ハジメ
紅色の空。
降りしきる刹那の雨は、僕のことなど気にもせずただ当たり前のように地面に向かって落ちていく。
ポタリ、ポタリと僕の頬から落ちていく紅色の液体の音で僕は、唐突に意識を取り戻した。
おもむろに空を仰ぐと、そこにあったのは紅色の空などではなく、ただ、黒に塗りつぶされたいつもの夜空と、それに違和感のないようにまぎれようとして失敗したみたいな、人間だったものがぶら下がっていた。
暗がりの中で、よく見えないがどうやらあちらこちらから尖ったもので刺されているらしくその物体から伝うように落ちる液体が、紅色の雨のように錯覚させていたらしい。
そんな光景に、軽くため息をつくと頬に付いた液体を服の袖でぬぐう。
ガチリ、とそんな擬音が聞こえてきそうなほどたどたどしく動く僕の体は、まるで自分のものではないみたいで矛盾したものを一緒くたにしたような違和感を感じさせた。
歯車がかみ合っていない機械のような。
そんなことを数刻前まで、いや、下手をしたら数分前まで人間だったものの前で考えてしまう僕もいい加減に壊れてきているのだろうけれど。
――――まあ、仕方ない。
そんな、諦観と楽観が混じったような言葉を口から吐き出すと、僕はどこにあるかもわからない安楽の地を求めて一歩足を踏み出した。