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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
大団円番外編ーChristmas Days
46/50

Christmas Eve - December 24 (2 of 3)

『你好吗?我在那个餐厅等你。我想你。(こんにちは。あのレストランで待ってるから。会いたい)』


 アキオは色々考えてあげく、そんなメッセージを打ち終えると送った。


 ミヒロ達と空港で別れて、まだ開店前の店が立ち並ぶ街を歩いた。華やかな飾りで彩られる街、赤と緑色の飾りが至る所に溢れていた。

 数時間の間、ぐるぐるとこれからのことを考え歩いた。

 そして足に疲れを覚え、カフェに入り朝食セットを頼んだ。カリカリに焼かれたトーストをかじり、ミルクを少しいれたコーヒーを飲む。鼻から入り込む香ばしいコーヒーの香りは全身にいきわたり、気持ちをリラックスさせた。コーヒーを飲み終わり、大きく息を吐いた後、自分が思ったより緊張していたことに気がついた。


 メッセージを送り、アキオは朝食を食べ終えると、待ち合わせ……待ち合わせというべきではないのだが、そのレストランに向かった。

あのレストラン、それでアイリーンがわからなければそれまでだとアキオは半ばやけ気味に、歩く。

 指定した場所はアイリーンとキスを交わしたレストランだった。


(これで来なければあきらめる)


 街をぐるぐると歩きながら、アキオはそう結論を下した。アイリーンの性格を考えれば誘いにのる可能性は低かった。


(しかもイブだ。いそがしいに決まっている)


 しかしアキオは少しの可能性にかけた。


(でも私のことを想ってくれるなら来てくれるはず)


 アキオはそう思い、川沿いにあるレストランに入った。




「アイリーン?!」


 最初の目的地の古城に向かう途中、信号待ちをしていたマイクロバスの中から、窓の外をきょろきょろ見ていたミヒロはアイリーンの姿を見つけた。


「Aileen!?」


 おば様達の相手をしていたパトリックもミヒロと一緒になって、外を見る。

 少し薄汚れた小さなカフェの外で、丸いテーブルの側にちょこんと座るアイリーンの姿があった。


(伍さんは?!やっぱりだめなの?)


「パトリック、ごめん。私ちょっとアイリーンと話がしたい」

「ミヒロ?」

「だって伍さんがあんなに好きなのに、きっとアイリーンも……」

「Okay, 马先生。麻烦你,请在这里停车(馬さん、悪いけどここで車止めてください)」


パトリックが運転手にそう言うと走り始めたバスが少し先で止まる。


「ありがとう。あとで電話するから」 


 バスのスライドドアが開き、王子の可愛い給仕は小走りに出ていく。王子はその背中を笑顔で見送った後、ドアを閉める。バスはぶうんと排気ガスを出すと走り出した。


「皆さん。スミマセン。ボクのキュウジは用事で行ってシマイマシタ。でも心配シナイデ。ボクが代わりに皆さんのお世話をシマスカラ」


 パトリックはにこっと王子様スマイルを浮かべそう言う。状況がわからず唖然としていたおば様達もその笑顔を見て機嫌を取り戻す。そして車内は再び和やかな雰囲気になり、おば様達は次の目的地の古城について各々(おのおの)語りだした。

 



「アイリーン!」


 おかしな扮装をしたミヒロがふいに現れ、コーヒーを飲んでいたアイリーンは目を見開く。


「what’re you doing here?(ここで何してるの?)」


(やっぱり、怖いかも) 


 その冷たい視線を真っ向から浴び、ミヒロはたじたじになる心に活をいれる。


「Can I talk to you now?(今、話せる?)」

「Okay」


 アイリーンはミヒロの決意にみちた顔を見ると、断る方が面倒だと思い頷いた。


「Go-san came here already. Do you know that?(伍さんがここに来ています。知ってますか?)

「Go-san, I see. Mr. Go……伍先生 (伍さん、ああミスター伍。伍さんね)」


 氷の歌姫は少し考えたそぶりを見せると唇を噛みしめ、つぶやく。


(……この様子、やっぱり何かしら想いがあるんだ)


「He loves you. Why don’t you meet him?(彼はあなたのことを愛してます。どうして会わないんですか?)」


 あまりにも直接的な言い回しだと思ったが、ミヒロは敢えてそう聞いた。間接的な言い方は知らなかったし、外国人相手に遠まわしという言い方が通じないことが分かっていた。


「it's not your business. Stay out of my personal business.(あなたには関係ないでしょ。 私に構わないで)」


アイリーンは殺意が篭っているのではないかと思うほどの視線をミヒロに向ける。


(怖い。でも、でも言わないと)


「Yes It is not my business. But I knew his feeling. So… (はい、私には関係のないことです。でも私は彼の気持ちを知っていて、それで…)」

「I am off to work (仕事に行くから)」


ミヒロの言葉の途中でアイリーンは席を立つ。思わずその手を掴むがぱしっと叩かれる。

くるりと背を向け、アイリーンはミヒロから離れる。去りゆく背中が何もかもを拒絶しているようで、ミヒロはただ見つめることしかできなかった。




「Do you have strong alcohol? 」

「strong alcohol?」


 店員がおかしな顔をしたが、度数の高い酒の意味だとわかり、お酒類のメニューを持ってくる。アキオは度数の高そうなワインをボトルで注文した。

 午後6時になり、アキオはあきらめの思いを強めた。酒でも飲まないとやってられないと酒を飲み始める。


(やっぱりこないか。アイリーン……)


