3、セシルの攻防(1)
※ちょっぴりR15描写あり。
攻防っていいつつ、防ぎきれてない笑
改稿いたしました!
王城の廊下は広い。部屋も広い。加えて、装飾品が多い。だが、ドレス姿のセシルが隠れるのはだいぶ無理がある。
右を見て、左を見て。
よし、誰もいない。あのきらきらとうざったい金髪の、影も形も見えない。
セシルは、そうっと壁にそって歩きだした。あいつに見つからないようにするのは至難の業だ。
「なんでこんなことになったのよ……」
げんなりと呟くと、思ったより廊下に響いてセシルはぱっと口を抑えた。ここは王城、あいつの根城なのだ、油断してはいけない。
……しかし、なにが原因かといえば、あの夜会しかないのだが。
────こ、婚約なんてしないわ!
────まぁ、そう言わないで。僕のこと気に入らない?だったら好かれるように努力するし。なんならこのあと、僕の部屋に来るかい?
────……だからっ、そういうところが嫌いなの!
国王ジョシュアによって突然発表されたクリスティアンの婚約だが、セシルに受け入れる気はさらさらなかった。全力で拒否した結果がこれである。
これ、とはなにかを説明しよう。あれから王宮に登城するたびクリスティアンが声をかけてくる、否、付きまとってくることだ。おかげで仕事の邪魔だわ、未婚の貴族令嬢たちからは睨まれるわ(クリスティアンはモテるのだ。)散々なのである。
「これから暇かい?ちょっと僕と一緒に──」
「出掛けません。暇じゃありません、貴方と違って。」
「え~?じゃあ、仕事の手伝いするからさ──」
「……侯爵領の財務管理をみせろと?」
ぎろっと睨んで、ようやくさすがのクリスティアンも黙る。という、この無限無駄ループ。
だが、今日は捕まる訳にはいかない。
こんの忙しいときに、王妃プリムローズに呼ばれてきたのは、王宮の奥、王族の生活区域にある庭だ。
「王妃さま……プリア?」
声を潜めながらプリムローズの愛称を呼び、薔薇の垣根の奥へ進む。
「……セシル、こっちよ。」
垣根の隙間で、赤いリボンが揺れた。
「プリア、もうっ、こんなところに呼び出さないで。」
「ごめん、ごめん。こっそりお話しようにも、わたくしがお城を抜け出したらそれこそ大ごとだから。」
「…そうね、絶対にやめて頂戴。」
そう冗談を交わしあって、セシルとプリムローズはくすくすと笑う。
セシルはこの国において、他国から嫁いできたプリムローズが気軽に話せる数少ない同年代の友である。
フィリップ王の時代から少し改善されてきているが、イザリエの国民はフレラインの国民をあまりよく思っていない。だから、フレライン王族であるプリムローズのことを、認めていない貴族もいるのだ。
「それで、なんの用なの?プリア。」
薔薇の茂みに隠されたベンチにふたりで腰かけて、セシルとプリムローズは声を潜めて話す。
「まずは謝るわ。情報を伝えるのが遅くてごめんなさい。」
「それはもういいわ……」
プリムローズから手紙が届いていたことは、後から執事に聞いていた。
「じゃあ次。……セシル、そんなにクリスティアン殿下のこと嫌いなの?」
「大嫌い。」
「即答なのね…」
若干引き気味のプリムローズには申し訳ないが、ほんっとうに嫌いなのだ。
「だって…」
クリスティアンはおかしい。だって、セシルが彼のことを嫌いなのは…
「だって、クリスティアン殿下のほうが先に嫌いっていったのよ?わたくしのこと。」
セシルはちょっと首をかしげてそう言った。
「……それは、いつの話?」
「そうね……十五歳の誕生日だったわ。そうそう、わたくしの誕生会の日。あの人がわたくしのことやたら睨んでくるから、なにかご機嫌を損ねたかと思って声をかけて見れば、嫌いって!」
意味が分からなかったわ。いいえ、今も分からないけれど。とセシルは鼻息荒く、プリムローズに語った。
「そんな嫌いな女口説いて、あげく結婚?遊ばれているとした思えないわ。」
「セシルそれは…いいえわたくしが話すことではないわね。」
なにやらふんふんと頷くプリムローズは、ぽんっとセシルの肩を叩いた。
「まぁね、セシル。とりあえずお話は聞いてあげなさいね、逃げてばかりじゃなくって。」
それは無理ね、とセシルは言うことが出来なかった。
───祈りなさい薔薇に。きっと貴方の声は届くわ。
プリムローズと分かれて城をでた。そこで気を抜いてしまったのがいけなかったのか。
「ねぇねぇ、セシル。王妃さまとのお話は終わったよね?」
「えぇそうね、終わったわ。でも貴方にはかまっていられなくてよ。」
門の前で待ち伏せしていたクリスティアンが、纏わり付いてきたのだ。
「そんなこと言わないで。最近王都にできたおいしいお菓子屋さんにいかない?」
「……お菓子?」
それはまさか、今、王都で一番人気のアム・リアーナのお菓子屋のことを言っているのだろうか。
うっかりと返事を返してしまった。
「そう、お菓子。おすすめは、ガトーショコラらしいよ。」
「……ガトーショコラ。」
あの濃いチョコレートを使った、甘い…
セシルは甘いものに目がないのだ。それを、彼が調べて来たのだと、いつものセシルなら分かったはず。だが、お菓子の誘惑には勝てずに、こくりと頷いてしまう。
「行くわ。」
「やった!じゃ、僕の馬車に乗って。」
これは甘い甘い、彼の罠だと、このとき気づけたらよかったのに。
これはもう、男嫌いではないでしょう・・・反省