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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
大団円番外編ーChristmas Days
45/50

Christmas Eve - December 24 (1 of 3)

 チャララーン


 深夜、携帯電話からメッセージを受け取った音がした。

 アイリーンはベッドから起きると、携帯電話を手に取る。


『我想你,爱你。我要搭飞机去你的国家。明天见(会いたい、愛してる。(今から)飛行機にのって君の国へ向かうから。明日会おう)』


 アキオからのメッセージを読み、アイリーンは顔を強張らせる。


 諦めの悪い、日本人のような中国人のような不思議な男。

 嫌いなのに気になる男だった。


 トマトソースの味わいがする食べ物を口にするたびに男と交わしたキスを思い出した。おかげでここ数週間、トマト系の食べ物は避けていた。


 アイリーンはベッドから体を起こし、唇に触れる。今だになぜキスをしたのかわからなかった。2週間前に友達になり、男は毎日というほどスカイプを使って電話をかけてくる。先週末に会いに来たときはわざと忙しい振りをして時間を作らないようにした。最近は男と会話するのが楽しく思え、男のことを考えるようになった自分が嫌だった。

 アイリーンは携帯電話を枕元に置くと、再びベッドに横になる。

 そして眠ろうと目を閉じた。




 飛行機から降りたミヒロとアキオは税関を抜け、到着ロビーに向かって歩き出す。スーツケースはない。

 手荷物のリュックサックにパスポートを入れ、ロビーに出た時にミヒロは初めてこの国に来た時と同じように、優しい笑みを浮かべる王子様を見つけ、立ちすくんだ。


「やっぱりな」


 アキオはにやっと笑うとぽんとミヒロの頭を優しく撫でる。


「明雄!(Ming Xiong)」


 それを咎めパトリックがアキオを睨みつける。


「怒るなよな。な、ミヒロちゃん、これで誤解は解けただろう?」


 パトリックを見つめ愕然としているミヒロにアキオがそう言う。


「なんで……ここに」


 ミヒロはそれに答えず、ただパトリックに視線を向けている。


「電話したけどデナクテ。オカーサンに電話シタ。それでココニキテルッテ……」

「パトリックの馬鹿!!」


 言葉の途中でミヒロは駆けだすとパトリックを抱きつく。


「ミヒロ……」

「私が浮気なんてするわけないじゃない。馬鹿バカバカ!」

「I’m sorry, but I’m really afraid that someone takes you away (ごめん、でも君が誰かに取られるからもしれないって本当に怖くて)」

「そんなことあるわけないじゃない。私、もうパトリックが帰ってこないかもしれないって思って不安になったんだから!」

「I’ m sorryごめん


 泣きだしてしまった恋人をパトリックは抱きしめると軽いキスを落とす。そしてその頬に流れる涙を拭った。


 早朝にも関わらず多くの人々が到着ロビーで家族や友人、そして恋人たちの再会でにぎわっていた。空港はクリスマスシーズンに合わせて飾りつけが華やかにされ、再会で喜んでいる訪問者達に更なる喜びを与えていた。

 アキオは仲直りした恋人達を見つめながら愛しい女性のことを想った。




「ミヒロ、カワイイ」


 事務所でパトリックは、8カ月前と同じ少年給仕の格好をしたミヒロを嬉しそうに見る。

 空港で再会した2人だったが、今日は最後の王子様ツアーが入っていた。そこでパトリックがミヒロに提案し、ツアーに同行することになった。アキオも誘ったが顔を引きつらせながら断り、ツアーが終わったら連絡するということで空港で別れた。


「やっぱりミヒロはナミさんにニテル……」


 うっとりして自分を見つめるパトリックに多少ひきながらミヒロは鏡の前に立つ。

 茶色の短髪のかつらをかぶり、白いタイツにイギリスの近衛兵の制服を白くしたものを身につけている自分が見える。靴は勿論白いブーツだ。


(前は鏡で見たことなかったけど、確かにアニメのキャラみたい)


 自分の顔がアニメ顔だということが改めてわかり、ミヒロは複雑な心境になる。


「Let's go」


 そんなミヒロに、パトリックはやけテンションが高い様子でそう言い、二人は事務所を出る。

 ビルの下には見覚えのある馬車のような飾りをつけたマイクロバスが待っていた。


「你好!(こんにちは)」

「你好 (こんにちは)」


 二人の挨拶に答えた運転手はむっつりしたような顔をしていたが、その衣装はミヒロ達同様中世ヨーロッパ風だった。


(似合わない。でもここで笑ったらだめだ)


 ミヒロは笑いを堪えて俯く。


「ドウシタノ?」


 すっかり麗しい王子様と化したパトリックは隣に座り、俯いている恋人を心配気に見つめる。


「なんでもない。行こうか」


 顔を上げるとミヒロは王子様に微笑む。パトリックは恋人の元気な笑顔に胸をなでおろし、運転手に声をかけた。


「马先生,请开车吧(馬さん、発車してください)」


それを合図に運転手は何も言わずバスを発車させる。

 突然動き出した衝撃に椅子から落ちそうになり2人は顔を見合わせ笑う。そして、クリスマスイブの王子様ツアーは始まった。




「長三山さんと伍さんが来ましたよ」

「ミヒロと伍さんが?」


 手術を前に病室で館林とユウコはそんな会話をかわす。


「長三山さんが王子様ツアーに同行することを許可しましたが、よかったですか?」

「同行?仲直りしたんだな。ああ、勿論OKだ。以前も同行したことがあるから問題ないだろう。伍さんはどうした?」

「うーん、なんでも南国のクリスマスを散策するとか言って長三山さん達と別れたみたいですけど……」

「……うまくいくかな」

「どうですかね。乙女心は複雑ですから」

「乙女心って、アイリーンに似合わない言葉だな」

「社長、それは失礼です」


 2人はそう言って笑う。


「社長、今日は私、病室に泊まります。特別に許可してもらいました」

「……本当か?」

「はい」


 ユウコはこくんと頷く。

 医者から今日再度説明を受けたところによると今回の手術は前回と違ってレーザーではなく痛みの引き起こす部分を切除、摘出するもので、入院が3週間ほど必要だった。

 前回の手術の時もこうやって手術前に話をしたことを覚えていた。あの時はこんな風に彼のことを愛おしむ気持ちはなかったとユウコは自分の気持ちの変化に驚く。

 館林も同様で、こんな風に自分の側にいてくれる恋人を愛おしく思った。


「Hi, Mr. Tatebayashi. How are you?(はあい、館林さん。元気?)」


 手術前だというのにやけに元気な看護婦が、部屋に入ってきて、窓のカーテンを開けながらそう声をかける。


「Yah, I’m very fine(ああ。とても調子がいい)」


 館林は窓から差し込む光に目を細めながらそう答える。光が隣の恋人を神々しく照らし、そこに天使がいるのではないかと錯覚する。


「鈴木?」

「なんですか?」

「なんでもない」


 看護婦がストレッチャーを運んできて館林の体はベッドから移される。

 手術室に運ばれる前に、ユウコはぎゅっと館林の手を掴んだ。


「社長。私、ここでずっと待ってますから」

「わかってる」


 天使の言葉に館林は微笑む。

 そしてストレッチャーは手術室の中に運ばれ、手術は始まった。 


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