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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
大団円番外編ーChristmas Days
47/50

Christmas Eve - December 24 (3 of 3)

「……どうしようか」

「ウン」


 病室に戻ろうとしたら、二人の声が聞こえ、ミヒロとパトリックは断念した。アキオのことを相談しようとしたのが、邪魔はしないほうがよさそうだった。


「なんで電話に出ないんだろう」

「Maybe together with Aileen?(多分、アイリーンと一緒とか?)」

「I hope so (そうだといいけど)」


 ミヒロはそう答えながらあの鋭い視線を思い出す。


(伍さんと会ったのかなあ。心配だなあ)


「パトリック。アイリーンの携帯番号もってる?」

「ウン」


(考えてもしょうがない。かけてみたらわかること)


 ミヒロはそう決めると、どきどきしながらパトリックの電話を借りてアイリーンにかける。


もしもし


 数回鳴らして不機嫌そうなアイリーンの声がした。


「Hi, I am Nagamiyama. do you stay with Go-san? (こんにちは。私は長三山です。伍さんと一緒にいますか?)」

「An? Are you mad? Sorry I am busy right now. (はあ?おかしいの?ごめん、今私忙しいから)」


 電話を切られそうになり、ミヒロは慌てて次の質問をする


「Do you know where Go-san is? (伍さんがどこにいるか知ってますか?)」

「I don’t know (知らないわ)」


 『爱玲!你快来了!(アイリーン!早く来い!)』

 電話口から男の怒鳴り声が聞こえた。周りの騒がしい音からバーにいることがわかる。


(アイリーンは今仕事中なんだ)


「OK sorry (わかりました。すみません)」

 ミヒロはそう言うと電話を切った。


「パトリック、どうしよう。伍さん、どこにいるんだろう」


 携帯電話を両手で持ち不安そうに自分を見上げるミヒロの肩をパトリックが包み込む。


「Don’t worry, He should be fine. We are going to Airport first and wait for him there(心配しないで。彼ならきっと大丈夫。僕たちは先に空港にいって、彼を待とう)」

「うん、そうだね」


 ミヒロはパトリックの言葉に頷くと、館林達に別れを告げるために、病室のドアをノックした。




 午後9時。

 アイリーンは歌を歌い終わり、家に戻ろうと鞄を掴む。メインのシンガーは今からクリスマスソングを歌うようだった。

 8年間、バーで歌い続けていたが、日の目を見たことはなかった。

 アイリーンは自嘲するように口を歪めると、歩き出す。


 川沿いの道を歩いていると川に丸い光が映っているのが見えた。

 空を見上げるとぽっかりと丸い月が浮かんでいた。


 ふいに鞄の中で音がして、慌てて鞄を肩から降ろすと中を開けて携帯を探す。

 それはメッセージを受信した音で、メールを開くとパトリックからだった。

 『If you receive message or call from Mr. Go, please let me know. Nagamiyama (もし伍さんからメッセージを受け取ったり、電話があったら、 教えてください。長三山)』

 

 アイリーンは折りたたみの携帯電話を再び閉じると息は吐く。


 今朝アキオから受け取ったメッセージに書かれていたレストランはここから歩いてすぐだった。

 待ってるはずはないと思いながらも、アイリーンは鞄を担ぎ直すとレストランに向かった。



「伍先生(伍さん)」


 聞き覚えのある声がして、アキオは顔をあげる。

 そこに愛しい女の姿を確認し、微笑んだ。


「你来了 (来たんだ)」

「我不想来了。可是你的朋友找你,所以……(来たくなかった。でもあなたの友達が探してるから…)」


 言葉の途中でアキオは立ち上がりぎゅっとアイリーンを抱きしめる。


「放开我!(放して!)」


 アイリーンはアキオから逃れようと体をよじる。しかし、逃れられなかった。


「我爱你。我爱你!(愛してる、愛してる)」


 アキオはアイリーンを抱きしめ、そう叫ぶ。すると周りの人が何事かと興味しんしんで見始める。氷の歌姫の客の好奇の視線から逃れるため、必死に男から離れようとする。しかし自分を抱きしめる腕はびくともせず、客は面白そうにはやし立て始めた。頭にきてアイリーンがうるさいと恫喝しようとすると、店の奥から1人の50代過ぎのひょろりとした華僑が現れた。店のオーナーらしきその男はにこっとアイリーンに微笑みかける。


「小姐。你知道吗?他是几点到这里的?他从十点开始在这里等你了。你可以给他个机会吗?(お嬢さん、知ってますか?彼が何時にここに来たか。彼は10時に来て君を待っていたんだ。彼にチャンスをあげないのかね?)」


 アキオは完全に泥酔しており、アイリーンをぎゅっと抱きしめたままだった。

 その腕の中でアイリーンがただ黙って何も答えようとしない様子に、男はため息をつくとアキオの体を引き離した。そして椅子に座らせる。


「年轻人。她不爱你。你找别的女人,好吗?(若者よ。彼女は君を愛していない。別の女性をさがすことだ、いいね?)」

「不要。我爱的人就是她。(いやだ。私の愛する人は彼女だけだ)」


 男の問いにアキオは充血した目を向けて、はっきりとそう答える。


「小姐。怎么了? (お嬢さん。どうだね?)」


 男は大げさにため息をつくとアイリーンを見つめた。


「好,好的。(わかりましたよ)」


 人々の好奇な視線とオーナの視線が痛くてアイリーンはこの場を逃げ出したくなり、そう答える。


「年轻人。恭喜你。她接受你的爱(若者よ。おめでとう。彼女は君に愛を受け取ったようだ)」

「您说什么?!(何を言ってるんですか?!)」


 とんでもないことを言い出した男にアイリーンは大声を上げる。

 しかし周りの人を巻き込み店内はどうしようもないくらい異常に盛り上がり、クリスマスムードで歓迎された2人はレストランを仲良く追い出される。


「伍先生。我先给Ms.Nagamiyama打电话(伍さん、私は先に長三山さんに電話かけますから)」


レストランを出てほっとしたアイリーンは自分に寄りかかるアキオをベンチに座らせて、電話をかけようと鞄を探る。


「爱玲。你真的接受我的爱吗?(アイリーン、本当に私の愛を受け取ってくれるのか?)」


 携帯電話を取り出したアイリーンに、アキオはその真摯な瞳を向ける。


(ええ)


 その瞳の真剣さに負けて、アイリーンは短くそう答える。するとアキオは幸せそうに笑い目を閉じた。


「伍先生?!(伍さん?!)」


 動かなくなったアキオにアイリーンは驚いてそう呼び掛ける。しかし寝息がすーすーと聞こえてきて、胸をなでおろした。


 『I found Mr.Go. Don’t worry (伍さんを見つけました。心配しないで)』


 アイリーンはミヒロに短くそうメッセージを送ると、アキオの隣のベンチに腰掛けた。街の中の川沿いの公園には2人の他にいくつかカップルの姿が見えた。アイリーンは自分達もそう思われているのかと恥ずかしく思いながらも、アキオの隣にいることに居心地の良さを感じていた。

 クリスマスソングが街の至る所から聞こえていた。イブの街は眠る様子がないように賑やかに華やかにいつまでも輝いていた。



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