脱出
あの部屋から出ることができた私の前に現れたのは、大人二人が並んで歩ける程度の四方が金属に覆われた通路だった。
通路内は元の部屋と同じ赤い照明光で満たされている。
なんと物々しい通路だな。
まあいい、私の後ろに道はない、私の前に道がある。
前進あるのみだ!
通路を進み中央部に差し掛かったところで背後の扉が閉まった。
なに?!また閉じ込められた?
罠だったのか!?
その時、どこからともなく機械的な声のアナウンスが響いた。
「ソノ位置デ止マッテ オ待チクダサイ」
なんだ?
突然上方から何かの液体がシャワーとなり降り注いでくる。
うわ!?冷たいではないか。
まだ心の準備が・・・。
物事には心の準備というものがあるというのに!
しかしシャワーは10秒程度で止まり、床上と身体についた液体は瞬時に蒸発して乾いていった。
水ではないのか・・・?
アブナイ薬だったらどうしよう?
だがそんな私の心配をよそに、身体についた液体を眺めていると、ビービーとビープ音が鳴り響きアナウンスが流れる。
「ソノママノ状態デ オ待チクダサイ」
「生体分析プログラム作動」
・・・
「バイオコンディションクリア」
・・・
「メタルコンディション・・・」
・・・
「メンタルコンディション・・・」
・・・
「ノットクリア」
「メンタルコンディション二一部欠損ガ見ラレマス。
第7セクションニテ、メンタルチェックヲ受ケテクダサイ」
「以上デス。ドウゾ、オ進ミクダサイ」
なに!?
身体的なチェックでもいかがわしいというのに、こんなもので私の精神チェックを行ったというのか?
「・・・見た目で人を判断しているな?」
確かにこんなところを裸でうろついているヤツなど、まともな人間ではないと思うかもしれない・・・。
しかし!
だがしかし!!
「ドウゾ、オ進ミクダサイ」
「私は裸が好きな、まともな男かもしれんだろう!?!!」
「ハヤク行ケ!」
「・・・はい」
だが第7セクションって、どこだ・・・?
「おい、第7セクションってどこだ?」
「ドウゾ、オ進ミクダサイ」
なんだ、都合が悪いとダンマリか?
まあいい、ぼちぼち探索しながら探すとしよう。
見れば出口の扉が自動で開いていた。
これはいい、今度はいちいち悩まずに済みそうだ。
その先にあるのはロッカールームのような部屋だった。
一歩踏み出し部屋に入ると、突然うす暗かった部屋に白色の光が点く。
ふうっ、なんとか通路も抜けられたようだ。
少し頭の中を整理しよう。
いったいなんだったんだ、あの部屋は・・・。
鍵のかかった部屋の持つ役割とは二つだ、出さないと入れない。
識別が行われて出られたという事は、出さないためにあの部屋に入れられていたのではないということだろうな?
ということは、外部からの侵入者を入れないのが目的ということになる。
つまり中のものを守る為の扉ということだ。
何から?
わからん・・・。
まあいい、それが分かっただけでも一歩前進というものだ。
それよりもこの部屋がロッカールームであるとなると・・・。
おもむろに手近な戸を開いてみた。
ビンゴ!
中には上下一組の服が収まっていた。
これで更にいろんな意味での危険度も下がるというものだ。
人に出会ってしまう危険を恐れて、いつまでもモジモジしながら歩かねばならんのでは敵わないからな。
フンフフフ~ン♪
ん?
はっ!!!
服を手に取ろうと手を伸ばした時、戸の裏の鏡に映った自分の顔が飛び込んできた。
私はかなりのおっさんではないか!?
しかも髪型はアフロ・・・。
ナゼに!?
お嬢さんやオバさんではないことは分かっていたが、もう少し若いかと思っていたのだが。
・・・まあいい。
これはこれでシブいといえばシブいと言えなくもない。
・・・小さい事は気にすまい。
・・・小さい事は。
・・・・・・・・
ドンマイ、とりあえず服を着よう。
おお!ジャストフィットだ!
だが、誰のかはわからんが服のセンスはイマイチだと言わざるを得ない。
だいたい何なんだ、コートの背中にあるカネサダの刺繍はダサダサではないか。
サダがダサダサではシャレにもならんな。
しかし大切に使わせてもらうよ。
どこかのサダサダさん、ありがとう!
さて、服も着たことだし本格的に探索開始だな。
ここから出るには、っと・・・・。
辺りを見渡すと出口らしき扉が目に留まった。
おお!あそこから他の場所へ移動できるみたいだな。
私の道は着実に前へと進んでいる!
勘違いではないはずだ。
・・・たぶん