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私の嘘吐きな彼氏2

 翌日、パトリックは用事があると早く家を出た。

 私が会社に到着しても彼は来ておらず、10時過ぎたあたりにすみませんと出社してきた。


「どうしたの?」

「トモダチと会ってて」


 お昼休み、いつも通り会社近くの公園で母が作ってくれたお弁当を広げて一緒に食べる。

 パトリックは、心ここにあらずと言う感じでご飯を食べていた。


 おかしい……


「友達って、日本に知り合いいたっけ?」

「Of course. I have Japanese friend. But this friend is not Japanese. He came here for trip (もちろん。ボクにも日本人の友達がいるよ。でもこの友達は日本人じゃないけど。彼は旅行できたんだ)」

 

 HE……

 男……


 うわ。私、友達が男でほっとしてる。

 やっぱりパトリックのことが好きなんだ。

 私は自分の気持ちを再確認したが、それを彼に伝えることはなかった。


「Are you OK? (大丈夫?)」

「Yah, don’t worry (ああ、心配しないで)」


 私の言葉にパトリックは柔らかく笑った。



 その日から彼は夜は用事があると、帰りが遅くなった。

 私は友達と会うんだろうと思い追及しなかった。

 ただ母が大丈夫かなと心配してた。


 HEって言ってた。

 男の友達。

 でもなんで、あんなに辛そうなんだろう?


 そんなある日の夜、コンコンとドアが叩かれた。


「ミヒロ。Please let me in (お願い、中にいれて)」


 パトリックの切羽詰まった声が聞こえて、私はドアを開く。すると青ざめた顔の彼が部屋に入ってきた。そしてベッドに腰掛ける。


「どうしたの?」


 私は心配になってその隣に座り、背中に触れた。パトリックはびくっと震えると私にもたれかかってきた。


「ちょっと重い」


 私はその重さに耐えきれずパタンとベッドに倒れ込む。彼は私の胸に顔を押し付けた。


「パトリック!」

「Sorry」


 パトリックはそう言うだけで体を動かそうとしなかった。私はとりあえずくすぐったい思いとその重さに苦しみながらもパトリックを包むように抱いた。


「Mihiro, I love you (ミヒロ。ボクは君を愛している)」


 パトリックはそうつぶやくと、私の手を握りしめた。



「あ、カツオから電話入ってたんだ」


 翌朝、会社に行く途中の電車の中で携帯の着信に気がついた。

 

 もう仕事行ってるよね。

 今日の夜でもかけ直そう。


 私はそう決めると携帯電話を鞄に入れ直した。


「ミヒロ」


 いつも通りパトリックが遅刻し、11時を過ぎたあたり、突然カツオが会社に現れた。


「ちょっといいか?」


 カツオは真剣な顔をしてそう聞いた。

 用事ってなんだろうと思いながら、私は溜まっている仕事を思い溜息をつく。しかしカツオの表情を見て、頷いた。


「何?忙しいんだけど?」


 会社近くの公園にきて、私は単刀直入そう聞く。

 多分嫌そうな顔をしてたと思う。カツオは人のいい幼馴染だが、ちょっと熱血すぎて疲れることが多かった。


「お前、あいつに騙されているぞ」


 また?


 私はカツオの言葉にますます自分の顔が嫌そうな顔になるのがわかった。


「あいつ?ああ、パトリック?まあ、確かにそうかもしれない。でもいいの。それで」


 私はカツオから何も聞きたくなくてそう答えた。パトリックは多分計算半分で私と付き合い始めたような気がしていたが、昨日の様子といい、私のことを特別に思っているのは確かだった。

 カツオから彼の悪口を聞くのはいやだった。


「ああ?!それでいいのか?奴は他の女と二股してるんだぜ?」

「二股?!嘘!」


 カツオの思っていない言葉に私の頭の中が真っ白になる。


 もてるのは知っていた。

 でも二股なんて許せなかった。 


「本当だ。俺は昨日見たぞ。奴がかわいい女子と2人で話してるの!」


 かわいい女子?

 2人?

 だから最近夜が遅いんだ。

 友達って男じゃないんだ!

 昨日はなんだったのよ!


「ミヒロ?」


 私は怒りで頭がいっぱいになった。

 裏切られたのが悔しかった。

 きっと本命はその友達で私は日本で暮らすためのヒモ?


