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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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4-2 北の地

オーロラが北の夜空にたなびく。

ここに来てからから日が極端に長い。騎士団領ではここまで長くなかったはずだ。

空が橙色になっている、間もなく短い夜が明ける。

ヴァロはそれをぼんやりと座って眺めていた。

フィアたちは背後の簡易テントの中でぐっすりと寝ているはずだ。

魔女とはいえ人間でもある。その体力は人間の女性と大差はない。

一日目を終え、ヴァロたちは休息をとっていた。

ひとまずは五人の魔族の行方を人の住む村々を転々と巡って聞いて回ることになった。

ヴィズルによれば人のいない北の地での来訪者の存在はどうしても目立つのだという。

「眠れるときに眠っておかないといざというときに力が出んぞ」

横からヴィズルが声をかけてくる。

「日が空にあるとどうも…」

「はっはっは、そうか、私もだ。少し話をしないか」

ヴィズルはにこやかに酒の入った小瓶をヴァロに渡してきた。

北の酒は強くて少し口に含むだけでも眩暈すら覚えた。

「この北の地には太陽が落ちない白夜の期間やずっと夜だけの極夜の期間がある。あと一週間すればその白夜の期間に入る」

「白夜と極夜ですか」

ヴァロの言葉にヴィズルは頷く。

「…ああ、そうだ」

ヴィズルは海のある方角に視線をむけ語る。

「白夜に入るとラムードから人がやってくる。私としてもこの問題はそれまでには解決したい」

「ラムードから?」

「ああ。白夜期間の期間に産卵の魚がいてな。それを狙って動物がわんさかやってくる。

…それのおこぼれを人様もあやかろうってわけさ。毎年恒例の祭りみたいなものだ」

ヴィズルは大げさに手を広げてみせた。この土地にもこの土地なりの在り方があるるらしい。

「ヴィズルさんはラムード出身者なのですか?」

「ああ。そうだ」

ヴァロにはそれは妙にしっくり感じられた。

「そこまでなぜ心配する必要があるんです?」

「こちらにもいろいろ事情があってな」

ヴィズルははぐらかすように笑う。

悪い人間ではないのは騎士団の経験でわかるが、どうも肝心なところははぐらかされてしまうと言った感じだ。

「君は魔族を知っているようだね」

見透かすような視線にヴァロは取り繕うのをやめる。

「…一度だけミイドリイクである目的のために『爵位持ち』と一緒に行動を共にしたことがあります」

正直にヴァロは語り出す。

『爵位持ち』という言葉にヴィズルはヴァロを見る。

「ほう、『爵位持ち』と言えばゾプダーフ連邦の魔族の中でも最強クラスの実力の持ち主と聞く。そんなものと人間界で遭遇したのか?」

驚いたような表情でヴィズル。

「知ってるんですか?」

「ああ。ラムードはゾプダーフ連邦と国交がある。噂話程度だが、彼らの情報もある程度は入ってくる。

中でも『爵位持ち』はそれぞれ魔族における各部族の頂点の力を持ってると聞く。実力ならば教会が規定する魔王にも匹敵するとか…」

「…魔王の力は確かにあったと思います」

かつてヴァロがミイドリイクで見たカリアの力は想像を絶するものだった。

激昂した際の魔力だけで地下世界を壊滅させるほどのものだった。

魔力を除いた剣術の腕前だけはどうにか互角だったものの、魔力が加わったのならば勝てる要素は一つもない。

「ほう、君はその力を目の当たりにしたことがあるのか」

驚いた表情でヴィズル。

「一度だけ」

ヴァロの答えにヴィズルは肩をすくめてみせる。

「…ラムードにも魔族はいるがそこまでの連中はいないな」

「ラムードにも魔族が?」

ヴァロはヴィズルの言葉に驚いた様子を見せる。

「どこの組織にもはみ出し者はいる。それを集めた受け皿がラムードという国家でもある」

「大陸中いろいろな場所からわけありの人間たちが集まってくる。

それは人間であり、魔女であり、魔族でもある。

そしてそれぞれの知恵を出し合って国としてのあり方を決めていくのさ」

「魔術王が治めていると聞きましたが」

ヴァロの問いにヴィズルは小さく笑う。

「王はただの象徴だよ。その国の在り方を決めていくのはその国の民だ。実際のところラムードを動かしてるのは議会だしな」

ヴィズルはラムードの内情まで知っているらしい。

「…今回の相手も魔族なんですよね…」

「ただ今回の相手は別だ。この北の地の均衡を揺るがしかねない力を有している上に北の地の秩序を明らかに乱している。断じて看過するわけにはいかない」

ヴィズルの目には確固とした意志の光がある。

「…気を悪くさせてしまったか?」

ヴィズルの言葉にヴァロは首を横に振った。

「ヴィズルさんはまるで王のような話し方をしますね」

「そうか?」

ヴァロにはヴィズルにどことなく雰囲気もそれっぽい風格のようなものを感じていた。

「…俺にはわかりません。彼らと人間がどれほど違うのか。

お互いに歩み寄るべき余地はあるんじゃないのか。そんな気がしてなりません」

あの第四魔王ドーラルイも話してみればただの変わったヒトだった。

異邦で伯爵と呼ばれるカリアの騎士としての在り方には共感が持てた。

ひょっとしたら線引きをして壁を作っているのは人間の方じゃないのか。ヴァロにはそんな気がしなくもない。

「…君は面白いな。この捕縛が終わったら君とはじっくり語り合いたいものだ」

ヴィズルは奇妙なものを見るようなまなざしをヴァロに向ける。

「ただしヴァロ君、戦士として迷いは禁物だぞ。戦場では割り切ることだ。…『狩人』ならば言っている意味わかるな」

「…ええ」

師にさんざん言われ続けてきたことだ。

まさか北の地で聞くことになろうとは思わなかった。

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