第三章 忍び寄る影(5)
公園の入り口付近に、車の止まる微かな音を聞きつけて、サッタールは携帯をポケットにしまうとまだアンドロイドを見ているショーゴに歩み寄った。
『何かわかったか?』
思念で訊くと、ショーゴはアンドロイドのうなじに当てていた手を外した。とたんに二人の公安員はホッとした顔をする。
『一体、一体にシングルリクエストをかけていたようだなー。こいつは俺を連れて、逃げたビーグル型のに乗せるまでが仕事だ。武器は持っていない。他の人型がどんな指示を受けてたかわからんけど』
『こんな怪しげな奴にあんたがついていくとでも思っていたのか、こいつらの主は?』
『音声ファイルが残っていたよ。映像を消したければついてこいってさー』
『古典的だな』
『あー、でも俺一人だったら乗り込んでたかもなー』
『で、相手は?』
『わからねえ。そこの公安のおっさんは、部品からメーカー割り出せるっつってるけど? これだけ高性能なもんだとブラックマーケットの寄せ集めじゃねえだろってさ』
話しているうちに新たな武装した一団が到着した。その中から小柄な人物が進み出て、サッタールとショーゴの正面に立つ。
「サン=マルコ市特殊警邏隊第六部隊隊長バリーニです。正体不明のアンドロイドに襲撃されたと通報を受けましたが、あなた方が被害者ですか? 見たところお怪我はないようですが」
防護服とヘルメットでわかりにくかったが、声を聞けばバリーニ隊長は女性だった。
「通報したのは私です。オウと言います」
年長の公安員が進み出て、サッタールは初めてこの男の名を知った。
バリーニはオウにある種のきな臭さを感じたのか、数秒黙って上から下まで検分する目で見てからうなずいた。
「中央の公安部の方ですね? で、そこの二体のアンドロイドを倒したのはあなたですか?」
「一つは、駆動部を破壊すると自爆しました。もう一体は……故障したようですな」
オウはショーゴの超常能力能力のことは伏せて曖昧に言った。
「他に人型が一体、ビートル型が一体、逃走しました。そちらの追跡もお願いしてあるはずですが」
「聞いています。別の隊が街中の監視カメラを解析しています」
バリーニはキビキビと答えてから、ちらりとサッタールとショーゴに目を向けた。
「あちらのお二人は、コラム・ソルの客人ですね? 事情をうかがっても? それとあくまでも捜査は私共がするということで了解いただきたい」
オウは肩をすくめて頭を下げた。
「捜査の結果を迅速に開示してもらえればありがたいですな。上司から警邏隊に正式に依頼が入ると思いますが。それとあの二人ですが、明日も面談調査がありますので今日はこれで引き取らせていただきたい」
バリーニは黙ってヘルメットを脱いだ。短く切ったブルネットの髪が汗で額に貼りついている。隊長というからにはそれなりの歳かと思ったが、意外と若い。おそらくショーゴと同じくらいだろう。ヘルメットを脇に抱えたバリーニは、一歩踏み出してサッタールの正面に立った。
「はじめまして。コラム・ソルの方ですね? 警邏隊小隊長のバリーニと申します。お疲れのところ申し訳ないが、数分だけ、なんならこの場で構いませんのでお話をうかがいたい」
どうするかとサッタールが逡巡する間もなく、ショーゴがサッタールの前に出て、真面目くさって挨拶した。
「コラム・ソルのショーゴ・クドーです。捜査に役立つようなこともたいしてありませんが」
「ありがとうございます。あれらのアンドロイドですが、襲われるような理由に心当たりは?」
「理由、ねえ……」
「往来で酔っぱらいに絡まれたのならば、偶然ということもあるでしょう。しかしこれはどう見ても事前に準備されたものです。なによりもまず、どうしてあなた方はこんな寂しい夜の公園においでだったのか? 呼び出されでもしたのですか?」
「いやー、散歩……?」
バリーニの顔が険しくなった。隊長が話している間も、隊員たちは手際よく現場の写真を撮り、アンドロイドを運び出す算段をしていた。
