街はどこだ?
「あ~………着かねぇ……」
狼牙が歩き始めておよそ五時間。
少々の妨害があったりしたが、黙々と歩き続けていたのに一切着かない。
これは一体どういう事か、と狼牙は本気で頭を抱え始める。
通常の人間ならばそれほどの距離を進んではいないのだが、そこは狼牙。
今までの絶え間ない鍛錬により足腰は鍛えられ、通常の人が歩くよりも遙かに早いスピードで歩けるのだ。
なのに着かないのは何故か?
それはこの草原にある。
一般的に『アルカ草原』と呼ばれるこの場所は、冒険者と呼ばれる者達からは別名『迷いの草原』とも呼ばれる場所だ。
バカみたいに広く、同じ景色が続くので方向感覚が狂い、同じ所をグルグル回るといった事はないが、真っ直ぐ進んでいるつもりでも曲がったりしてしまうなどと言う事もあったりする。
普通なら真っ直ぐ歩けるはずでも魔力的な何かが働いているのだろう。普通には進めないのだ。
精密な魔力コントロールと、経験から来る鋭い勘が無ければ、ほとんどの場合道を間違える。
「なんだこれ?なんか面倒なもんでも動いてんのか?」
まぁ、あくまでも通常ならばだ。
狼牙はその範疇には入らない。
この世界では普通に持っているはずの魔力は無いが、この世界には無い能力を狼牙は持っている。
「めんどくさいな………『空間支配 飛翔』」
狼牙の能力その2ーーー『空間支配』
その名の通り、空間を支配するといった、単純にして強力な能力だ。
応用の範囲も広く、狼牙はこの能力を重宝している。
そして今回、その一端として飛翔を選択した。
空間を支配できるなら、今居る場所から一番近い場所を特定すれば良いじゃないかとは言ってはいけない。
飛翔を選択したのは歩くのが飽きたからだ。