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私の嘘吐きな彼氏1

ミヒロとパトリックのその後の話。

 うちには中華系の外国人が住んでいる。

 そしてその外国人は一応彼氏だ。

 海外研修で知り合って、付き合うことになった。

 彼は王子様のような外見で優しいし、穏やかだ。

 しかし、私はそれが彼の本当の姿じゃないこと知っている。


 幼馴染は私が騙されていると思っているようだ。

 私もたまにそう思う。

 でも、楽しいし、いいかなと思っていた。



「このトンカツ。おいしいデスネ!」

「パトちゃん、気に入ってくれた?よかったわ」


 食卓で繰り広げられるいつもの会話。

 パトリックはアニメ以外にも日本食も大好きらしい。


 自国じゃ高いから食べられなかったからと、パトリックが笑うとうちの両親はそれはそれは日本にきてよかったねと言って笑った。


 うちの両親はパトリックのあの外見とあの日本語に騙されている。


 海外研修に行くまでは『外人に気をつけるのよ!』などと言っていた母親も、パトリックの外見と物腰にいまや、外国人もいいわねなどと言っている。


 本当のパトリックは違うのに……


「ミヒロ?Can I come in? (中に入ってもいい?)」


 食後、音楽を聞きながら雑誌を読んでいると、ドアがノックされた。拒否する理由もないので、私はドアを開ける。

 お風呂上りにパトリックが部屋に入ってきた。


 そう。これが本当の彼。

 英語を話す時が彼の本当の姿が出てくる。

 計算高くてちょっとミステリアスな彼。


「何シテルノ?」

「雑誌読んでるの」

「I see (ふーん)」


 パトリックはそうつぶやくとベッドでごろごろしている私の隣に座り、私の髪を撫でる。


「ちょっと、パトリック!」

「Don’t worry. I don’t bother you (心配しないで。君の邪魔はしないから)」


 パトリックはそう言ったが、どきどきしてきて雑誌を読むどころじゃなかった。


「Do you miss me? (ボクが恋しい?)」


 パトリックは私の髪を撫でながら、私と見つめる。

 やっぱり日本語を話すパトリックは偽者だ。他の人の前で見せる無害な王子様キャラとはまったく違う。


「全然。1週間楽しんでね」


 私はパトリックの手から逃れると体を起こす。


「素直ジャナイヨネ。ミヒロワ」


 パトリックはくすっと笑うと私に手を振り部屋を出て行った。


 私には決めていることがある。

 それはI love youとパトリックに言わないこと。


 一応付き合っているけど、私は自分がパトリックに溺れているような女になりたくない。


 なったらこの関係が別の形になりそうで嫌だった。


「イッテキマス」


 翌朝、パトリックはそう言って出かけた。

 今日から中国の旅行者の団体に1週間同行することになっていた。

 お寺や庭園などを巡り、ショッピングも付き合わされるらしい。


 だから私はパトリックと暮らすようになってめずらく、1人で会社に行くことになった。


「おはようございます」


 出社すると北山社長が壁に飾ったアロハシャツをしみじみ見ていた。


「おはよう。今日は1人か。さびしいか?」


 社長は私が早めに事務所に入ってきたことに少し驚いたような顔して振り向いた後、にやっと笑ってそう言った。


「全然です。今日はおかげ様で久々に友達と飲みに行けます」


 私がそう答えても社長はそのにやにや顔を変えることはなかった。


 これだから、社内恋愛とか嫌だ。

 社内でもパトリックと私の仲は公認だ。

 一緒に暮らしているし、しょうがないと思う。


 でもやっぱり嫌だな。 

 私はそう思いながら仕事をこなし、友達との飲み会に参加した。


「……これって合コン?」

「……ごめん」


 飲み会の場所に行くと、男女が同じ比率でその場にいて、私はびっくりした。

 それもそのはず、友達のミエコは最初からそのつもりだったらしい。


「だって言ったら来なかったでしょ?」

「そうだけど……」

「単に座っているだけでいいから。ね?」


 ミエコにそう言われ、私はとりあえずその場から帰ることをやめ、静かにお酒を飲むことにした。


「ここ座っていい?」


 盛り上がってきた飲み会から退散したいと端っこで飲んでいたら、1人の男の人が近づいてきた。


「……いいですけど」


 私はとりあえずそう答えた。


「ミヒロちゃんは彼氏いるの?」

「……ええ」


 ここで嘘をついちゃいけないと思い、私は素直にそう答えた。


「そうか、残念。そういえば、旅行代理店に勤めているって言ってたけど、名刺とか今持ってる?」

「はい」

「もらえる?」

「はい」 


 私は鞄の中から名刺入れを取り出し、名刺を渡す。その人は私の名刺を見た後に目を細めた。


「田山ビル?同じビルだ。やっぱり。君のことどこかで見たことあるって思ったんだ」

「そうなんですか?」


 私はその人から受け取った名刺に目を落とす。そして同じビルの名前を確認して驚く。


 そんな偶然あるんだ。


「私の名前はアキオ。今度一緒にお昼でも食べようよ」

?」

「めずらしい苗字だろう。私の両親が元中国人なんだ。でも私は日本で生まれ育ってるから100%日本人だけどね」


 伍さんは、にこっと笑うとそう言った。



 結局、伍さんに彼氏であるパトリックのことを聞かれ、簡単にパトリックのことを話した。話しながら私も彼のことをよくわかってないなと思った。


「ミヒロ!」


 家に帰ると母がちょっと怒ったような顔をしていた。


「こんな遅くまで何してたの?」

「……何って……」


 パトリックの大ファンの母は娘が飲み会に参加して遅く帰ってきたのが気にくわなかったらしく、すこし怒った様子でそう聞いてきた。


「いや、飲み会。久々だったから遅くなったけど」

「パトちゃんは知ってるの?」

「うん……まあ」


 私は曖昧に答えると耳を押さえて部屋に戻った。

 パトリックにはとりあえずメールで飲み会に参加するからと伝えてあった。 

 それに関して返信はOKだけ。

 