 絶望的な思いを抱えながら、アキオは運ばれてきたワインを店員が開け、グラスに注ごうとするのを止め、そのまま煽った。


(今日はとことん飲んでやる)


 アキオはそう決める、喉を鳴らしてワインを飲み込んだ。




「館林さん!」

「おお、ミヒロか。パトリックも。今日はお疲れ様~」


 ミヒロとパトリックはツアーを終わらせると、運転手に館林が入院する病院まで送ってもらった。ヘルニアとは言え手術のことが気になっていたのだが、元気そうな支社長の姿に安堵する。


「しばらく入院なんですか?」

「うん、3週間ほどな」

「大変ですね」

「そうでもない。大変なのは鈴木のほうだ」

「うーん、そうですね。この際、しばらく長三山さんとパトリックにいてもらったほうがいいかもしれないですね」

「お、それはいい案だな。おやっさんに話してみるか」

「本当ですか?」

「REALLY?」


 パトリックとミヒロが嬉しそうに声を合わせる。実は前回来たときは研修でこの国を楽しむところまでいかなかった。ミヒロとしてはこの国に滞在できることは嬉しいことだった。隣に立つパトリックは寒いのが苦手で、秋になってから寒い寒いといい始め、冬になり完全に会社に行く以外は引きこもりのように家にこもるようになっていた。1月の寒い時期をこの国で過ごせることは彼にとっては嬉しい限りだった。


「鈴木、悪いがおやっさんに連絡しておいてくれないか」

「はい」


 有能な部下は上司の言葉ににこっと微笑む。


(あーお似合いの二人だ。私が相手にされなかったのもわかる気がする)


 ミヒロはユウコを見ながらそう思った。


「ジャ、今日のFlight はドウスル?」

「うーん、南国のクリスマスも楽しそうだけど。一度帰った方がいいかも。だって荷物とか持って来なかったし」

「そうだね」

「そうか。一度帰るか。でも来週年末だからなあ。来るとしても来年か」

「うーん、そうですね」

「頑張りどころですね。ははは」


 ユウコは来週、さ来週、アイリーンと2人で事務所を回すことを考え、内心溜息をつく。しかし日本じゃ年末年始は休みをとる企業が大半で、しょうがないことだと諦める。


「フライトは何時なんだ?」

「えーと、11 時です」

「同じフライトか?」

「はい。伍さんがそう言う風にチケット取ってくれて……ああ、伍さん!!」


(アイリーンと別れた後バタバタしてツアーに戻ったから忘れていた!会えたのかな。やっぱりだめだったのかな?今日の便で帰るんだよね……確かめたほうがいいよね)


「ちょっと電話してきます!」


 ミヒロはそう言うと驚く面々を背に慌てて病室を出ていく。


「ミヒロ!?」

 パトリックは何事かと思いその後追った。


 2人が出て行き、しんと病室が静まり返る。

 ユウコは泊まることも考え、病室を1人部屋に変えてももらった。ユウコは暗くなった外を見つめると窓の側に行き、カーテンを閉める。


「鈴木、本当に泊まってくれるのか?」


 その背中に向かって館林はそう問いかける。


「嫌ですか?」

「嫌じゃない。ありがとう」

「どういたしまして。私も病院で夜を過ごしたことがないのでいい経験になります」

「経験か。俺にとっては辛い経験になりそうだけど」

「どういう意味ですか?」

「いや別に……」


 館林は苦笑しながらそう言い、その茶色の瞳を恋人に向ける


「それより、来年あの2人が戻ってきたら俺の部屋を使ってもらったらいい。俺が病院にいる間、もったいないし、そのほうが経費が節減できて、おやっさんも許可しやすくなるだろう」

「そうですね」

 優秀な部下で恋人はうんうんと頷く。それを見て館林はやはり誰にも渡したくない、ずっと側にいてほしいと願う。

「鈴木……。俺の側にずっといてくれるか?」

「はい、喜んで」

 ユウコはそう言い、やわらかく笑う。


(やはりいい女だ。今まで多くの女と付き合ってきたが、こんな女は他にはいない)


 館林は自分がとても幸せな奴だと思い、ほくそ笑んだ。


「鈴木。キスがしたい。いいか」


 茶色の目がユウコにそう懇願する。


「いいですけど……無理だと思いますよ」


 手術後で動けない館林がキスなんてできるわけがなかった。


「鈴木……」


 わかってるだろうと茶色の瞳がユウコに尋ねる。


「わかりました」


 ユウコは息を小さく吐いた後、少し赤らんだ顔のまま、そっと館林に口付ける。


「!ちょっと」


 深く口付けを返され、ユウコはぎょっとして離れる。


「残念だな。3週間お預けか」


 館林はにやっと笑ってそう言う。


「……本当あなたって人は」


 ユウコはあきれた声でつぶやく。そして一人部屋に変えてもらってよかったな、とほっと胸をなでおろした。


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