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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
大団円番外編ーChristmas Days
43/50

2 days ago - December 23 (1 of 2)

 今日の王子様は不機嫌だった。おば様達もむっつりとした表情のパトリックに距離を置いている。

 昨晩、ミヒロが木田と一緒にいるとわかり、いてもたってもいられず日本に戻ろうと決めた。そして館林に電話したのだが、支社長の言葉はNOだった。ミヒロの性格を知っている館林はパトリックに勘違いに違いないから、このツアーが終わってから戻るようにときつく止めた。

 このツアーには結構なお金が動いていた。いつもは甘い館林だが、今回だけはパトリックの願いを聞き届けることはできなかった。


「あの王子様?」

「ナンデスカ?」

「お茶をいただきたいのですけど?」

「Okay. Excuse me」


 パトリックは店員を呼びつけると紅茶のお代わりが必要なことを伝える。店員は慌ててキッチンに戻ると変わりのティーポットを持ってくる。静かなお茶会が繰り広げられる。ツアーに付きそう添乗員がこの状況に耐えられず館林に連絡する。


「館林さん。あれはないんじゃないか」


 そう苦情を言われ、館林は慌てて現場に急行する。まさかパトリックはそんな態度を取るとは予想外だった。


「パトリック!」


 現場に着くと、お茶会を終え教会の探索をしているおば様達の側で不機嫌そうな王子を捕まえる。


「どういうつもりだ?」

「ドーユーツモリッテ。Because of you, I want to go back Japan. I don’t want to work (あなたのせいです。ボクは日本に戻りたい、働きたくない)」


 パトリックは子供みたいにそう言い、プイッと顔を背ける。


「パトリック。ミヒロが浮気すると思うのか?たまたま木田が携帯電話を取っただけだと考えられないか?そういう奴なんだろう?」

「ソーデスケド」

「パトリック。俺がミヒロに確認をとってやる。だから仕事はしっかりしろ!じゃないと首にする。そうなるとお前は日本にいられなくなるんだぞ。わかったな?」

「……ワカリマシタ」


 パトリックはむっとした表情を見せ、館林を睨みつけたが、首になると日本に滞在するビザも消えてしまうので不平不満ながら頷いた。

 深呼吸すると表情をいつもの優しげな王子様のものに変える。


「それでいい。自分の彼女を信じろ」


 館林がばしっとパトリックの背中を叩くと教会を後にした。





(爱玲)


 昨日ミヒロを送り届け家に戻ると11時くらいだった。それからパソコンを起動させ、アイリーンを待ったが話すことはできなかった。


(忙しいのか、避けられてるのか)


 アキオはボールペンを掴むとくるくると器用に手の中で回す。


「伍!」


 その様子が仕事をさぼっていると思われ、上司から鋭い声が飛んだ。


「すみません」


(まったくうるさい。だいたいなんで祝日なのに仕事しないといけないんだ!)


 アキオは内心いらだちながらも、腐っても上司、サイドビジネスで暮らせるくらいにはまだ稼げていない今、この仕事を首になるわけにはいかないと愛想笑いを浮かべた。そしてパソコンの画面に目を向ける。

 朝電話があり、緊急に会議をすることになったから出社を命じられ、その会議のための書類作成を上司に押し付けられた。アキオは気づかれないようにため息をつくとマウスを握り締める。

 机の上の書類と画面を見比べながらも、アキオの心はここにはなかった。


(爱玲。你不需要我吗?(アイリーン、君は私を必要としないのか?))


 心の中で彼方の愛しい女に呼び掛ける。しかし答えが返ってくるはずがなかった。




 

「木田さん?!」


 正午近く、がんがんと頭痛を感じながら目を覚ました。そして、昨晩パトリックに電話するのを忘れたことに気が付き、携帯電話を探す。しかし、鞄を探ってもなく、家の電話を使って自分の電話にかけたら、出たのは同僚の木田だった。

 来週まで待つことも考えたが、3日間は長いと思い、木田に取りに行く旨と伝えると会社近くのカフェで受け渡すと答えられ、仕方なくお茶をすることになった。

 ジーンズに、青色な地味なセーターを着る。そしてクローゼットからダッフルコートの取り出し、階段を下りたところで電話が鳴った。


「母さん~~。出て。私、今から出かけるから!」


 ミヒロはそう叫んだが母の反応はなく、仕方なくコートを靴箱の上に置くと、電話を取った。


「館林さん?!」


 電話口の声にミヒロはぎょっとする。それは海外支社長の館林だった。


「おう、ミヒロか。久々だな」


 館林は緊張するミヒロにそう声をかける。


「お久しぶりです。どうしたんですか?」


 携帯電話ならいざしらす、実家にかけてくるとは異常だった。


「どうしたって。携帯にかけても誰もでなかったぞ」

「ああ、携帯は人が預かってるんですよ。昨日飲みすぎて携帯電話を忘れちゃったみたいで」

「それは木田か?」

「な、なんで知ってるんですか?」

「昨日木田がお前の電話にかけてきたパトリックに余計なことを言ったらしい。知ってるか?」

「知りません、そんなの!」


 ミヒロは館林から話を聞き終わり、怒りをたぎらせながら電話を切る。


(信じれらない!なんでそんなことするの?!)


 ミヒロは眩暈がするほど怒り、待ち合わせの場所に向かった。


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