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プロローグ
~プロローグ~
月の光を反射して、不気味に光る出刃包丁。
右手は血まみれ。滴り落ちる赤いしずくが溜まりを作る。
まず、喉元を切った。ここで躊躇しては殺人は成功しない。逆に言えば、ここで思い切って、深く、相手の喉元をえぐることができれば、あとは簡単だ。じっくりと、時間をかけて、なぶり殺せばよい。
次は、心臓だ。馬乗りの状態で、垂直に包丁を落とす。その後、ぐりぐりと抉る。
まだ息のある人間は、痛みと死の絶望に顔をゆがめるが、喉がつぶれているので叫ぶこともできない。
俺は、人を殺した。この手で、この手を、血に染めた。
それなのに、だ。なぜそうなる? なぜだ? 本来ならば俺は警察に捕まり、人々から非難を浴び侮蔑の目で見られ、罵声を浴びせられるはずなのに、なぜだ。
「ありがとう!」
なぜ、ありがとうと言われなければならぬのだぁ!!
この世は何が起こるかわからない。摩訶不思議だ。