 怒ってるのかな?

 まさかね。


 3日間後、伍さんからお昼の誘いがあった。

 私はとりあえず丁重にお断りした。


 

 一応彼氏のいる身、異性と2人でご飯を食べるのはどうかと思ったからだ。



 仕事帰り家でのんびりしてたら、幼馴染のカツオがたずねてきた。彼は何かと熱い人でよく心配してくれる幼馴染だった。


 カツオはパトリックのことを疑っているらしく私にいろいろ聞いてきた。

 確かに純粋に恋愛感情だけで付き合っている気はしなかったけど、好かれてるとは思っているので大丈夫と答えておいた。


 カツオは心配そうだったけど、そのまま帰っていった。



 そうして、日曜日が来てパトリックがツアーから帰ってきた。


「お帰り~」


 パトリックの大ファンの母は嬉しそうにパトリックを迎える。


「タダイマデス」


 パトリックは母にそう答えると私に笑いかけた。


「お帰り」


 私は1週間ぶりにパトリックの顔を見て変わらぬハンサム顔に顔を赤くしながらそう答えた。


 やっぱり、いつ見てもハンサムだ。くやしいけどドキドキさせられる。


「さあ、パトちゃん。ご飯にしましょう」


 私にパトリックの荷物を持つようにいうと、母は彼を台所に連れて行く。


 母さん、パトリックに騙されている!

 私は心の中でそう叫びながら、彼の荷物を部屋の近くまで荷物を運ぶしかなかった。


 特別に豪華な夕食を食べ終わり、私はお風呂場に向かう。パトリックは両親に旅先の話をせがまれ、面白おかしく聞かせているようだった。


「ミヒロ、Can I come in? (中に入っていい?)」


 風呂から上がり、部屋で髪を乾かしているとドアがノックされた。ドアを開けると元気のないパトリックがそこに立っていた。


「どうしたの?」

「ちょっと疲レタ。Can I stay with you tonight? (今夜は一緒にいていい?)」

「……いいけど。ステイだけだから。何もしないでよ」

「OK」 


 パトリックは部屋に入りながらそう答え、ベッドに腰を降ろす。やはり本当に疲れているらしく、顔色が優れなかった。


「大丈夫?逆に一緒にいない方がいいじゃないの?部屋で休んだら?」

「NO. I want to stay with you. (嫌だ。ボクは君と一緒にいたい)」


 パトリックは子供のようにそう言うと隣に腰掛けて私の肩に顔を当てる。


「何かあったの?」


 パトリックの様子は明らかにおかしかった。


「ナンニモ。ただ疲レタ。By the way, How is Nomikai? Was it fun? (ところで飲み会はどうだったの?面白かった?)」


 パトリックは私の膝に頭を乗せ、じっと私を見つめた。なんだか、尋問されているような気がして私は視線を逸らした。


「楽しかったよ」

「I see (そう)」


 パトリックは一瞬何か言いかけたが、目を閉じた。そしてしばらくして寝息を聞こえた。


「ちょっとパトリック!寝ないでよ。重い!」


 私がそう言って体を動かすとパトリックが私の体に手を伸ばす。


「パトリック!疲れてるんでしょ!ちょっと」


 私は体を捻って逃げようとしたがパトリックの力は半端じゃなく、逃げられなかった。


「今日はまじでダメ。生理日だから!」


 私が顔を真っ赤にしてそう叫ぶとパトリックは力の緩めた。そしてベッドにパタンと倒れる。


「全く」


 私が体を立て直し、彼に文句を言おうと顔を覗きこむ。すると彼は顔を隠すようにうつぶせになった。


「大丈夫?」


 心配になって私はそう思わず聞く。


「ウン」


 パトリックはうつぶせのまま、そう返事をした。


 やっぱり今日のパトリックはおかしい。


 私はそう思ったが、とりあえず疲れているようなので寝かせることにした。


「パトリック、歯磨きしたの?」

「シタヨ。You sound like my mother(君はボクのお母さんみたいだ)」


 私の言葉に彼が顔をベッドから出し、くすっと笑う。

 私も今の言葉はなかったなと思わず笑う。


「私も歯磨きしてくるわ。先に寝てて」


 私はそう言って部屋の明かりを消すと、部屋を出た。

 

 パトリックはよくわからない人だ。

 何を考えているか、よくわからない。

 でも、今日は特に様子がおかしかった。


 いつか、私にいろんなことを話してくれるのかな。

 

 それともずっとこうなのかな。


 私はそんなことを考えながら洗面所に向かった。




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