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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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5-2 五人の魔族

「ヴァキュラ公。これから我々はどこへ?」

カリアは一際背の小さな魔族に声をかける。

「幻獣王フィリンギに会いに行くに決まっているだろう。道中あのお尋ね者を探しながらな」

横から当然のように子供の姿をした魔族が頬杖をつきながら答える。

「ジーリアの言うとおりじゃ」

「フィリンギに?」

フィリンギとはこの地を管理する幻獣王である。

「彼の者の地に五人もゾプダーフの『爵位持ち』がやってきたのじゃ、宣戦布告ともとらえられかねないからの。

かといってあの石頭のフィリンギにつながる伝もありはせん。そうなると直に行って頭を下げるしかないじゃろう」

ジーリアが横で頬を膨らませる。

「私もフィリンギは少し苦手だ。ここに来る前にアデルフィ様には話をつけておいてもらいたかったぞ」

ジーリアはあからさまに嫌そうな顔を見せている。

「話をつけなければたとえモルトーアを討伐しても、我々は滅ぼされるだけからな」

カリアはジーリアの言葉に驚く。

ジーリアは侯爵。人間界でも教会の定める魔王級クラスの実力がある。

そして少なくともカリア以上の実力を秘め、そして第二次魔王戦争を経験してきている。

古参でもあり、実力者でもある。その男がはっきり全滅と断言した。

「幻獣王フィリンギ…そこまでのお方なのですか?」

カリアの言葉にジーリアはため息をつく。

「これだから第二次魔王戦争以後の連中は…」

呆れたようにジーリア。

「幻獣王と名のつくものは私たちとは皆、格が違う。間違っても戦おうなど思うな。

『爵位持ち』と幻獣王ならば外交問題に発展しかねない。アデルフィ様の顔に泥を塗るだけだ」

異邦の組織に属する者は主の顔に泥を塗ることだけは避ける傾向がある。

それというのも現在ゾプダーフ連邦では邪王アデルフィ、悪魔王バルハロイ、獣王ローファの三つの陣営があるためだ。

四百年前国が成立して以来、その三つの陣営が奇跡的な均衡を保ちつづけている。

「それでもどうしても戦いたいというならその前に私かヴァキュラに言えよ。お前らごとき喜んでぼこぼこにして身の程を教えてやるよ」

ジーリアは不遜な態度の不遜な態度をそこにいる誰も咎めようとなとはしない。

「幻獣王フィリンギ…」

この世界を統べるとされる六人の幻獣王の一人。もう一つの名は『牙王』。

北の地への絶対不可侵を条件に第二次魔王戦争時にクファトス王の軍門にくだったという。

その存在はかつての魔王軍でも異色の存在を放っている。

「カリア殿よろしいか?」

「なんでしょうエドランデ殿?」

カリアに声をかけてきたのは長身で筋肉質の魔族。

頭は鹿の頭をし、両脇の角の大きさを自在に操れる。

爵位が近く、礼節をわきまえた態度にカリアは親近感のようなものを抱いていた。

「カリア殿は『アデンドーマの三忌』『パオベイアの機兵』と直に戦ったの。どんな相手だったのでしょう?

