外人が苦手な理由
北野カツオは久々に幼馴染長三山ミヒロの家をたずねる。そこには彼女のハンサムな外国人の彼氏がいて…『私の嘘吐きな彼氏』のカツオ視点です。
久々に訪問した幼馴染、長三山ミヒロの家には変な外人がいた。
日本語ぺらぺらなハンサムな外人だ。
黙っていれば日本人に見える、華僑らしい。
ミヒロは俺の顔を見ると久しぶりと笑顔で迎えた。
ミヒロについて家の中に入るとき、なんだか妙な寒気がした。
居間に通され、ソファに座った。
ミヒロはお茶を入れてくると台所にたつ。
俺はその外人と居間で2人きりになり、妙な緊張感を味わった。
「北野クンはミヒロのことを好きナノ?」
「……?!そんなことないですよ!」
一応奴がミヒロの彼氏であることは知ってる。
彼氏がそんなこと聞くかよ?
俺はそんな思いでそう答えた。
「良かった。ボク心配ダッタンダ」
外人はにこやかに笑うとそう言った。
俺の両親がこの外人を怪しんでて、見てこいと俺をこの家に向かわせた。
ミヒロの家はそこそこお金持ちだ。
外人、しかも中華系の奴が狙うのにはちょうどいい家庭だ。
しかも、ミヒロは妙に真面目で、騙されやすい。
初めて彼氏ができたと聞いたとき、びっくりしたの覚えている。
そして次はこの外人だ。
ハンサムだ。
しかし、正体不明。
いきなり家に転がり込んだらしい。
まあ、海外研修先で一緒だったとか聞いたが…
『カツオ、ケンジロウは騙されやすいから、その外人がまともな奴か探って来い』
親父は俺の目をじっと見てそう言った。
俺はミヒロを待ちながら外人を観察する。
外人は俺の視線をにこやかに笑顔で返している。
実を言うと、俺はミヒロに恋のような感情を抱いたこともあった。
だから彼氏が出来たと聞いて驚いた。まさか海外に行って外人を連れて帰ってくるとは思わなかった。
奴は見た目はとても紳士的だ。でも、金目当ての可能性もある。
俺は奴の様子をしばらく見ることに決めた。
1週間後、俺は奴がツアーガイドの仕事で出張だと聞いて、ミヒロの家を訪ねた。
ミヒロに奴のことを確かめようと思った。
「パトリック?疑ってるの?まあ、確かに計算高いけど」
ミヒロはくすっと笑って俺にそう答えた。
「計算高いって?」
「うーん、深くはいえないけど。心配しないで。そんな人じゃないから」
俺はミヒロにそう言われ、それ以上追求するのをやめた。
ある日の夕方、街を歩いていると奴を見た。
楽しそうに女子と話している。
やっぱりそういう奴か!
俺は奴の腕を掴むと、喫茶店に入った。
「どういうことだ?」
「ドウイウコトッテ?」
「一緒に話していた子はだれだ?」
「アア、バイト先のコデス。アナタに話す理由はナイトオモイケド」
奴はいつもの穏やかな顔を冷ややかなものに変えて、俺にそう言った。
怪しい。
こいつは何か隠してる。
「お前、ミヒロを騙してるだろ?金か?」
「ひどいことイイマスネ」
「だって、おかしいだろう?お前はミヒロの彼氏だ。なんで他の子と」
「None of your Business」
奴は冷たい声でそう言うと、千円札を一枚机の上に叩きつけて、店を出て行った。
ナン、オブ、ユア、ブジネス??
お前に関係ないって奴か!
あいつは絶対に怪しい。
ミヒロは騙されている。
俺は店からミヒロに電話を掛けた。
しかし、ミヒロが電話を出ることはなかった。
「ミヒロ、ちょっといいか?」
翌日、俺はミヒロの会社に出かけた。
そしてミヒロを呼び出す。
社内にいたあいつがじろっと俺を見るのをわかったがどうでもよかった。
「何?忙しいんだけど?」
ミヒロはすこし迷惑そうにそう聞いた。
「お前、あいつに騙されているぞ」
「あいつ?ああ、パトリック?まあ、確かにそうかもしれない。でもいいの。それで」
「ああ?!それでいいのか?奴は他の女と二股してるんだぜ?」
「二股?!嘘!」
「本当だ。俺は昨日みたぞ。奴がかわいい女子と2人で話してるの!」
「………」
「ミヒロ?」
俺は言ってしまったことを後悔した。
ミヒロは顔色を変えるとじゃあねと俺に背を向けて、事務所に戻っていった。
それから1週間後、奴と別れたと思って家に行くと、奴はまだそこにいた。
「なんで?」
「勘違いだったのよ。あれはパトリックの秘密のバイト。ねえ。なんでパトリックは説明しなかったの?」
「え、ああ、時間がなかったンダヨ」
奴は俺ににこやかな笑みを浮かべてそう答えた。
「ミヒロ、ボク、コーヒーが飲みたい。作ってもらってもイイ?」
奴はふいにそう言った。
ミヒロに作ってもらおうなんて、なんて図々しい外人だ。
「いいけど。カツオも飲む?」
ミヒロは慣れているのかそう答え、俺に顔を向ける。
「ああ。俺は…」
「北野クン、ミヒロのコーヒーはおいしいヨ。飲んでみて」
奴がそう言ったので断れなくなり、俺もミヒロにコーヒーを作ってもらうことになった。
バシッツ。
ミヒロが台所に消えたとたん、ふいに体が宙に浮いて、背後が壁になっていた。
「?」
気がつくと奴が俺の胸倉を掴み、壁に俺の体を打ち付けていた。
「Kitano-kun, If you disturb us again, I will kill you. Do you understand?」
奴は恐ろしく冷たい声で、射殺しそうな目で俺を見ていた。
俺は奴に言われた英語を頭の中で繰り返し、意味を消化すると頷いた。
そうすると奴はにこっと笑って俺を床に降ろす。
「カツオ~。ミルクと砂糖どうする?」
床に力なく座り込む俺にミヒロの暢気な声が届いた。
「北野クンはblackダヨネ」
奴は美しい笑顔を俺に向けてそう聞く。
俺はこくんと頷いた。
「ミヒロ、he will drink a coffee without sugar and milk」
奴は台所のミヒロに俺の代わりに答える。そうすると台所からOKっと返事が返ってきた。
その後、俺はミヒロの作ってくれたほろ苦いコーヒーを飲むと、静かに家を出た。
俺は奴の氷のような瞳が忘れられなかった。
幼馴染よりも命のほうが大切だった。
ミヒロよ。
しがない幼馴染を許してくれ。
俺はそれっきり、ミヒロの家を訪ねることはなかった。
外人は怖い、
俺は奴のおかげでますます外人が苦手になった。