僕の失恋
Christmas daysの木田の独白です。
水でよかったな。
コーヒーとか牛乳だったら最悪だった…
僕は店員が気をきかせてもってきてくれたタオルで濡れた顔を拭く。
失恋もいいところだ。
嫌われた。
あの可愛らしい瞳が怒りで真っ赤になって、泣きそうだったのを覚えている。
だって、許せなかった。
なんであいつがあんな可愛い子を。
日本人の女ならその辺ごろごろしてるはず。
しかもあの綺麗な顔ならよりどりみどり。
なんで、長三山さんを選ぶんだ……
僕は店員にタオルを洗って返すといい、店を出た。
叩きつけられた2千円は財布の中に入ったままだ。
とぼとぼと僕は駅に向かって歩く。
家を出るときはあんなにわくわくしたのに、今ではこんなに辛い。
こんなことなら電話になんか出なきゃよかった。
下手な小細工しなければよかった。
でも、衝動を止められなかった。
2人がうまく別れれば僕にチャンスが巡ってくると思った。
僕の声を聞いて引きつったパトリックの声を聞き、ざまあみろと思った。
僕の苦しみを味わえと思った。
僕の愛しい、可愛い長三山さん。
彼女が僕に笑うかけることはないだろう。
気まずいな。
「はあ……来年は転職活動か…」
タイは楽しかった。
親に日本に戻って来いと言われ、日本で転職先を探していたら、このタンタン旅行社に辿り着いた。
可愛い子がいた。
一目ぼれだった。
まさかすでに彼氏がいるなんて、しかも猫かぶりな外人野郎。
「しょうがないな。来年はタイに戻るか……」
あの穏やかな夏の日々が懐かしい。
ゆっくりと流れる時間……
暖かな日々。
「くっしゅん!」
げ、風邪を引きそうだ。
何年ぶりの冬だろう。しかも水をかけられた。
失恋した上に風邪にまでなったら…
まあ、それもそれでいいか。
しばらくあの2人には会いたくない。
僕はモッズコートのフードを被ると早歩きで駅に向かった。
冷たい風は僕の心を刺激し、失恋の傷をえぐるような痛みを与えた。