聞けばこのたびの『オルドリクスの魔神器』も同じ技術が用いられていると言う話ではありませんか。

良ければ『パオベイアの機兵』がどんなものだったのか教えてはいただけないでしょうか?」

エドランデはカリアに声をかける。他の魔族も興味深げにカリアに耳を傾けた。

カリアが人間界にやってくるのは二度目である。

遺跡都市ミイドリイクにて『パオベイアの機兵』と呼ばれるものと戦った。

「…どうもこうも怖ろしい奴らだった。体が真っ白で、赤く光る眼をしていた。周囲の生物を食べ、そしてものすごい早さで増殖していく。

魔力は吸収され、活動エネルギーに変えられる。

地下で放出した魔力を吸収され、『パオベイア』が爆発的に増殖した際には視界が真っ白に埋まった時はさすがに生きた心地がしなかった」

カリアが顔を青ざめさせながらそれを語る。

「じゃ、弱点とかは何かなかったのか?」

横からコブリが顔を歪めながら聞いてくる。

「弱点と呼べるものかは知らないが、魔剣による対処が最も効果的だった。

ただの魔力の放出だけではエネルギーを吸い取られ、相手の力に換えられてしまう」

「魔剣?そんなものが俺たち魔族が持っているわけがない。魔剣と言うのは人の作り出した業の塊だろう」

魔剣は元人間である。彼らはそのことを知っていた。

第二次魔王戦争後、人間たちもその魔剣の製法を禁忌の方法とし、現在その製造技術は聖都コーレスの地下深くに封じたという。

「なるほどのう。文献通りじゃな。魔剣が有効なのは系統を異にしておるためか…」

ヴァキュラは一人納得している様子である。

「ご苦労だったな、カリア殿」

エドランデという魔族がねぎらいの言葉をカリアにかける。

「ああ」

次に切り出したのはヴァキュラと呼ばれる魔族。

「カリア殿、少し話がある」

すっと立ち上がりついてこいと言わんばかりに外へと向かう。

カリアはどうして呼ばれたかどうかわからず、言われるがままヴァキュラについていく。

カリアは緊張しながらそのあとを追うように、小屋を出る。

ヴァキュラ公。ゾプダーフ連邦における六大公爵の一人であり。三王に次ぐ存在といわれている。

第二次魔王戦争において多大な戦果を挙げたという。

その上、四百年ずっとその地位にあり続けるという怪物でもある。

また人間界では『聖剣喰い』ともいわれ、第二次魔王戦争の際には聖剣使いを葬ったとも言われている。

『呪王』アデルフィの腹心。ヴァキュラ公の名を聞けば逃げ出す魔族も多い。

今回はそんな存在と共に仕事をできることにカリアは柄にもなく緊張していた。

どうして呼ばれたのか思い当たることはいくつもある。

悶々としながらカリアは今までの行いを思い返しながら歩く。

「ほっほっほ、そう固くならずとも良い、カリア坊」

小屋から離れるとヴァキュラはカリアに声をかける。

「は、はい」

「カリア坊を呼び出したのは他でもない。下にある人の村までいって話を聞いてきてもらいたいのじゃよ」

「…」

いきなりのことにカリアは拍子抜けした様子だ。

「カリアが行ってくれればわしも安心できる。『爵位持ち』気性の荒い者が多い。下手にもめるとすぐに手が上がる。

これ以上人間界でことを荒立てるようなまねはわしも避けたいからのう。

主はその点で安心じゃ。一度人間界で人間と手を取り合い、『パオベイアの機兵』の破壊の任務を見事に完遂させた。

今のゾプダーフにもそれだけのことができる者はそうはおらんじゃろう」

「…わかりました」


ヴァキュラの言葉にカリアは頭を深く下げると村に足を向けた。

「ダールの奴もよい跡目をもったものじゃ。新しい時代がすぐそこまで来ているのやもしれぬな。

『オルドリクス』は過去の遺物…わしらの手でケリをつけねばなるまい」

遠ざかるカリアの背中を見ながらヴァキュラは一人つぶやく。

「ドーラルイ」

一度カリアが人間界に足を踏み入れた際に人化の魔法を調律してもらったという。

幻獣王に肩を並べたという伝説の魔法使い。

「…ゼルファの血族最後の生き残り。まさかここであの者の名を再び耳にすることになろうとは思わなんだ」

どこか遠くを見るようにヴァキュラ。

「…人は少なくしてやったぞ、人間ども。カリア坊が戻ってくる前に始末をつけておくとしようかの」

ヴァキュラは小さくつぶやき、小屋に入っていった。


ヴァロたちは遠くからその様子をつぶさに観察していた。

不意に視線が会ったような感覚を覚え、ヴァロは背筋が凍りつく。

あり得るわけがない、ここから魔族たちのいる小屋まで相当離れている上に、

フィアの光学魔法によりこちらの姿は見えないようになっている。

絶対に気づかれるわけがないのだ。

それでも確かにこちらにその魔族はこちらに視線を向けたのだ。

「何か動きが?」

横でヴァロの異変に気づいたのか、ヴィズルが声をかけてくる。

「…黒いマントの男の一人がその場を離れていく」

ヴィズルは

どういうわけか一人は山を下っていくようだ。

もう一人は再び小屋の中に入っていく。

「これで中にいるのは四人。目標は一人一体づつだ」

ヴァロたちはヴィズルの言葉に無言で頷く。

そして、一人の魔族がその小屋から出てくるのが作戦開始の合図になった。

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