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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
研修三日目
8/50

『異国の寺院巡りツアー』1

 本日パトリックが担当するツアーは『異国の寺院巡りツアー』というものだった。タンタン旅行社が、退職後のお金のある富裕層をターゲットにして作ったツアーで、「いろんな宗教の寺院を巡り、思考を深めよう」というキャッチフレーズを元に売り出していた。色々な寺院を拝めるのがめずらしいのか、毎回30人近くの方が参加するほど結構人気のあるツアーだった。


 事務所の入っているビルを降りると、すでにバスが待機していた。店員40人乗りのバスは変な装飾がされていることもなく、青色の普通のバス。運転手にとりあえずアロハシャツを手渡し、バスは待ち合わせのホテルに向かった。ホテルに到着するとすでにお客さんはロビーに集まっていた。

 しかし時間は集合時間の5分前。パトリックとミヒロは安堵して、お客さんを迎えるためロビーに入っていった。


 最初の目的地はヒンドゥー教の寺院だった。入口の門の上に多く色鮮やかな神の彫刻が飾られており、それだけでお客さん達は圧倒されたようだった。さすがに25人は一気に入れないので、少人数に分かれて順々に入っていく。

 ミヒロは日本でお寺、神社しか入ったことがなかったので、観光客と同じようにきょろきょろと見渡す。しかし薄暗い中、真剣に御祈りをする人が多く、こんな観光に来てもいいのかとふと疑問になった。

 ヒンドゥー教の寺院を見た後は、インドの料理を体験してみようと予約していたレストランに行った。中には肌の浅黒い人がたくさんいて、外国に来たのに同じ外見の人ばかりとがっかりしていたお客さんは少し興奮ぎみに周りを見渡している。ミヒロも、初めてちゃんとした外国にいるような気分になり、一緒になって周りに注意を向けていた。

 しかしレストランのお客さんはそういうミヒロのような観光客に見られるのが慣れているらしく、無関心に自分たちの食事を楽しんでいた。

 食事は魚のカレー、鶏肉のカレー、ジャガイモのカレー、オクラのカレーとカレー尽くしで、カレーが食べられない人には苦しいもの。しかし、そこは事前に食事がインドカレーと伝えてあるので文句言う人はおらず、皆さん満足したようだった。

 昼食後、少し休憩して次に向かったのがイスラム教の寺院モスクだった。しかしここはイスラム教徒しか中に入れないということで外観だけの観光になる。

 こんなんで大丈夫かなと心配するミヒロをよそに、25人のお客さんはモスクの外観、美しく刈り込まれた庭を楽しんでいるようだった。

 鮮やかな優しい緑色の丸い屋根にクリーム色の壁、庭が整備され、確かにちょっとしたアラビアンナイトの世界を堪能できるような気がした。


 30分ほど外観を堪能し、団体は最後の目的地、仏教寺院に向かった。実はここがこのツアーで目玉の寺院だった。


「コノお寺はこの国でイチバン、パワーがアリマス」


 バスの中でパトリックがそう説明し始めると、一気にお客さんが活気づき始めた。それもそのはず、今から行く寺院は願いごとを叶えてくれるらしい。

 就活、婚活、受験戦争、子供を授かりたい人などはこの寺院にきて祈ることが多く、他の仏教系の寺院より願いごとを叶える比率が高いということで、大人気の寺院だった。

 バスを駐車場に止め、寺に向かうと人の多さに驚いた。それでもめげずに皆さんが行きたいというので、少人数に分かれて、パトリックが中に連れていく。

 1時間ほどかかり、予定時間を過ぎてやっとお客さん皆が参拝し、帰ろうとした時、1人のお爺さん――斉藤ツネユキがもう一度行きたいとごね始めた。

 理由を聞くと、孫の受験のためにもう一度祈りたいということだった。

 パトリックは穏やかなに諭すが、がんと聞かず、ミヒロは自分が出る番だと決めた。


「パトリック。ホテルの場所は知ってるし、私が後で送り届けるよ。タクシー捕まえて行くから大丈夫」


 館林に借りた本の『まるごと最新情報』いう本に、タクシーが拾いやすい国だと書かれていた。

 このまま、無理やりこのお爺さんをホテルに返すのはかわいそうだとミヒロは思っていた。


「え、デモ……」


 パトリックが不安げにそう言う。


「兄ちゃん、姉ちゃんが大丈夫って言ってるんだ。大丈夫だろう?わしらは先にホテルにもどろう。わしは疲れた」


 お客さんの一人がそう言い始め、他の客もほっとけ、先にホテルに戻ろうとそれに続く。彼はため息をつくと口を開いた。


「デハお願いシマスネ。何かあったら、ボクに電話をクダサイネ」


 パトリックは心配そうな顔のまま、持っていた鞄から名刺を取り出し、ミヒロに渡した。


「じゃあ、兄ちゃん、帰ろうや」


 本来ではリードすべきガイドの青年にそう言うと、先ほど最初に疲れたと言い始めたおじさんが歩き出す。


「ミヒロ……」


 お客さんについて歩いていきながらも、不安げに彼がミヒロを振り返ってみる。しかし、彼女はにっこり微笑んだ。


「大丈夫だから」


 その笑顔を見て安心し、彼は笑顔を返すとお客さんを先導し始めた。


 20数人の日本人の団体が離れていくのをみながら、ミヒロはお爺さんに顔を向けた。


「さあ、斉藤様。中に入りましょうか」


 お爺さんは新米ガイドの言葉に嬉しそうにうなずくとお寺の中に入っていった。

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