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魔術王と氷の魔女  作者: 上総海椰
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3-3 ミョテイリの夜

ヴァロたちはヴィズルとの明日の魔族追撃の打ち合わせが終わり、宿に戻ってきた。

その頃にはとっぷりと日も暮れていた。

宿に戻るとすぐにヴァロに眉間にしわを寄せたクーナが詰め寄ってくる。

「ヴァロ、あんた魔剣契約者なのよね」

「ああ」

クーナの剣幕にヴァロは少したじろぎつつ対応する。

次にクーナは視線をフィアに向けた。

「フィアも知ってるのね。こいつが魔剣契約者ってこと。教会には届け出てるの?」

フィアはクーナの言葉に頷き事情をかいつまんで説明する。

もちろんミイドリイクの一件はふせてである。

お尋ね者の魔剣使いから魔剣の一本を渡されたこと。

そしてラフェミナ様もそれを知っていることを。

「…ラフェミナ様知ってるみたいだし、私がとやかく言うつもりはないわよ。ちょっと見せなさいよ」

ヴァロが剣を鞘ごと差し出すと、クーナはそれをひったくるようにして取り上げた。

「これが…魔剣。初めて見たわ」

クーナは食い入るようにその刀身を見ている。

「気が済んだか?」

「待ってなさい」

ヴァロはクーナから剣を取り戻すことをあきらめた。

そうこうしてるとココルが一足遅れで宿に戻ってきた。

襲撃の事情を調べるためにココルには別行動を取ってもらっていたのだ。

「ココル、食事は…」

「まだです」

どうせココルのことだから食事を後回しにするだろうと思っていたので、

帰り道、食堂に寄った際にパンに干し肉などをはさんだ携帯食をもらってきていた。

ヴァロから渡された食事をココルはおいしそうに口にする。

「それで何かつかめたか?」

ココルが食事を終えるのを見計らってヴァロはココルに声をかける。

「少しだけですが…。五人の魔族の特徴、ここで何をしていたのか聞いてきました」

三人の視線はココルに集まる。

「それぞれに黒服でフードを被っていたらしいとのこと」

「そんな格好の者たちがよく怪しまれなかったな」

「それが、ここはフードつきの魔女が多く出入りするために、特別に警戒されなかったようなのです」

そこら辺の事情はさすがは北の地といったところか。

「それぞれに小柄で老人の仮面をかぶったもの者、子供の恰好をした者、大柄で筋肉質の者、大柄で太った者、中肉中背の者らしいです」

「見事に特徴がバラバラだな」

ヴァロは想像して口元を緩める。

「それとその五人の魔族は最近この辺りで変わったことがないか聞き込みをしていたらしいですね」

「聞き込み?どうしてミョテイリで?」

少なくとも五人の魔族の目的はミョテイリの襲撃ではなかったということになる。

ならばミョテイリの一件は突発的な事故だったとも考えられなくもない。


もしそうであるのならば五人の魔族の目的は何か?