「あなたは精神感応者ですね? ならば私の質問の意味を取り違えるということもありますまい。襲撃には動機があり、それがわかれば襲撃者の洗い出しも容易になります。お答えください」
「っつってもなあ」
ショーゴは頭の後ろをかいて困ったように笑った。
「外でみだりに他人の思考を読まないって、コラム・ソルでは言い聞かされてるんですよ。ここにいたのは本当に偶然です。ほら、他人の思考を意識して閉め出すってなかなか疲れるんですよ。自分の手で目や耳を塞いだまま、知らない道を歩くようなものですからね。だから人気のないところで休みたかっただけです。動機は……俺たちが超常能力者だから?」
バリーニは探るような目をサッタールに向けた。
「あなたは……ミスター・ビッラウラですね?」
「ええ。ご存じでしたか?」
サッタールは会釈で答えた。すぐ脇で、オウが苦虫を噛んだような顔をしていた。
「もちろん。全惑星で最も有名な能力者ですから」
バリーニはにこりともしないで言った。
「それで襲われた理由に心当たりはありますか? 確かあなたは一度誘拐されているはずですね?」
二年以上も前のセントラルでの誘拐事件が、こんな離れた場所でもよく行き渡っているものだと、サッタールは苦笑した。
ふと、この件は公安に頼るより現地の捜査当局を頼った方がいいかもしれない、と思いかけ、またすぐに首を振った。襲撃者が地元の者ならばそれもいいが、レワショフの警告のように惑星規模の企業複合体ならば、中央の力が必要になるかもしれない。
「あのときと今回は全く違うと思いますよ。だいたいミスター・オウの話では、アンドロイドは武器を持っていなかったようですから」
「持っていない?」
バリーニはまた顔をオウに向けた。
「武器がなくても相手の意志に関わらず迫ってきて、拉致するためのビートルを用意されていれば、立派な犯罪ですよ」
「……とにかくどんな命令がされていたのか、そのアンドロイドを精査しましょう。ところで故障は偶然ですか?」
バリーニは視界の隅に二人の超常能力者を納めつつ訊いたが、オウはまた肩をすくめて答えなかった。
「では我々はこちらの二人をホテルに送って参ります。その後、あなたの警邏隊本部にうかがいますが、まだ勤務されていますか、バリーニ隊長?」
当たり前だと表情で答え、バリーニは能力者と公安員に背を向け、アンドロイドの運び出しの指示に向かった。
「行きましょう。今夜はもうホテルから一歩も出ないでいただきたいですな」
オウが慇懃に身振りで出口を示し、サッタールとショーゴは黙って従った。ちらりと肩越しに振り返るとバリーニは通信機に向かって早口で喋っていた。
その心は、超常能力と公安の両者に対する不信感で彩られていた。
翌日の調査面談も、超常能力者の発見という点では何の成果もなく、サハルとミアは残ると言ったショーゴに驚きながらも何も問わずにコラム・ソルへ帰っていった。
「危ないことはしないのよ」
夜の空港に送りに行った二人に、サハルが微笑んで言った。
「わかってるよ、姉さん」
サッタールはぶっきらぼうに答えた。前夜に危うく襲われそうになったことは話してない。だが精神感応の厄介さで、サハルもミアもショーゴがターゲットになったことを察していた。だからその言葉は二人に向けてのものだったが、ショーゴは俺がついてるんだから大丈夫と安請け合いをして、サハルの弓なりの眉をますますひそませることになった。
「心配なのはサッタールよりもあなたよ、ショーゴ。ユイを泣かせるようなことはしないで」
島で留守番をしているショーゴの妹を引き合いにだすと、飄々としている男の顔がかすかに曇る。
「しねえよ。怒るとうるせーしな」
紛れもない愛情をにじませて、ショーゴは島に帰る女二人の肩を抱いた。
「ユイには土産をたくさん持って帰るって言っといてくれな」
「あの子はお兄ちゃん大好きなのよ」
知ってるよ、と笑ってショーゴは手を振った。
