に飛ばすことも可能である。

ただドーラは探査魔法は近くに行くまで使わないことにしていた。

モールはゾプダーフ連邦において魔法長候補まで上り詰めた魔法使い。

ならばその周波数を解読することは簡単だし、それで逃げられたのでは意味がない。

加えてこちらへの準備をされても面倒でもある。魔力を無駄に消費するのは避けたかった。

もっとも一度カーナを探すために飛ばしたために、こちらが復活していることは知られてはいるだろうが。

保険としてユドゥンには一言声をかけてある。

もし自身が失敗したとしても、異邦の王権を持っているアデルフィがどうにかすることだろう。

そんなことを考えながらドーラは欠伸をして丸くなった。

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