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私の嘘吐きな彼氏3

 その日から、パトリックはいなくなった。


 でも仕事には来ていた。


 どこに泊まっているのかわからなかった。

 そのアルバイトの女の子……?


 私は聞けなかった。

 出て行ってと言ったのは私だった。


 そうして3日が過ぎた。


「ミヒロちゃん」


 ふと喫茶店で1人でご飯食べていると声をかけられた。


「伍さん」


 私はそれが伍さんであることに驚き、逃げ出したくなった。

 この人と話すのはなんだか苦手だった。


「君の彼氏、今私のところにいるんだけど」

「?!」

「実は困ってるんだよね。本来ならバイトの人とは関わらないつもりだったんだけど。お客と問題起こして……仲介に入ったら。帰るところがないとか、今まで働いたお金を渡せとか言うし」


 どういうこと?


 私は愕然として伍さんを見てると彼は笑った。


「パトリックが君の彼氏だとわかったのは最近だ。日本語も話すし、英語も話す。中国語もだ。いいバイトだなと思ってたら、君の彼氏だったから驚いた。同じビルなのになんでわからなかったんだろうね。どうやら今彼はお金に困ってるらしいね。私が立て替えてあげようか?そしたら彼もバイトをやめれるし。君ともよりを戻せるだろ?」

「……なんでそんなこと」

「パトリックはお酒に弱いみたいだよね。なんかやけ酒して結構いろんことを話してくれたよ」


 伍さんは私の隣の席にすわり、私を見つめた。


「でも助けるには条件がある。私と付き合ってもらおう。君みたいな日本人はめずらしい。一度付き合ってみたいんだ。何もずっとと言ってるわけじゃない」

「……付き合うってどういう意味ですか?」


 私は隣に座った伍さんから少し距離を置くとそう聞く。


「そういう意味だよ。わかるだろう?」


 伍さんはそう言うとくすっと笑い、私の髪に触れる。

 私の顔が少し赤らむのがわかった。


「そういうところ可愛いよね。パトリックがうらやましい。さあ、ミヒロちゃん、どうする?」


 至近距離から顔を覗きこまれ、私は伍さんの瞳をまじまじと見つめる。


 感情が読めない色だった。

 真っ黒で何も映していないような瞳。

 パトリックとは同じようで違った。


 でも私がこの人と一時期付き合えば、パトリックはバイトをやめられる。


「……わかりました。いいです」

「よかった。じゃ、今日からはじめよう。パトリックには女の子と会わないようにしておくよ。君との情事が終わったらパトリックを家に返してあげよう」


 伍さんは私の頬に軽く触れる様なキスをすると席から腰を上げる。


「今夜は一緒に夕飯を食べよう。6時に電話して」


 伍さんは私の手に名刺を握らせると、席を離れ店を出て行った。



 その後、パトリックが家を出て行き意気消沈してる母に電話をかけ、夕食を外で済ませることを伝えた。そして午後6時、誰もいない事務所で伍さんに電話をする。パトリックや社長はすでに帰った後だった。

 呼び出し音が何度か鳴り、伍さんが電話に出た。


「じゃ、ビルのロビーに6時半ね」


 伍さんがそう言い、私達は6時半にロビーで会うことになった。


 ロビーで待ってると伍さんが降りてきて私を車でホテルのレストランに連れて行った。おいしいはずの食事はなんだか味気のないもので、無理やり食べた。


「さあ、行こうか」


 伍さんは私の肩に手を掛けると会計を済ませ、部屋に向かうため、レストランを出た。


 嫌な気持ちだった。

 でも数日の我慢だ。


 そうすれば全てかたがつく。


 そう思って伍さんとともにエレベーターに乗ろうとした時、がしっと腕を掴まれた。


「ミヒロ!伍明雄!(Wu Ming Xiongウーミンシュン!)」


 それはパトリックだった。


「ああ、見つかっちゃったか」


 伍さんは大して驚いた様子もみせず、そう言った。


「为什么,为什么你做这样!(なんで、なんでこんなことを!)」]


 パトリックは鬼のような形相をして伍さんを睨みつけた。しかし伍さんは、にやっと笑い口を開く。


「因为我跟你玩儿,很有意思吗?(だって君と遊びたかった、面白かっただろう?)」

「我要打死你!(殴り殺してやる!)」


 パトリックは伍さんの言葉を聞くと、ぷつんと糸が切れたようにそう言い、伍さんに殴りかかった。


「パトリック!你停一下。就开玩笑啊 (やめろ!ちょっとした冗談だ!)」

「It is not funny! (笑い事じゃない)」


 2人が揉み合い、ホテルの警備員が止めに入る。そして派出所に連れて行かれ、警察官から説教をくらい、私達が解放されたのは夜も11時すぎたころだった。


「2人ともどういうことか説明してくれないかしら」


 怒りが頂点に達していた私は顔をぴくぴくさせてそう聞いた。


 警察官からの事情聴取などで私は2人が結構前からの知り合いだということがわかった。

 どうもパトリックの彼女である私がどういう人が知りたかったらしい。

 そしてその私にちょっかい出したらパトリックがどう反応するか知りたかったという理由で私を誘ったらしい。


 お金が必要になった時も、彼に相談したらバイトの話を持ちかけられということだった。


 なんだか私だけがカヤの外にいたみたいで、かなり頭にくる話だった。

 しかも私を使って遊んでいたという事実が許せなかった。


 パトリックも結構変わった人だと思ったけど、この伍さんはさらに上手だ。


「ミヒロちゃん、実はこいつセックスまではしてないんだ。それだけは嫌だというからさ」


 私は生生しい言葉に自分の顔が赤くなるのがわかった。


「かわいいなあ。ミヒロちゃん。今時の日本人にはめずらしいんじゃない?やっぱり私と付き合う?お金あるし、どう?」

「 明雄(Ming Xiong ミンシュン)!」


 夜の公園で口説かれ戸惑う私と伍さんの間に立ち、パトリックがその名を呼ぶ。

 伍さんとパトリックは中国語でやりとりしていた。やはりパトリックは日本語よりも英語と中国語のほうが話しやすいので、英語が苦手な伍さんとは中国語で会話しているようだった。

 

 うーん。なんか、こんな風に余裕がないパトリックみたのは久々だ。

 やっぱり伍さんが上手ってこと?