 許せない。


「ありがとう。じゃあね」


 私はカツオにそう言うと、真相を確かめるために会社に戻った。


 


「ミヒロ?」

「北山社長、すみません。今日は早めの昼食をとります!」

「ん?ああ」


 社長は私の形相に驚いたような顔をしたが、とりあえずそう返事を返してくれた。私は戸惑うパトリックの腕を掴むとぐいぐいと会社の外に連れ出した。


「ミヒロ?」


 いつもお昼を食べる公園に来て、私は目を閉じて、息を整える。


「パトリック。昨日の夜。女の子と一緒にいたって?やっぱり私のことは単なる宿扱い?」

「ヤドアツカイ?What do you mean?(どういう意味?)」


 パトリックは顔を引きつらせて私を見る。

 こういうときだけ日本語がわからないふりをするパトリックは嫌いだった。

 いつも都合のいいときだけ、日本語使う。

 そして都合が悪いと日本語をわからないふりをする。


 わかってるくせに。

 全部わかってるくせに。


 私はパトリックを睨みつけると叫んだ。


「I'm not stupid.! (私は馬鹿じゃない!) どういうことか説明して!」

「セツメイ?Kitano-kun told you something? (北野クンが何か君に話したの?). 」


 パトリックはすこし怒ったような顔をしていた。


「そうよ。一緒にいた子は誰?友達?」


 私の質問に彼は眉をひそめた後、視線を逸らした。


「I can't explain now.(今は説明できない)」


 そして苦しげにそう答える。


「……だったらいい!I don’t need any excuse! (言い訳は何も必要ないから!)」

「ミヒロ!」


 公園から逃げ出した私をパトリックが呼びとめる。

 でも私はそのまま走った。


 昼は社長に連絡して、休みを取った。

 パトリックと顔を合わせたくなかった。


 かといって家に帰ってもパトリックのことを親に聞かれるのが面倒だった。


 喫茶店でコーヒーでも飲もう。


 私はそう思って、お店に入った。


 お昼すぎだったから、混んでいたけどなんとか座れた。

 私はコーヒーだけを頼むと、窓から外を見た。

 そして通り過ぎる人々をぼんやりと眺める。


 お昼休みがもう終わるのか、足早に皆会社に戻っていくようだった。

 その中で、ふと通り過ぎる人の一人が立ち止まり、私に視線を向けた。


 誰だろう?

 私は名前を思い出せず、その人の顔をじっと見てしまった。

 するとその人はにこっと笑うと窓に近づいてきた。


「一緒にいいですか」


 そんな風なゼスチャーを窓越しにされ、私はなんと答えていいかわからなかった。

 しかしその人は私の返事を確認することもなく、店に入ってきた。


「ミヒロちゃん、今日は会社休み?私も昼から休みなんだ。一緒にコーヒー飲んでもいい?」


 そう言われて私はその人が誰だかわかった。

 伍さんだ。

 そういえば同じビルだったっけ?


 私が何も答えないでいるのに、伍さんは向かいの席に座り、コーヒーを頼む。


「……困ります」

「どうして?一緒にコーヒー飲むだけだよ」

「でも……」

「彼氏が怒る?でも喧嘩したみたいだけど」

「!?」

「図星?私はこう見えても結構勘が鋭いんだ。私でよければ相談に乗るけど」

「……必要ないです。これは私と彼の問題なんで」

「そう?残念。こういうときに点数稼ごうと思ったのに。ミヒロちゃん、本当に困ったら私に電話してもいいから」


 伍さんはそう言うと私に名刺を渡す。

 それは以前もらった名刺と違うものだった。

 ハッピーコネクションと書かれた名刺に彼の名前と携帯番号が書かれていた。


「私のサイドビジネスなんだ。中国人男性、女性と知り合いになりたい日本人に美しい中国人を紹介してる」

「?!」

「変な商売じゃないよ。真面目な出会いの場を提供してる」

「でもそれって……結婚詐欺とかそういうものに」

「たまにはね。でもそういう用途でしてるわけじゃないんだ。それ目的じゃ、つかまっちゃうしね。私はちゃんと恋愛の場を提供した上で結婚までいけるようにお手伝いしてる」


 私は伍さんの話をなんだか不思議な世界の話のような気持ちで聞いていた。

 彼はそういうけど、結婚詐欺の斡旋のようにしか思えなかった。


「ま、君と彼氏はちゃんと恋愛してるみたいだけど。中国経済はよくなったとはいえ、未だに日本にきて働きたいという中国人が多い。そして永住権、国籍目的で結婚する人も多いから」

「!パトリックはそういう人じゃありません!」

「そうか、ごめん」


 伍さんは私の剣幕に驚きそう謝った。


 パトリックはそんなことない。

 そんな目的で私に近づいたんじゃないはず!


