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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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6-1 『爵位持ち』との戦闘

小屋のある背後で大きな爆発が起きる。だがその魔族は動揺する素振りを見せない。

少しでも取り乱すことに期待はしていたのだが。

「何だお前ら?」

言葉を使えることにヴァロは若干の驚きを見せる。

「仲間は気にならないのか?」

「小屋にいる三人のうち少なくとも二人は俺よりも強い。俺が加勢に行く意味ねえよ。それよりも自分の心配をしたらどうだ人間」

丸い魔力の球をその魔族は吐き出した。

ヴァロのすぐ脇にはココルがいる。ここで避ければココルも無事では済むまい。

ヴァロは咄嗟に魔剣を振りかぶり、衝撃波を放つ。

ヴァロと魔族の中間付近で爆発が起きる。

「はっはっは、魔剣使いか、あの都市にいた連中よりは楽しめそうだ」

嬉々とした表情で魔族は言う。

「俺の名はヴァロ・グリフ。フゲンガルデンの『狩人』だ。ミョテイリを襲ったのはお前たちだな」

「確認する必要もないだろう。そう思ったからそっちからしかけてきたんじゃねえのか?」

見かけとは違った対応にヴァロは内心驚く。

同時にこの相手は一筋縄ではいかない相手だとも直感する。

「ココル、離れてろ」

「御武運を」

ここでココルが近くにいてはヴァロは全力を出せない。

ココルもそれを理解し、遠くへ離れた。

「人間、いい判断だ。俺の名はコブリ。ゾプダーフ連邦、男爵。喧嘩を売ってきたのはお前らの方だ、容赦しねえぞ」

「…異邦の『爵位持ち』…」

『爵位持ち』と言う言葉にヴァロは戦慄する。

人間界でその響きは二度と聞くことはないだろうと思っていた。

「ほお、俺たちのことを知ってるみたいだな」

ヴァロの表情にその魔族は察したようだ。


戦いは一方的なものになった。逃げ回るヴァロに対して魔族の一方的な攻撃が続く。

魔剣による反撃を試みるも、魔剣による衝撃波も魔族に届く前にかき消されてしまう。

ヴァロは木々の間を縫うように躱すも、その魔族から放たれる波動が木々ごと粉砕していく。

「遮蔽物ごと粉砕するとか、幾らなんでも反則過ぎだ」

魔族の嵐のような攻撃にさらされヴァロは顔を不満をこぼす。

「おいおい、木だけじゃないのかよ」

一人の魔族が口から放つ衝撃波が氷で覆われているはずの山肌ごと削っていく。

凍土ごと削っているようだ。普通の人間が食らえばひしゃげて絶命必須の攻撃。

魔族の攻撃により魔剣の障壁が徐々に削られていく。

障壁の割れた個所から衝撃がヴァロに向かう。

ヴァロの頬をその衝撃がかすめ、血がしたたり落ちる。これは魔力による攻撃ではない。

ただの魔法ならば魔法抵抗力の高いヴァロに傷を与えられないはずだ。

要は物理現象も含まれているということだ。

魔法は魔法式を介し、すべて魔力で引き起こされる現象。

ゆえに高い抵抗力をもつヴァロには効果は薄い。

だがこの攻撃にはただ物理現象も含まれている。

物理現象の部分はいくら魔法抵抗力が高かろうと受けてしまえばそれはダメージとなりえる。


ヴァロは横に飛んで攻撃をやり過ごす。

「なんつう威力だよ」

魔剣の衝撃波も届かず、接近戦することも困難ならばどうやってその魔族を追い詰めればいいという。

ヴァロは焦り始めていた。あと数回食らったら障壁は完全に崩壊する。

障壁なしで直接攻撃を受ければ死ぬこともあるかもしれない。

「おい、ラウ」

ヴァロは岩陰に隠れると心を静めて魔剣に語りかける。

ヴァロが話しかけたのは魔剣ソリュードを管理している一人の少年だ。

『ようやくか』

ヴァロの語りかけると魔剣から呆れたような声が返ってくる。

「あの魔族を倒したい。力を貸してくれ」

『戦いは見ていた。『爵位持ち』?あのミイドリイクで見たカリアとかいう魔族と一緒か。…だとすれば聖剣クラスでないと力勝負にならない』

どうやら魔剣としてずっとヴァロたちのことを見ていたようだ。

『だが、おそらく僕だからこそあの魔族と対等に渡り合える』

「どういう意味だ?」

ヴァロは意味が解らず聞き返す。

『ヴァロ。残りはあんたの腕で補え』

そうしてその戦いにおいて魔剣ソリュードの能力が解放された。

次の瞬間、大きな波動がヴァロのいた岩を粉砕する。

「ありゃ、倒しちまったか?やっちまったな」