 私は伍さんを睨みつけるパトリックを見ながらそんなことを思った。


「そうそう。ミヒロちゃん。お金こいつに全部渡したから。もうこいつは自由だ。でも問題はこいつの親父だな。またお金がなくなるとせっつきに来そうだ」


 伍さんの言葉に私は頷いた。


 パトリックは過去に何度も義理のお父さんからお金をせっつかれている。

 今回渡してもまた来るのは当然だと思った。


 そんなことを思う私の隣でパトリックは眉をひそめて苦しげな表情を見せる。


 義理とは言え、お父さんだもんね。

 断れないんだ。


 でもその度にへんなバイトするのは嫌だな。


「そうだ。私の知り合いに弁護士がいるから、お金渡すときに一緒に連れて行けばいい。これで最後と言うのは一筆書かせて署名させるんだ」

「…ショメイ…サイゴ…」

「他是你的爸爸。但是你已经对他太好了。(彼は君の父親だけど、もう十分だろう?)」


 戸惑うパトリックに伍さんはそう言って肩を叩く。

 私のその様子になんだか館林さんを思い出した。


 やっぱりパトリックにはこういうタイプの友人が必要なんだと感じた。


「よし。これで問題解決だな。ああ、今日から私はゆっくりと家でできそうだ。パトリック、今天你跟她一起回家吧。你明天拿你的东西回去。可以吗?(今日は彼女と家に一緒に帰ろよ。明日荷物を取りにきたらいい、いいだろう?)」

「可以 (いいよ)」

「じゃ、そういうことで。ミヒロちゃん、パトリックに飽きたら私のとこにいつもで電話してもいいから。それじゃ」

「明雄(Ming Xiong ミンシュン)!」


いたずらな笑みを浮かべてそう言う伍さんにパトリックは怒鳴り返す。伍さんはそれを背中で聞き流し、私達に手をふると賑やかな街に消えていった。


「Do you disappoint me?(がっかりした?)」


 伍さんの背中が完全に消え、パトリックは私にそう聞く。


「NO なんかますます好きになった」


 私は何も考えずそう答えた。


「マスマス?」


 パトリックはにやっと笑ってそう言い返したので私は自分が言った事を後悔した。


 ああ、好きとかLOVEとか絶対に言わないつもりだったのに!


「Don't be upset. I’d already know you love me so much!(そんな動揺しないで。ボクは君がボクのことすごく愛してることすでに知ってるから)」

「ソーマッチ?そんなわけないでしょ。好きなのは認めるけどソーマッチはなし!」


私は必死にそう言ったがパトリックは嬉しそうに笑って聞く耳を持たなかった。


「ミヒロ。ボク嬉しいデス。キスしていい?」


 ふいにパトリックに手を掴まれ引き寄せられる。そして耳元でささやかれ、私は眩暈がするのがわかった。


 こういう時は日本語なんだよね。

 なんか卑怯だ!


「NO」


 私はそう答えるとパトリックの腕から逃げる。


 夜の街の中で私達は歳外もなく子供のようにはしゃぎながら家まで帰った。



 2日後、パトリックは伍さんと伍さんの友人の弁護士を連れ、お父さんと会ったらしい。私は行かない方がいいと連れて行ってもらえなかった。

 

 帰ってきたパトリックは元気なかったけど、すこしほっとしたような顔をしていた。


「ミヒロ。これからもここにイテモイイ?」


 その夜部屋に入ってきたパトリックはベッドの私の横で猫のように体を丸めていた。私はその髪を撫でながら答える。


「…Of course (もちろんよ)」


 私の答えにパトリックはふわりと笑う。


「Thank you so much…. I love you…(ありがとう。君を愛してる)」


 そしていつものようにそうつぶやくと目を閉じた。しばらくして寝息を聞こえ、私はパトリックの頬にキスをした。


「…I love you,too (私も愛してるから)」


 私の告白に一瞬パトリックの口元に笑みが浮かんだような気がしたが、眠たくてそのまま私は何も考えず眠気に身を宿した。



「ミヒロ。昨日、I love youってイッタヨネ?」

「!?」


 やっぱり起きてたの?!


 会社に向かう途中、パトリックにそう言われ、私はまた後悔した。

 何か弱みを握られたような気がした。


「ツギはI can't live without youって言ワセルカラ」

「……あり得ないから」

「sure?(そう?))」

「Sure!(そうよ!)」


 私達はそう言い合いながら電車に乗り込む。

 電車は今日も混みこみだ。


 パトリックは私を守るように腕をつっぱねて壁に立ってくれた。


 ああ、だめだ。

 日増しに好きになっていく。


 パトリックは私のそんな思いに気づいているようでにこっと笑った。


 でも絶対に I can't live without you なんて、死んでもいわないから。


 私はそう新たな決意を胸に顔を上げる。


 電車の窓から見える空は澄み切った青色で、私はパトリックと出会ったあの国の空を思い出した。

 


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