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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
大団円番外編ーChristmas Days
41/50

3 days ago – December 22 (1 of 2)

(今頃、どこに連れて行かれてるんだろう?)


 翌日午後4時半、帰宅時間まであと30分となった。

 本日やるべき仕事を終え、ミヒロはマウスを握り、ぱちぱちと受信メールを確認しながらパトリック のことを想う。

 王子様ツアーとは王子様の扮装をしたパトリックがお姫様であるおば様達を連れ、丘の古城でお茶会を開いたり、スパでくつろいだりするお姫様体験ツアーだった。おば様達の要望で行く先も変えることもできるツアーで、ミヒロはパトリックが今どのへんにいるか見当もつかなかった。


「長三山さーん!」


 本日は来年のツアーの打ち合わせのため事務所に戻ってこないはずの木田の声がして、ミヒロはぎょっとする。しかし振り向かないように心がけ、視線だけを向ける。


「何ですか?」

「あ、警戒してる?いたずらはしないよ。もう。それよりさ、今日夜は暇?」

「暇ですけど。食事とか全然無理ですよ」

「なんで?」

「だって私はパトリックと付き合ってるんですよ!」

「でも昨日別の男と一緒いたのを見たけど?」

「え?!別の男!」


 木田の声に反応して、斜め向かいの席に座る形野ミユキが身を乗り出す。


「長三山さん、浮気?」

「そ、そんなんじゃないです!あの人はパトリックの友達なんです」


(なんでこの人まで)


 二人に興味しんしんの眼差しで見られミヒロはたじろぎながらそう答える。


「本当?」

「信じられないな」

「本当です!」


 ミヒロは必死にそう言い募る。


「だったら証明してくれる?」


 しかし二人の疑惑は晴れることなく、なぜかミヒロは二人にアキオを紹介する羽目になった。





「アイリーン。How do you celebrate Christmas?(どんな風にクリスマスを祝うんだ?)」

「 As usual. (いつも通りです)」


 歌姫ツアーを終わらせたお客を空港まで送り届けたアイリーンは、別のツアーの見送りにきていた館林にタクシーで相乗りして帰ろうと言われ同席していた。館林の車は事務所に止めてあった。


「 Do you celebrate with Mr. Go? (伍さんと一緒に祝うのか?)」


 自分の問いに冷たく答えたアイリーンに館林は意味深に尋ねる。


「 Impossible. Mr. Tatebayashi, please don’t ask me any funny question. (あり得ません。舘林さん、おかしな質問はしないでください)」


 氷の歌姫はぎろりと睨みつけると、窓の外にぷいっと顔を向ける。


(やっぱりアイリーンは、伍さんが気になってるんだよな。あの人のことだから、きっと誘ったに違いない。でもこの調子じゃ断ったんだろうな。好きなのになんで正直にならないんだ)


 館林は窓の外を見つめるアイリーンを横目で見るとため息をつく。


(正直……。そういえばここんとこ鈴木も俺を避けてるような気がするな。嫌われているはずはないのに。なんでだ?)


「Mr. Tatebayashi. See you tomorrow (館林さん、それでは明日)」


 アイリーンの声がふいに聞こえ、顔を上げるとタクシーが彼女の自宅付近で止まっているのがわかった。


「Ah, See you (ああ、明日な)」


 車から降りたアイリーンに館林は慌ててそう言う。そして背中を向けたのを確認すると、ドアを閉めた。タクシーはその背中を見送ることもせず、すぐに発車する。


(いい女だけど、素直じゃない。伍さんも根気強いよな。追いかけるほうが愛は燃えそうだけど。あれじゃなあ……)


 車の窓から小さくなるアイリーンの背中を見て館林はそんなことを思う。


(でも俺も同じようなものか)


 ユウコの最近の距離を置いたような態度を思い出し、館林は自嘲する。


(でもまあ、俺らは付き合ってるから)


 その思いに至り、比べる必要はないのにと館林はさらに皮肉な笑みを浮かべた。

 外を見るとまだ日は暮れていないのに暗くなり始めていた。


(雨が降るか)


 窓にこつんと額を当て黒い雲が立ち込め始めた空を見上げ、館林は息を吐く。

 タクシーは恋人がまだ残業中の事務所にたどり着こうとしていた。


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