その魔族は心底残念そうな表情でひたいを叩いた。

それを見ていたココルは背後で顔を蒼白にさせている。

粉塵の中から現れたヴァロは無傷だった。


「な…無傷か」

魔族は自身の攻撃を受けて無傷の人間がいることに驚きの表情を見せる。

ココルも魔族同様にその状況にあっけにとられていた。

そこにいるヴァロ以外その状況を理解できていない。

「さあ、何をしたんだろうな」

ヴァロは余裕を魔族を見る。ヴァロは先ほど魔剣とのやりとりを胸の内で思い返す。

『僕の力は『塵』を使う。だから魔剣の登録から除外された魔剣。普段は目くらましにしか使えない』

「登録の除外…」

『そういうことだ』

どこか不機嫌な声でその管理者は語る。だから教会の資料には魔剣ソリュードの記述が残っていなかったということだ。

魔剣ソリュードの支配するモノ、それは塵。だからこそ超音波を扱うコブリとは絶対的に相性がいいのだ。

ソリュードの使う塵がヴァロの前に現れ、超音波を相殺している。

塵がコブリと言う魔族の放つ振動を拡散させていく。

ただし、魔剣の力ではこの魔族に傷をつけられない上に、限度がある。

ならばどうするか。ヴァロはここで一つの決断する。

ヴァロは挑発するようにゆっくりとその魔族の前まで歩いていく。

「どうした、そんなものか魔族の力は?」

ヴァロはその魔族を挑発して見せる。その魔族の表情が一変する。

「こいよ。ここからは飛び道具なしで戦おうぜ」

この挑発はヴァロの賭けでもある。ただ言葉から察するにどうも戦いを楽しんでいる節がある。

ヴァロは目の前のこの魔族はこの挑発を受けると思った。

「いいだろう」

そう言うと二人は互いに距離を詰める。

互いの間合いまで近づくとヴァロと魔族との近接戦闘が開始された。


「師匠…すごい」

ココルは遠くからその光景を食い入るように見ていた。ヴァロは流れるような動きで魔族の攻撃をかわしていく。

まるで舞うようにその魔族から距離を保ちつつ離れない。

ヴァロの動きには一切の無駄がない。攻撃の合間を見ては攻撃を繰り出していく。

そしてヴァロはその魔族にぴたりとくっついて離れない。まるで芸術ともいえる体裁き。

ココルは瞬きも忘れてその戦いを目に焼き付けていた。


その当の本人はというと今までにないぐらい必死だった。

轟音とともに巨大な拳がが先ほどまで頭のあった場所を通り抜ける。

ヴァロは必死に想像力を巡らせて、次の攻撃を予測しそれを躱す。

この距離でもしも一撃まともに食らったのならば致命傷になりえる。

魔族の放つ拳の風圧は魔剣の障壁がそれを防いでくれているが、もしも生身ならば風圧でも吹き飛ばされていておかしくはない。

接近戦で戦うヴァロはそれほどまでに圧倒的な力の開きを感じていた。

魔剣から声が聞こえてくる。

『背後から蹴りだ』

ヴァロは反応し前にに飛ぶ。轟音と共にその蹴りが空を切る。

ヴァロは手にした魔剣で隙をみて踏み込み斬撃を叩き込む。

魔剣の力もあるために小さな傷はつけられるも致命傷にはならない。

まるで岩にでも剣を叩きつけているかのようだ。

『頭を下げろ』

魔族の拳が轟音と共に頭上をかすめる。拳圧で生じた暴風が周囲の木々を揺らす。

まともに食らえば頭蓋ごと吹き飛ばされてもおかしくはない。

「くそが、ちょこまかと」

魔族の一撃を紙一重で避けながらヴァロは小さな傷を魔族に与えていく。

そのダメージは次第に積み重なり魔族の体に蓄積されていく。

相手の意識は一つ、こちらの意識は二つだ。

カリアと手合せして気づいたことがある。

魔力を使うカリアにはヴァロは勝てない。

が、魔力を使わなけえれば、ヴァロはカリアと互角に渡り合える。

それは何を意味しているのか。

人間と魔族の意識にはそれほど大差がないということだ。

相手は素人ではないが、魔力と言う要素を取り除けば、その反応はただの人間と変わらない。

ヴァロは人間でも相当強いほうである。いかに力が強かろうと対人間ならば負けるわけがない。

そう言い切れるだけの鍛練を自身に課してきた。

魔剣と意識を一つにさせ、次の攻撃の手を読み込む。

いかなる相手だろうと負ける気がしない。

とてつもなく巨大な相手にヴァロは意識を極限まで集中させていった。

ヴァロは主人公としてはそれほど強くは無くてすみません。

男爵は準魔王級なんだけどw

考えてみればヴァロの周りフィアも含めてかなりやばいなぁと。

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