二人の姿が消えるのを待っていたように、閑散としたロビーに靴音が響いた。公安のオウと警邏隊のバリーニが、互いに牽制しあうように距離を取って現れる。
「さて、昨夜の事件ですが。こんな夜分に申し訳ないが我々の本部におこしください。明日にはナジェームに戻られるのでしょう?」
「ええ。午前の講義に間に合うように早朝の便で発ちます」
バリーニがうなずき、先に立って歩き出す。後を追う二人の超常能力者にオウが寄り添うように近づき、そっとサッタールの手に触れた。
『ハヤシからは、ミスター・ショーゴのしたことは伏せておくようにと指示されています。私からは何も話してません』
一瞬の接触で身を離したオウは、伝わったのかどうかという顔でサッタールを見下ろした。
『何だって?』
ショーゴが目敏く気づいて訊いてくる。
『あんたのしたことは警邏隊に黙っておけ、だそうだ』
『へー、外の連中には、俺たちにベタベタ触れば話せるってことになってるのな?』
『……まあ確実だからな』
事実はそうでもない。触れなくてもある程度近い距離で、知っている人間ならば、意志を伝えあうことはできる。トゥレーディア基地ではミュラー元元帥ともそうして情報のやりとりをしたのだ。
『あれだろー? イルマが拡散元なんだろ?』
『……ああ、多分』
最初の出会いで手に触れて思念で話しかけたのはこっちだけどなと、サッタールは遠い目になる。当然、その後のやりとりも含めてアレックスは海軍に報告しただろうし、公安はそれを有益な情報として使っているにすぎない。
『可愛い娘っこならともかく、おっさんにベタベタされてもなー。バリーニ隊長なら悪くねえけど? まあお前だけの特技ってことにしとけよ』
ショーゴが他人事のように笑う。
『馬鹿。調査面談で指に触れてるだろ? もうこれは公然の事実なんだよ』
ショーゴの唇がへの字に歪むのを視界の隅に入れて、サッタールはクスっと笑った。
そのバリーニ隊長は、一切の愛想を排除した顔で、三人をサン=マルコ市警邏隊本部の応接コーナーに迎え入れた。
深夜に近い時間でも、三交代の警邏隊本部は人の出入りが激しく、時折けたたましい音をたてて通報が入る。
「落ち着かなくて申し訳ありません」
全く申し訳なさそうに謝って、バリーニは自分で茶のコップを運んできた。今夜はデスクワークしかしないのか、防護服ではなくグレーの地味なパンツスーツだ。
「早速ですが、二体のアンドロイドのボディ、及びAIの分析が出ています。まだ簡易なものですが」
バリーニは自分のPPCを躊躇なく三人に向けた。
「まず当然のことですが、あれを汎用完成品として販売している企業はありません。つまりは特殊な目的の為に作られたオーダーメイドです。部品の製造元はおよそ数百の企業が挙げられますが……」
PPC画面をのぞき込んだオウは、深くうなずいて口を挟む。
「全てヴォーグ社と繋がりますな」
「はい。AIの解析は、まだ進んでいないのですが」
言葉を切って、バリーニは表情の読みにくい琥珀の目をサッタールに向けた。
「ヴォーグ社に何か心当たりは?」
「いいえ」
琥珀の瞳が疑わしそうに細められる。
「本当に?」
「ええ。ヴォーグといえば、惑星規模の巨大企業体ですよね? あいにく私たちはそうした経済活動に疎いので」
一晩のうちに、バリーニはサッタールの交友関係まで調べたのだろう。ヴォーグの御曹司がナジェームの同学年にいることを。
だがアンドロイドがヴォーグ社を指すからといって、ショーゴに対する陰謀がヴォーグの手によるものかはわからない。そんな調べればすぐに露見するような真似をするとは思えないからだ。
「そうですか。では、昨夜もうかがいましたが、そもそも襲撃されるような理由に心当たりはありませんか?」
サッタールが口を開く前に、またオウが横から答える。
「超常能力者を欲しがる組織はいくらでもありますよ。だからこそ我々がついているのです。そして今回の襲撃にアンドロイドが使われたのは、彼らが……あー、特にミスター・ビッラウラの能力が精神感応であることが知られているからでしょう。アンドロイドでは読むことも操ることもできませんからね」