ココルの報告を受けている間、フィアは黙って目を細めそれを聞いていた。

「ミョテイリを出ると北の方角…フィリンギの地に向かったという話です。数人の行商の者がその黒服の五人組らしき人影を目撃しています」

ココルの話はヴィズルから言われた情報と合致する。

五人の魔族たちは北に向かったとみて間違いはないだろう。

「ココル、後回しになったが、明日から魔族討伐俺たちも参加することになった」

ヴァロの言葉にココルは目を白黒させるた。

ココルが表情をここまであらわにするのは珍しい。

「意外ですね。てっきり断ってくるのかと…」

「…ここの聖堂回境師から頭を下げられている。さすがにあの状況で断れるかよ」

ココルはやれやれというように肩をすくめる。

「…あんな破壊行為を行える魔族に太刀打ちできるのでしょうか?」

ココルの言うのは城壁を破壊した件だろう。

まるで巨人が破壊したかのような後。ヒトの扱える能力ではない。

ココルが不安を覚えるのも当然と言えた。

「や、やってみなければわからないさ」

ヴァロは言葉を濁す。ヴァロ自身もそれは薄々疑問に感じていたことだ。

正体不明の男、ヴィズルがどれほどの戦力になるかどうかわからないが、それほどの魔族相手に人間がまともに戦えるとは到底思えない。

まして名うての『狩人』ですら簡単にあしらわれたのだ。

ヴィズルはそれも知っているはずなのだが…。

「…ところでクーナさんは先ほどから何を…」

ココルはクーナに目を向けていた。クーナの手にはヴァロの魔剣がある。

相変わらずヴァロの所持している魔剣ソリュードを手から離そうとしない。

「…魔剣ですか」

「ココルは知っていたの?」

クーナはココルに反応する。

「一度トラードでヴァロさんが使ったのを見ていますから」

ココルはカランティと魔剣を持ったヴァロが戦っているところを目撃しているし、ミリオスとのやり取りも聞いている。

ヴァロが魔剣契約者だと知る数少ない人間の一人である。

「なんか私だけ除け者って感じねぇ」

「話す機会がなかっただけだって」

「そうよ」

フィアもヴァロも必死に弁明する。

「冗談よ」

クーナは二人の反応を愉しんでいたらしい。笑いながら魔剣を返してきた。

「そういえば魔道具と魔器、魔剣ってどう違うのですか?」

そのやり取りを横で聞いていたココルが不意にヴァロたちに尋ねてきた。

「ココル知らないの?」

「どれも呼び方が違う同一のものとして考えてました」

一般人ならばそれは当然だろう。まともにそれを分けられるものはそれほどいないのではなかろうか。

「魔道具は魔力を帯びただけの道具のこと。火をつけたりするだけの便利道具ってとこかな」

魔道具は大陸北部においては一般の家庭でもよく使われている者らしい。

教会からは異端扱いされ禁じられているとされるが。

「魔器はその上の武器。魔力を帯びてかつその形状を任意に変形させることもできる。

異端審問官『狩人』が良く武器として使っている。形状を変化させられるために隠密行動などによく使われる」

例を挙げるとすればラウィンの持つ斧などであろう。

巨大な斧であまりに目立つために、携帯できるように小さくしてあるのだという。

「魔剣は…ってどこまで話していいの?」

クーナはフィアに聞いてくる。その事柄は教会側の機密事項に抵触してくる。

少なくとも現役の聖堂回境師の許可を取りたいのだろう。

「クーナはどこまで知ってるの?」

フィアはクーナに聞き返す。

「そりゃね。…結社に入ってた時に一通り聞いてる」

クーナはメルゴートにいたときに最高意思決定機関『長老卓』に招かれるほどの魔女だったのだ。聞いていても不思議はない。

「…なら話してあげて、クーナ。遅かれ早かれ知ることになると思うから」

「わかった」

やれやれと言った感じでクーナ。

「ココル、ここから先は他言無用。誰かに他言しないと約束してもらえる?」

ココルは頷いて、クーナの前にちょこんと正座する。クーナはおもむろに話し始める。

「魔剣と言うのは人間の成れの果て。魔剣一本を製造するために数百の人間の命を使っていると言われている」

ココルの表情がみるみるうちに険しいものに変わる。

「数百、そんな人間を?どうやって?もしそんなことが起きたら…」

街や村の人間をすべて引き換えにすることになる。そんな大それた失踪事件が起これば教会は黙っていまい。

すぐさま行った者に対して、躊躇なく討伐の兵を差し向けるだろう。

「魔剣ってのは第二次魔王戦争の遺物ってのは知ってるわよね」

ココルは無言で首肯する。

「…理由は第二次魔王戦争時に人間の支配域が著しく少なくなったのが原因と言われてる。

人間を養えるだけの土地がなかったのよ。教会は土地を失い七大都市に逃げ込んできた人間たちをどうにかする必要があった。

その際、そのあふれた人間たちを魔剣、聖剣製造に使ったのよ」

魔剣を手にクーナは語る。

「…そんな」

「…ちなみに魔剣の上位存在が聖剣。聖剣は数万の命と引き換えに造られているって聞いたことがある。

七本作られて現在では三本しか現存していないと言われている」

ココルはクーナの語る事実に衝撃を受けている様子だ。

「そんなこと許されるわけがない」

「何言ってるのよ。他の人間の命を引き換えにしても、あんたたちは生きることを選んだんじゃないの?

そう思わないと犠牲になった連中が報われないじゃない。…だからせめてあんたも胸を張って生きなさい」

クーナの言葉にココルは黙って頷くも、心の整理がすぐにはできないようで、部屋を出て行った。

「何よ。文句あるの?」

ヴァロの視線に気づきクーナはヴァロを睨み付ける。

「俺も前にその話を聞いたとき、ココルと同じこと言ったんだ」

「…へぇ」

それは彼女なりの答えなのだろう。メルゴートの最後の生き残りでもある彼女の。

「クーナの考え方は前向きでいいな。そういうところは俺は好きだよ」

ヴァロの言葉にクーナはそっぽを向いた。

「ば、馬鹿じゃないの、そういうことよく臆面なく言えるわね」

クーナはそう言って自室に戻っていった。

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