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鹿翅島‐しかばねじま‐  作者: 犬河内ねむ(旧:寝る犬)
安西 敦(あんざい あつし)の場合

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安西 敦(あんざい あつし)の場合(1/2)

◇ホラー◇サスペンス

 銀行強盗の誘いが来たのは、9月も末のことだった。

 スマホのメッセージアプリに、大学時代の友人の伊東から「ピンポン」という間抜けな音とともにそれは来たのだ。


『安西、来週ヒマ? 銀行強盗いかねぇ?』


『なにそれ? なんの冗談?』


『いやいや、絶対につかまらなくて、確実に何千万円が手に入る話だぜ』


 そんなうまい話はないだろう。

 そうは思ったが、金に困っていたぼくは、一応話だけ聞いてみようと友人の家に出向いた。


「よ、久しぶり。まぁ上がれよ」


「うん」


 確実に何千万を儲ける話をするはずの伊東宅は、駅から徒歩20分以上かかる古びたワンルームだった。

 冷蔵庫から第三のビールを持ってきて「よく来たな」と渡してくれる。

 部屋の中にはぼく以外にも、大学時代の名前もよく知らない友人や、工事現場にいそうな完全に知らないおじさんが座っていた。

 なんとなく頭を下げてあいさつする。

 ぼくは空いている場所を見つけて腰を下ろした。


「でだ、さっそく今夜繰り出そうと思うんだけど」


「やっとかい。よし行くぞ」


 おじさんがビールをぐいっと飲み干す。

 伊東はおじさんに向かって「江南さん落ち着きな」と、笑いながらもう一本ビールを渡した。


「いつまでぐずぐずしてるつもりでぇ。俺ぁ借金の返済期限が近けぇんだ」


「夜には出るよ。それより安西にはまだ何も話してねぇしさ。一応ここで全員にもう一度話しておく」


 伊東は自分でも缶ビールを開けて「前祝いだ」と喉を湿らすと、計画を話し始めた。


――目的の場所は『鹿翅島しかばねじま


 つい最近、ゾンビのあふれる島として立ち入りが禁止された東京都の沖合にある小さな島だった。


「鹿翅島は小さい島だが、それでも銀行の支店や信用金庫なんかの店舗が5つある。要はそこからゾンビには使えない現金をいただいてこようって話さ。安西は船舶免許もってたろ? 島までの船の操縦を頼みたい」


「……いや、ちょっと待ってよ。ぼくが持ってるのは『特殊小型船舶免許』だよ」


「いいじゃんか、特殊だろうが小型だろうが」


「いや水上バイクとかの免許で、船は運転したことないんだ」


 ぼくの返事に伊東が眉をしかめる。

 江南さんというおじさんと、もう一人も「話が違う」と伊東に詰め寄った。


「なんだよ、運転できねぇの?」


「いや、勉強はしたからボートの運転自体はできないことはないけど、無免許ってことになる」


「ならなにも問題ねぇじゃん。焦らせんなよ」


 問題は大有りだと思うのだが、伊東は意に介さず、笑った。


「で、船は宇喜多が親父さんのボートを出してくれる。金を奪うのは現地調達の重機を使って江南さんの担当だ」


「銀行の金庫って重機で壊せるもんなの?」


「バーカ、イマドキ金庫に金しまってる銀行なんかねぇって。ATMに金が入ってんのさ。支店のATMなら1千万以上、コンビニのATMでも百万とか入ってる。鹿翅島のATMを目に付いたやつからぶっ壊せば何億って金になるぜ」


 伊東の計画は単純なものだった。

 宇喜多の父親が所有するレジャーボートをぼくが運転し、鹿翅島へ向かう。

 現地で建築業のバイトをしたときに知り合った伊東と江南さんが、島に放置されている重機と工具を使ってATMを破壊、現金を奪う。

 あとは全員で山分け。

 伊東の試算では、銀行の支店分だけでも2億円、コンビニやショッピングモールなんかの壊しやすいやつをいくつか壊せば、さらに数千万円。

 四人で山分けしても5千万円ずつにはなるという話だった。

 問題は、鹿翅島への出入りを監視している海保の船に隠れての往復と、現地作業時のゾンビの襲撃。

 しかしそれも違法ツアーでゾンビハントを楽しんできたという伊東に言わせれば、どっちもたいしたことないとのことだった。


「あの島はもう日本の法律が通用しねぇ。だから捕まることはねぇのさ。な? ここまで話聞いたら、やらないとは言わせねぇぜ?」


 半笑いだが目が笑っていない伊東の表情と、目を細めた宇喜多と江南さんが腰を浮かせたのを見て、ぼくはゆっくりと首を縦に振った。

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