バリーニの眉間に深いしわが刻まれる。
「なるほど。公安はこの件であまり大騒ぎにはしたくないと? その上でデータだけ欲しいってことですか?」
「はは。そうですね。あなたの上司からもそんな話は聞きませんでしたか?」
「そんなようなことを言っていたかもしれませんね。あまり真剣には聞いてませんが」
「大事なことですよ、バリーニ隊長。何もあなた方を軽んじてる訳ではありません。ただ超常能力者を手に入れたい勢力は、今回の詳細を知ったら次には違う手を考える。彼らの弱点は何か、どうすれば脅せるか甘言につられるか、金か女か、それとも……とね。襲撃の手段も次は変えてくるでしょう」
「我が警邏隊に、口の軽い者がいるとでも?」
「口を割らなくても盗む手段なんかいくらでもありますよ。我々もね。だから深くつっこまない方がいいんです。ただ……」
オウは言いよどんで、ショーゴに顔を向けた。
「そうは言っても地元の治安機関を全て弾くつもりはありません。ミスター・ショーゴ、あの件については正式に依頼されてはどうですか?」
あの件とは、発端だったチュラポーンのアダルト映像だ。ショーゴは不機嫌に眉を寄せたが、諦めたように口を開いた。
「実は。このサン=マルコ一帯で、俺が昔ちょっとつきあいのあった女性の顔を合成したアダルト映像が流れていまして」
「アダルト映像?」
「ええ。思い出したくもありませんけど、かなり過激な」
「それをどこで見たのですか? それとアンドロイドによる襲撃と何か関係が?」
「どこで見たか、と聞かれると答えにくいんだけど。頭の中で?」
「……実際に流れたのですか、それとも失礼だがあなたの妄想ですか?」
ショーゴは、昨日、今日と面談した自称超常能力者たちのことを思い出して苦笑した。バリーニは確実に、自分たちが被調査者から受けたのと同じ印象を、今自分に抱いている。
「実際に流れたものですよ。俺は、電子の流れに干渉し、それを自分の脳が理解できる形で再構築できるんです」
「そうかもしれません。しかしそれはあなた以外の人間には理解できませんし、実証もできませんね」
またかという思いと、他人の検証に耐えられる成果がこの社会の根幹の一つなんだという諦めに似た認識がサッタールの胸を満たした。
「私がクドーの頭を覗いて、それを一緒に見たと証言しても納得はされないでしょうね?」
念のためと尋ねると、バリーニは当然ですときっぱり答えた。
「ですが、本当のことかもしれないと想定して捜査するのにやぶさかではありませんよ。市民からの訴えですから」
ショーゴはハァと息を吐いて天井を見上げた。映像が流れたのは事実だ。それがアンドロイドを使わした者と同じならば、今頃はその痕跡を消してしまっているだろう。丹念に調べれば削除の形跡が見つかるかもしれないが、妄想じゃないかと疑うバリーニがそこまでする気があるのかどうか。
ジャンの事件の時も、アルフォンソとイルマが散々頭を絞って中央とやりとりしていたが、実証主義の社会では自分たちがいかに異分子か改めて思い知らされるだけだ。
「まず、その女性自身にそうした映像を撮影した経験があるかどうか確認させていただきます。その上でご自身の画像をいただきましょう。で、ミスター・クドー、あなたが見たという映像には何か特徴はありませんでしたか? チャンネルを表すデザインが右上の方についていることが多いのですが?」
バリーニは、捜査をするつもりはあるようだった。しかしこれにショーゴが首を振る。
「本人に連絡を取ると言うなら、この件はもういいよ。彼女はこれ以上巻き込まれるべきじゃねえからな」
「自分の意図しない映像がどこかで流れているかもしれないのを放置する方が、女としては苦痛だと思いますが。そもそも被害者はその女性なのでしょう?」
事務的に答える警邏隊長をショーゴはじっと見つめた。滅多にやらないが、その心を探ろうと思念を伸ばした。仕事に対する義務感の中に、誰かを脅迫するために誰かを貶めても構わないと考える存在への純粋な憤りがあった。