 私は泣きそうになり、唇を噛んだ。


「失礼します」


 私は千円札を財布から取り出し、机の上に置くと、席を立つ。


「ミヒロちゃん!」


 伍さんがそう呼ぶのがわかったけど、私はそのまま喫茶店を出た。


 なんだか自分が惨めだった。

 やっぱりパトリックに騙されているんだと思う気持ちが高まり、涙が出てきた。


 私はデパートのトイレに駆け込むと声を出して泣いた。


「お帰り~。今日は早かったのね」


 午後5時、結局行くところがなく家に戻った。

 パトリックはまだ帰ってきてないようだった。


「ミヒロ、今日はパトちゃんの好きな親子丼よ。今日はパトちゃん、何時くらいに帰ってくるの?」

「……知らない」


 私は母に冷たく答えると部屋に向かった。そしてドアを開け、服を着替えることもなく、ベッドに体を投げ出す。


 なぜかすごく疲れていた。


 ふと優しい手触りを感じ、目を覚ました。

 するとそこにパトリックがいて、ぎょっとして体を起す。


「……なんで勝手に!」

「声カケタケド。Here is your dinner(これ君の夕食)」

「……ありがとう」


 私はとりあえずそうお礼を言った。パトリックは椅子に座り私をじっと見ていた。


「食べないの?」

「後で食べる」

「I see. Are you still angry with me? (そう。まだボクのこと怒ってる?)」

「……」


 怒ってるっていうか、悲しかった。

 それを彼に説明するのも嫌だった。

 パトリックはそんな私を見ると、大きく息を吐いた。そして苦しげに天井を見上げる。


「Actually I don’t want to tell you about my personal problem. But it is better to tell you….(本当は君にボクの問題を話したくなかった。でも話したほうが言いみたいだから…)」


 パトリックはそう口に出すと、彼のことを話し始めた。



「But I don’t mean to ask your help. I don’t need your help. I just let you know I don’t lie to you. (でもボクは君に助けてもらおうとは思っていない。君の助けは必要ない。ただ君にボクが嘘をついてないと知らせたかった)」


 話を終え、パトリックはそう言うと自虐的に笑った。


 私は聞かされた話を頭で反復する。

 それはパトリックの故郷の話だった。

 義理のお父さんが彼にお金を要求している。


 パトリックが両親の話をしたことがなかったし、故郷のことも語ることがなかったので

聞くことはなかった。


 いつか話してくれると思っていた。


 でもこんな形で知るとは思わなかった。


「いくらなの?」

「I don’t tell you. Don’t worry. I can earn by doing my part time job. It is enough to pay him (話さない。心配しないで。アルバイトで稼ぐから。それで十分彼に払うことができるから)」

「私が代わりに払うって言ったら」

「I don’t want it. (ボクが嫌だ)これはボクの問題だから。君はボクのカノジョだ。宿じゃない」

「宿……」


 私はふと昼間、パトリックに言った言葉を思い出す。


「でもそのバイトって…」

「あと1週間で終わるカラ」

「1週間……それはどこまでなの?」

「ドコマデ……I don’t want to tell you. You may stop me if I tell you.(言いたくない。言うときっと止めるから)」


 パトリックはそう言うと部屋を出て行こうと、椅子から腰を上げる。


「嫌。私は嫌。だったら私があなたを雇う。それならいいでしょ?」

「ヤトウ?」

「私と契約して。その分払うから」

「イヤだ。I don’t want to get money from you (君からお金を貰いたくない)」

「だったら家を出て行って。他の子を抱いた手で触れられるのは嫌だから」

「……OK.」


 パトリックはそう言うと私に背を向けた。そして静かに部屋を出て行った。


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