探索
非常口の印のある扉の前に立つと、ポンという高い音と共に扉が開く。
同時にドミノ倒しのように、灯りが通路に点った。
これは・・・。
一歩踏み出すと、白い壁の通路がどこまでも続いていた。
ここは病院・・・か?
施設の持つ独特の雰囲気というものがある。
この目の前に広がる空間はあまりに病院のそれに似ていた。
なんだ、私は医者なのか!?
だが、なぜに裸の医者なんだ?
・・・趣味か?
そんな趣味の医者はいないだろう!
などと考えながら通路を進む。
ふと横を見ると、なにやら大きな部屋へと続く扉が見える。
巨大な円柱形の柱が並ぶその部屋は、外からでも分かったようにかなりの広さで入り口から部屋の端が良く見えない。
円柱形の柱は透明で底を覗いてみると、どれも何かの塊が干乾びて固まっている。
なんだか分からないが見ていて気分が悪い。
いい気分でもないのでこういう所は早々に立ち去るに限る。
しかしまるで人の気配がないな・・・。
もしかして世界は滅亡していて、私は残された最後の一人なのだとか・・・。
なぜ記憶がないのか、目覚めた時のあの衝撃は何だったのか。
この状況の説明がまるで付かない。
そうだ!
ここが病院ならカルテがあるはずだ。
それを見てみれば、なにか思い出すかもしれん。
しかしカルテってどこにあるんだ?
事務室的なところか?
手術室にはないだろう・・・。
というのも私は今、手術室らしき部屋の前に立っているのだ。
まあどうせ時間に追われているわけでもなし、中を覗いてみるか。
部屋の中に一歩踏み入ると自動で灯りが点いた。
部屋の中央には手術用のような、上からライトの吊り下がっている台が一台。
ぐるっと中を見渡すと、部屋の隅には机が一台。
そして机の上に、腕が一本。
腕が一本・・・。
腕が一本・・・?
ひぇええ~!!?
なんだなんだ、この話はホラーだったのか?
私はてっきりコメディかと思っていたぞ!?
・・・だがしかし、敢えて私は立ち向かう。
人生ホラーだと思えばホラーになるものだし、コメディと思えばコメディになるものだ。
私の心意気でホラーをコメディにしてやろう!
おそるおそる転がった腕に手を伸ばし・・・。
えぃやぁ~!!!
・・・なんだマネキンではないか!
どうりで転がっている腕にしては色艶が良すぎると思った。
しかしやけにリアルな腕だ。
全ての指も可動式らしい。
ひょっとして超リアルな孫の手か?
どんなかゆい所にも手が届く・・・。
って、使えんだろう!
いかんいかん、こんな所で遊んでいる場合ではなかった。
私のアイデンティティを取り戻すため、カルテを探さねばならんのであった。
べつに恐いから立ち去るわけではない。
股間がわずかに冷たい気もするが、気のせいだ。
・・・気にするな。
しかしこの人気のない病院らしき景観は、よく考えてみればゾッとするシチュエーションではある。
カツーン・・・、カツーン・・・
無人の廃墟に鳴り響く、孤独な私のブーツの音
カツーン・・・、カツーン・・・、ぽよよん!
ん?
まてまて!
なにか変な音がしたぞ!?
立ち止まって聞き耳を立ててみるが・・・
シーン・・・
気のせいなのか?
恐い恐いという気持ちが、なんでもないものを変なものに勘違いさせるのだ。
ふん!こんなもので私が騙されるものか。
私を侮ってもらっては困る!
さあいくぞ!
カツーン・・・、カツーン・・・
そらみた事か!なんでもないではないではないか!
ぽよん!
ん?・・・・
ぽよん!ぽよん!
で・・・、でたぁ!!!!?
急いで物陰に身を隠してみるが、けっして恐いわけではない!
状況が不明確なシチュエーションでは安全の確保が最優先だと、ばあさんが遺言で言っていた気がする。
その通りだ!
私を侮ってもらっては困る!
ぽよん!ぽよん!
物陰から音のする方向をそっと覗いてみる・・・。
こ、これは・・・!?
スーパーボール!
ナゼに!?
ボールは私の前を何事もなかったかのように跳ねて消えた。
正確には物陰に隠れた私の前だが、そんな細かいことはどうでもいい。
誰だ!誰が投げた?
ボールが完全に行き過ぎたのを確認して、飛んできた方向を窺ってみる。
やはり誰もいない・・・
・・・よん、・・・ぽよん!
ボールが帰ってきた!
跳ね返ってきたのか?
ぽんぽんぽんぽよよよよん・・・・
なんだなんだ!?その不自然なバウンドは?
自然界の理に反するだろう!
ぽよん・・・、ぽよん・・・
そして今私は目の前でバウンドするボールと対峙しているわけだが・・・
ゴクリ・・・
しまった、どうやらこいつが黒幕だったらしい。
問題点を最初に履き違えると、後はなし崩しとはこのことだ。
ぽよん・・・、ぽよん・・・
ボールは私の目の前でバウンドしながら黄色く発光している
爆発でもするのか?
私は自分の記憶を失ったまま、この世から消えてしまうのだな・・・
私の帰りを待っていたかもしれない誰かさん、いたらゴメンなさい。
短い生涯だったのか良くわからないがサヨウナラ・・・
“ピン・・・ポーン・・?”
がくっ
なんだ、そのやたら疑問系のようなチャイム音は!
だがやつの発光は黄色から緑色に変わり、私の横をバウンドしながら去っていった
なんなんだ、この試合に勝って勝負に負けたようなやるせない気分は!
というか、お前は何だ?何者だ!?
落ち着け!落ち着くんだ私!
・・・って、落ち着いていられるか!解らん事が多すぎる。
一体ここはどこだ?私は誰だ?
「ナニカ、オ困リデスカ?」
その時、背後から私に語りかける声に
我を取り戻した・・・