ショーゴはまた大きく息を吐いた。
「どうしたもんかなー。俺が配信会社に乗り込んで調べるのが手っとり早いんだけど」
「あなたが公的な捜査機関に所属していれば可能ですよ?」
ここぞとばかりにオウが口を挟み、ショーゴは苦笑した。
「俺を取り入る為にあんたたちが仕組んだんだとしても驚かねえよ。画像だっていくらでも手に入るだろうしな」
「心外ですな」
少なくとも今回は違うと心で言い訳するのにやれやれと首を振る。
「公安はその女性の画像を持ってるんですか?」
しかしバリーニはショーゴの心情を置き去りに視線をオウに向けた。
「持ってますよ。護衛対象者ですからね」
「それを本人は?」
「もちろん伝えてません。護衛対象であることもです。人権をないがしろにしてるという非難はあえて受けますよ。我々としてはこんな風に利用されることを防ぎたかったんですがね」
「その女性がミスター・クドーの関係者であることは、そんなに広く知られているんですか?」
「プライベートをつついて報酬を得る人間もいますからね」
ふむとバリーニが腕を組んだ。いつの間にか部屋に出入りする人間も減り、警邏隊本部はつかの間の夜の平和の中にあった。
「つまりこれは、アンドロイドの件もあわせて、超常能力者に対するテロのようなものだと?」
「そう言っていいと思います」
「一つの街の局地的な恐喝または暴力事件ではないのですね?」
「そうなら最初から我々も口を挟みませんよ」
バリーニはテーブルを睨むようにしばらく考えてから、ゆっくりとショーゴに目を向けた。
「あなたを捜査に加えることはできません。アンドロイドの件も映像の件も。あなたはあくまでも一般人ですから」
一度言葉を切ってから、小柄な警邏隊長はゆっくりと続ける。
「事情は理解しました。映像の件は、被害者はその女性です。ですがあなたも公安もご本人には知らせたくないのですね? それならば、そちらを積極的に捜査はできません。ただし同じ映像が流されることがないか、監視はできます。画像は、個人的には不本意ですが公安からもらいましょう。そしてアンドロイドの線から何かがたどれそうならば、ご連絡します。あなたか、あるいはミスター・ビッラウラに。それで了解していただきたい」
ショーゴにもサッタールにも、彼女が誠実に本心から話していることはわかった。
(誠実だからといって実行力があるのかはわからないけどな)
サッタールのその内心の呟きに、ショーゴか返してくる。
『お前、外に出てから殺伐としたなー』
『元からだよ』
憮然とする年下の友人には構わず、ショーゴはバリーニに真っ直ぐ向き合い、うなずいた。
「了解しました。俺はしばらくはビッラウラのところに滞在しますので、連絡があればそちらにお願いします」
「ナジェーム大学はブルーノ大陸でも屈指の治安を誇る大学街です。許可のない者は敷地に入れませんからね。何者かがあなた方を狙っているのが本当ならば、あそこに滞在するというのは悪くないと思いますよ」
バリーニは固い口調のまま立ち上がった。つられるようにあとの三人も立ち上がる。誰も握手など求めない。
「ではミスター・ビッラウラ、ミスター・クドー。ホテルまでお送りします。バリーニ隊長、私はまた明日こちらに出向きますが、画像データはその時で?」
「結構です。私はしばらく警邏の当番から外れて、この件の専任になりますので」
促されてドアに向かってから、サッタールはふと足をとめてバリーニを振り返った。
「あなたは超常能力というものを信頼していないのですか?」
バリーニはかすかに頬をひきつらせた。
「いいえ。あなた方がそうだと言うのならそれは存在するのでしょう。ですが……自分が感知できないことをすぐに信じられるほど肝は据わっていないと、それだけです」
ショーゴが物言いたげに眉を上げたが、サッタールはそれを押しとどめて、ただ深く頭を下げた。
背中で閉まったドアの音が重く響いた。




