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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
17/25

5-3 戦端

一人の巨大な体の魔族が小屋の中から姿を現す。

外に出るなり大きく背伸びをしてみせる。相当退屈しているようだ。

「ヴァロ君、君はあの魔族を相手にしてもらえるかい?」

ヴィズルは出てきた魔族を見て小声でヴァロに告げる。

現在指揮を任せているのはヴィズル。この場の決定権は彼にある。

「わかりました。ヴィズルさん、フィアを頼みます」

「できるだけ善処しよう」

一般に魔法使いは接近戦に弱いとされる。

魔法式を編むのに時間が必要とされるからだ。

フィアを任せるのは正直不安だったが、この場合仕方あるまい。

「ヴァロも気を付けて」

フィアの言葉にヴァロは頷いた。

「僕は師匠のサポートに回ります」

「ああ、好きにしてくれていい」

ヴィズルの言葉にココルは顔をひくつかせる。

見るに見かねてヴァロはココルの肩をポンとたたく。

ココルはわかってますよと言わんばかりの顔を見せた。


ヴァロたちはフィアたちと離れてその魔族の後を追う。

ヴァロと二人でその魔族の背後に近づくとココルはヴァロの前に立つ。

「僕がやります。見ててください」

自信あり気にココルはヴァロに声をかける。

手には何処からか持ってきたのかナイフが握られている。

どういってもやるつもりらしい。

よほどヴィズルに戦力外とみなされたことが腹に据えかねているのだろう。

「わかった。ただし無茶はするなよ」

ヴァロが折れると、ココルは音もなくその魔族に駆け寄る。

魔族が振り返る前に横に飛んで、魔族の視界から消える。

そのまま近くの木の上にかけ上る。

まるでそれは神業。元暗殺者と言うのは伊達ではないらしい。

「なんだ?」

ココルは魔族の頭上から飛び降り、魔族の首に全体重を乗せたナイフを叩きつける。

人間なら確実に死亡しているであろう一撃。

「そんな…この固さは…」

ココルの手にしているナイフの先が折れている。

「なんだお前ら?」

魔族がココルに視線を向けると、ココルは折れたナイフを捨て反射的に背後に飛びのいた。

ココルの背後からのナイフでの攻撃にも無傷らしい。

逆に攻撃したココルの方が手首を痛めたようだ。

右手首をかばうように背後に飛ぶ。

「大丈夫か?」

ヴァロはココルに駆け寄る。

「…まるで岩のような感覚でした…」

痛めた手首を抑えながらココルは言う。

「ココル、下がってろ」

ココルの全体重を乗せた渾身の一撃が防がれたのだ。

魔剣も魔器も持たないココルでは戦闘にならないのは明白である。

「はい」

ココルは背後に後退する。

ヴァロはその魔族の前に進み出て、剣を抜き放つ。

すでに魔剣の力を解放している。

それはそうしなくてはだめだと感じたからだ。

「人間ごときがこの俺様に喧嘩を挑むか」

「ああ、そのつもりだ」

ヴァロの答えに魔族は満面の笑みを浮かべる。

「はっはっは、ちょうど退屈してたところだ。お前ら、少し付き合えや」

豪快な笑い声を上げるとその魔族から魔力が放出された。

魔力の放出により、周囲が振動する。

暴風のような魔力を魔力を目の当たりにし、ココルは無意識に一歩退いていた。

そして、自身の思い違いを痛感する。

既に生物としての格が違う。何も持たない自分が相手にできる者ではなかったのだ。

ココルはヴァロの背中を見る。それは何よりも頼もしく彼の目に映った。

「さあ戦おうぜ」

その魔族は満足気にヴァロに向き合う。

ヴァロは魔剣を構え、魔族と戦うことになる。



小さな光の玉がその小屋の中に入ると小屋が吹き飛んだ。

魔法による二人の魔女による先制攻撃。

「やった?」

クーナは声を上げる。あの小屋の中に逃げ場所は無い。

「クーナ、気を抜かないで」

フィアは構えを解かない。

次の瞬間、頭上から黒い塊がフィアたちめがけて降ってきた。

それをヴィズルの剣が受け止める。受けたヴィズルの足元が地面にめり込む。

指から爪のようなものを複数伸ばし、武器代わりにしている。

ヴァキュラと呼ばれる魔族である。そのままヴァキュラは後方に跳んだ。

「ほっほっほ。わしの攻撃を受け止めるとは。人間にしてはやりおるのう」

どこか感心したようにヴァキュラ。

他の二人の魔族はどうやら無事のようで鹿の頭をした魔族は瓦礫をはねのけ、もう一人は何事も無かったかのように木の上に座っていた。

相手の虚を突いた、渾身の魔法だったはずである。

それでいて小屋と言う狭い空間の中で引き起こされる爆発に、逃げ場などどこにもなかったはずだ。

それで無傷という事実にクーナは驚きを隠せない。

「あんたの相手はこの私がしよう」

ヴィズルは剣を構えた。

「やれやれ、小僧の躾をせねばならんか」

そう言うとヴァキュラは軽い身のこなしで木の上に飛び移る。

「小僧、ついてこい。せっかくの戦い、横から横槍は受けたくないじゃろう?」

まるでムササビのように木の枝の上を渡っていく。

それを見ていたヴィズルはフィアに声をかける。

「フィア殿、ここは任せた」

「御武運を」

ヴィズルは声を交わすと背を向けてヴァキュラの後を追っていった。

「フィア、行かせてよかったの?」

小さくクーナはフィアに声をかける。

状況だけを見れば二対二になった今の現状はよろしくない。

「…あの魔族…桁違いに強い」

フィアは小刻みに震えながら小さくつぶやく。

一方で取り残された二人の魔族のうち子供の方は盛大なため息を漏らした。

嫌そうな視線をフィアたちに向ける。

「はあ、私はこの二人の小娘共の相手か。全くいつもおいしいところはヴァキュラが全部もってく」

ジーリアはわき目でフィアとクーナを値踏みするかのように見ると、あからさまに落胆の様子を見せる。

「若い魔法使い二人ねぇ。あんまり気がのらないな。エドランデ、やるか?」

「是非やらせてもらいましょう」

エドランデと言う魔族がフィアたちの前に進み出る。長身でまるで岩を感じさせるような巨大な体躯。

その上はちきれんばかりの筋肉を有している。

ジーリアと言う魔族は木の上で足を組むと、頬杖をついてこちらを見下ろす。

さしずめ高みの見物をきめこむようだ。

この状況、フィアたちにはそちらの方が都合がよい。

もっともいつもう一人の気が変わり、参戦してくるかはわからないが。

「人間の魔法使い、少しは私を楽しませろ。この私につまらん戦いなど見せてくれるなよ?」

三人を見下ろすジーリアは酷薄な笑みを見せる。


そしてそれぞれの場所で戦端が開かれた。

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