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ヨミチ

黒色の空。

星が見えることも無く、この街のお偉いさんの腹の中のようにどす黒いほどの真っ暗な空。

きっと、他の場所へ行けばこの夜空も少しは違った色に見えるのだろうけれど、この街や他の街からもれ出るガスやら何やらで、この街はいつでも靄のようなものに覆われている気がする。


『よお、いつも通り上手くやってくれたな。助かるぜ』


ヒツギさんと別れた後少しだけ、面倒ごとがやってきたので人通りの全く無い路地裏を使って家へ向かっていると、偉そうな少年の声が何処からとも無く聞こえてきた。


「やあ、もうおしゃべりはしてもいいのかな?」


『ハッ、ここなら僕らが会話していてもお前が白い目で見られることも無いだろう?――最も、白い目で見られることが必ずしも悪いってわけじゃないだろうけどな』


「なら、どんな時なら悪くないと言えるんだい?」


『しつこい娼婦を諦めさせようとする時、とかかな』


「全く、違いないね」


大笑いする声に、思わず渋面を作る。

なんせ、こんな路地裏に逃げ込む羽目になったのは、大通りのしつこい娼婦に追いかけられそうになったからなのだから。


『ククッ、あの姉ちゃん買ってやってもよかったんじゃねーか?』


「馬鹿馬鹿しい、とだけ答えておくとするよ。……それで、何時になったらやめるつもりだい?」


『この軽口は一生治ることはないだろうなあ』


「それは一回死んでも治らなかったじゃないか。僕が聞きたいのはそっちじゃないさ」


『あん?』


本気でわからない、とでも言いたげな反応に思わずため息が漏れる。

わからないはずが、無いだろうに。


「チグルイ」


平坦に彼の名を呼ぶ。


『……なんだよ?』


一瞬だけ間を置いて、返される声。

この声も、僕以外には誰一人として聞こえないのだろうけれど。




「何時になったら、殺しをやめるつもりだい?」




『…………』


沈黙。

聞こえるのは、僕の足音と自分のかすかな呼吸音。

それと、少し遠くのほうから聞こえる静かな喧騒だけだ。


一歩ごとに家が近づいてくる。


『……お前には関係ないことだ』


長い沈黙を破ったのはそんな言葉だった。


「…………」


人通りのある大きな路地が見えてきて、僕は口をつぐんだ。


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